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SAAI会員紹介 金子萌さん

今回の「SAAI会員紹介」では、株式会社想ひ人CEOの金子萌さんにお話を伺いました。
Bar変態にてよくお見かけする金子さん。本記事インタビュアーの上野が初めてお声掛けしたときには、原宿での入棺体験チェキを見せてくださり、ご自身で体験し、伝えていく姿にパワーをいただきました。そんな金子さんが一体どのような思いで事業をされているのかをお聞きしました。

プロフィール

金子萌(かねこもえ)
株式会社想ひ人 代表取締役
東京大学教養学部卒業 外資系コンサルティング会社を経て外資系メーカーでシニアブランドマネージャーとしてマーケティング業務に従事。若年性のパーキンソン病と認知症を患う父親を10年以上在宅介護している経験から「在宅介護者のケア」事業で起業。 元ヤングケアラーとしてのドキュメンタリーがBBCやTBSで放映されるなど、発信活動にも積極的に取り組む。

点在するケアサービスの情報を、在宅ケアラーにどう届けるのか。

上野:普段はどのような事業をされていますか。

金子:私たちはおもに『シニアのためのテーマパーク  シルバーニア』というオンライン・オフラインのプラットフォームを作成しています。オフラインでは、介護施設の紹介や介護を支えるケアプロダクト体験・購入、そして病気や介護・相続についての相談ができる常設の店舗を、横浜に作っています。年内の開設を目標に、現在は定期的にイベントを行っています。オンラインではECサイトやウェブメディアなど、すべてを含めた総合プラットフォームを構築しています。いわばキッザニアのシルバーバージョンとして、「シルバーニア」としています。


上野: オフライン、オンラインの両軸で事業を進める際、苦労したことはなんですか?

金子: 事業をはじめた最初の一年間はものすごく迷走していました。いろんなタイプのアプリケーションを作っては、ユーザーさんに使ってもらっては、壊して、の繰り返しでした。在宅介護の分野は、そもそもビジネスモデルの構築が非常に難しいんです。その中でも、私はtoC向けで、マネタイズも少なくして、在宅のケアラーを救いたいと思っています。ですが、ケアサービスが「ナイストゥハブ」(なくてもよいが、あると良いもの)にならないところにずっと悩んでいました。

上野: ユーザーニーズを見つけるまでの道のりが、ものすごく長いですよね。
金子: そうなんです。私もまずは70人の方にインタビューすることからはじめました。

上野:それはまさに、在宅で介護されている方ですか。

金子: はい。あと、ケアマネジャーさんですね。でも、インタビューだけでは見えてこなかったんです。介護の情報が点在していること、介護する人と支える人に、介護を支えるプロダクトやサービスが届いてないことが、私たちの一番の課題だと気づきました。そして、プロダクトやサービスをケアラーに繋ぐプラットフォームを作ることが、シルバーニアの概要です。でも、介護のことを少しでも知っていたら、誰でも「プラットフォームになるサービスを作る」ことが絶対必要だと考えます。しかし、今まで数多くサービスが出ているのにうまくいっているものは、あまりありません。

上野:それは総ユーザー数が増えないからでしょうか。

金子:そうですね、加えて、マネタイズが難しいのも理由です。一つ目に、プラットフォームを作るだけでは、サービスの必要性にユーザーが気づいていないことがあります。二つ目は、コスメやグルメなど、趣味や身近なものと比べると、介護の話は自分から発信したいような楽しいトピックではないことがあります。趣味に関する特化型情報サイトであれば、楽しくてずっと見ていられるから、滞在時間が長くなりユーザーがついてくる、というメディアやECサイトのアプローチが可能です。今の2点から、オンラインやインタビューからでは、ユーザーのインサイトをより深く知ることができないと思ったんです。ちょうどこの時、スタートアップとして支援プログラムに採択されていました。事業拡大を目指してビジネスモデルを探りはじめたのですが、頭で考えてきたモデルを実際に作って、ユーザーに使ってもらうことが厳しいと、この半年で分かりましたね。


上野:
それからはどのような活動をされたのですか?

