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SAAIの空間設計

「最初に読むSAAI note」第4弾、今回はSAAIの空間の設計についてご紹介します。株式会社オープン・エー代表取締役・馬場正尊氏に空間コンセプトと設計者の想いを語っていただきました。

①プロフィール

馬場正尊氏
株式会社オープン・エー
代表取締役
1994年早稲田大学大学院建築学科修了後、博報堂に勤務。その後、早稲田大学博士課程に復学。雑誌『A』の編集長を経て2003年株式会社オープン・エーを設立。建築設計、都市計画、執筆などを行う。同時期に「東京R不動産」を始める。2008年より東北芸術工科大学准教授、2016年より同大学教授。近作に「Reビルプロジェクト」(2014-)、「Under Construction」(2016)など。

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②SAAI空間との出会い


実はこの新有楽町ビルは前から好きな建物だったんです。外観は窓の形など可愛いですし、60-70年代の曲線の感じや窓の形の装飾が際立っていて、日本の昭和のオフィスビルの中でもすごく良質なDNAを持っているビルだなと思っていました。10Fに降りると時代の面影が色濃く残っている建物で、日本の成長を支えてきた昭和の空気がありました。
ここに全く新しい働くスペースを作りたいとオファーがあり、これは象徴的なことだと思いました。昭和的な働き方・空間で生活してきた日本が全く新しい時代に突入しようとしていて、それがどんな空間なのかを模索している。空間をうまく読み替えることによって、かつての時代からバトンを引き継げる感じがしたんです。日本の高度経済成長期における昭和のカルチャーを尊敬し、継承しながら、ポジティブにハックしていく感じでこの空間に臨もう。空間の痕跡を残しながら新しい時代のレイヤーをかぶせていく、というコンセプトの骨格が固まりました。

③空間コンセプト


空間デザインのコンセプトとして、「HACK OUT」というキーワードで表現しています。「HACK OUT」をそのまま言うと、“あるものをたたき切って、新しいものを作る“という意味なのですが、HACK=アイディアで効果的な解決方法を生むというスラング的意味や、アウトサイダーによるアジト(Hide out)的な場所であるという意味も含んでいます。新しい時代を切り開く人材による新しいモノ・コトを生む場であるというコンセプトが根幹にあります。

④空間の痕跡をキラッと残す


有楽町は、しっかりとした歴史がある場所なので、そこに脈々と流れるものを受け継ぎたいと考えました。また、ビジネス×エンターテインメントの結節点でもあることから、空間の中に色んないたずらとか面白いことを散りばめていって、全体で調和させたい。そんなことを思っていましたね。
リノベーションする前の空間には、入ってまずシャンデリアがガツンとあり、その印象がとても強烈で、見た瞬間にこれは残そうと決めました。これがあるからこの空間は「はっちゃけてもいい」というメッセージになる、そう思ったんです。そして、和室。有楽町のオフィスの中に和室?!という、その存在自体がとてもシュールで面白いので、片面の壁を取り払って和室の断面が見えるような作りにしました。和室を見ながらとか、椅子の配置によって背景を変えながらミーティングやブレストをすると違うものが生まれるんじゃないかと思います。また、もともとあった家具にキャスターがついていたので、大きなソファーもあらゆるフォーメーションに動かすことができました。講義にもミーティングにもリラックスにも使える、様々な仕掛けを散りばめられるきっかけになりました。様々な偶然をうまく捕まえて設計した感じがあります。

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⑤新たに組み入れた物


階段状の劇場型のプレゼンテーション空間です。次の時代の働く空間として、何か面白い発想や出会いなどを生むための実験場みたいなものにしたいという思いがありました。面白い発想は均一な空間からは生まれなくて、ちょっとしたノイズが入った時に、発想と空間がスパークして生まれることが多いんです。だから空間の中に、発想に着火するきっかけや、盛り上がる仕組みをたくさん仕掛けようと思い、「かっこいいプレゼン場を作ろう」ということで完成しました。結果的に、普通のミーティングもみんなここに立ちながらやっているそうで、想像以上の効果があったような気がしますね。

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⑥Bar変態の誕生


我々プロデューサー陣の間で「変態」を集めたいんだよ!と呪文のように語っていた中から、昭和のクラブやBarの空気感をそのまま引き継いだ「Bar変態」ができました。それいいね!やろうよ!と物事が決まる瞬間って、案外Barのカウンターとかで起こるんじゃないかと。あと、客側じゃなくてバーカウンターの中に立ってみたいと思う人は結構いるんじゃないかという発想で、これはSAAIの象徴としてど真ん中に作ろう!となりました。
バックのスピーカーは、スピーカーオタクで業界でも有名な方が音響デザインしてくれました。あれは全部音が出ます。全部まともに音を出したらドンッと音圧でやられるくらいの量が並んでいます。クリエイターの熱量によって見事に空間が加速した部分ですね。

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⑦THROWBACK~棄てられたモノを、再び社会に投げ返す


THROWBACKという家具のシリーズをたくさん配置しています。産業廃棄物にデザインとちょっとしたいたずら心を組み合わせることによって、ゴミを家具に生まれ変わらせるというプロジェクトをやっていて、この考え方はSAAIにぴったりだと思いました。一見きれいにデザインされた照明だけどよく見たら自転車のスポークを利用した照明だ!とか発見があります。新たな時代のクリエイティブって全くゼロから生み出されるというより、既にあるテクノロジーやプロダクトとの新しい組み合わせによって出来上がったりする。一見ゴミのようなものもアイディアでガラッと変わる。そのアナロジーとしてTHROWBACKが置かれています。
他にも、SAAIの空間をつぶさに見て行ってください。プロデューサーのみなさんが今の仕事をするきっかけとなったルーツを掲示しているサイドボードや、活版印刷の活字を抜いたもので作ったテーブルとか、変なものがたくさんあります。

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⑧SAAI空間的「仕事×遊び」


今回のSAAIの仕事の始まりも、仕事仲間というよりもっと違う次元で楽しく集まっている仲間たちという感じでした。そんな関係性から生まれる仕事の方が楽しいし、経験上もうまくいっていることが圧倒的に多い。仕事とか遊びとか日常の境界がどんどんなくなっていっています。SAAIという空間にも、そんな関係性を築く人たちがたくさん集まってくれればいいんじゃないかと思います。SAAIはオフィスでもありBarでもあり落語をするようなエンターテインメントの空間でありサロンであり、積極的にいろんな空間があいまいに溶け合っている状況であってほしいし、だからこそここから新しいプロジェクトが生まれるはずです。
これからの時代は会社に100%所属というカルチャーは薄くなり、複数に所属する形が普通になると思います。そのときに自分が何か一芸を持っていて、それを提供することによって何かが返ってくるという人間関係、仕事関係がスタンダードになる気がします。SAAIは自分の何かを持ち寄って、その組み合わせで新しい行動が生まれていくチャンスの場所。働きに来ると同時に、遊びに来る!という感覚で来て見てください。