金子:マネタイズは、介護施設や老人ホーム、ケアプロダクトの紹介、さらに、シニア市場に参入してきた企業に対するコンサルティングを検討しています。 シルバーニアの一部を慶応大学が立ち上げた『2040独立自尊プロジェクト』中で進めています。プロジェクトを通じて、三菱地所株式会社様や株式会社コーセー様など多くの企業の方々と出会いました。引き続き、イベント等の活動を通して、シニア市場、ケアラー市場にさらに進出していきたいです。この1年は、イベントや、コンサルティング活動を通じてインタビューだけでは知ることができないより深いインサイトを探りつつ、オンライン・オフラインのシルバーニアの構築に取り組んでいきます。


上野: 介護業界に対する認知が増える活動ですね!

金子: おっしゃる通りです。私も介護経験があるものの、経験数はさほど多くはありません。イベントを通じて生のユーザーさんの声を聞きながら圧倒的なインサイトを得たいですね。今後は年内の追加の資金調達とシルバーニアのオフラインの店舗開設を達成することが目標です。

介護業界の壁をどう乗り越えるのか?

上野: 介護業界特有の苦難や、障壁はありますか?

金子: ”介護保険”という制約の壁があります。国が7~8割負担をしてくれることで、通常の資本主義にはなりません。そのため、民間が得られる介護報酬はすでに上限が決まってるわけです。どんなに小さな介護施設でも、介護報酬は同じになる。介護業界としては、そこまで収入は増えない中で改善するモチベーションはあまりないんです。そうすると、コストカットする対象は人件費になります。加えて介護者は不足していく傾向にあるので、民間として改善できる部分が非常に少ないです。

もちろん介護保険は全く使わずに、全額自費で払うという保険外サービスはあります。ですが、ユーザー側からすれば介護保険で1~2割負担でお願いできるので、わざわざ自費で払わないんですよね。美味しい介護食やお洒落な介護プロダクトも全て保険外サービスになります。そもそもこのようなプロダクトを知る場所がないんです。そうすると、認知が拡大しないので、売り上げも上がらず、新規参入も減ります。新規参入が減ると、市場が小さくなるので結果的に悪循環なんです。介護保険制度は、良くも悪くも全ての国民が、介護が必要になった場合に、低価格でサービスを受けることができます。とても良い制度ではありますが、一方で、制約を生んでいる部分も非常に大きいです。結果的に、通常の民間企業は保険外サービス市場を大きくしていかないといけないですね。

上野:実際にケアラーとして介護していた時と比べて、最近の介護業界に変化はありましたか。

金子:ここ2~3年で『ヤングケアラー』という言葉に対して注目度は大きくなってきていますよね。一種のトレンドじゃないですが、徐々に社会に周知されてきてるのは非常にいいことですね。

個人的な変化は、介護を始めたばかりの時は本当に目の前が真っ暗でしたが、11年経ってみると、そんなに思い込む必要はなかったんだなと思います。でも当時の私たちに対して、今あるサービスがあってほしかったですね。今でこそ、介護についてオープンに話をしてますが、3年前までは誰にも言えなくて、友達や、大親友にもずっとひた隠しにしてたんです。すごい引け目を感じていました。介護に対する目が、もう少しポジティブになって欲しかったですし、誰かに相談していれば、介護についての情報をもっと知ることができたと思います。自分が知りたい情報を知らない、調べられないことが一番の課題だと気づいたことは大きな変化でした。

事業を継続できるモチベーションのありか

上野:介護は自分のことだけで精一杯になってしまう人も多いと思います。そんな中、他のひとたちも助けたいと、「起業」を選んだ理由はなんだったのでしょうか?

金子:実は父親が病気になった理由を見つけたかったからです。私も大変だけど、やっぱり44歳で罹った父親が一番苦労していました。実際に、私が介護していた10年間、「なぜこんなに苦労しないといけないのか」と、ずっと思ってたんです。悔しかったですね。もし私がその時に、今みたいな事業で
1人でも多くのケアラーを救うことができたら、自分たちが頑張る甲斐も意義も生まれる気がしたんです。

上野: 金子さんの事業を継続できるモチベーションはなんでしょうか。

金子: 一番は楽しさですね。起業家の仕事は自分で描いた大きな、夢に向かって仲間を集めて実現していくことです。だからこそ、活動自体が楽しいと感じます。チームの中でもフルタイムコミットは私だけで、事業の全てを1人で考えています。大変ではありますが、すごく楽しいです。
私はたまたま介護を実体験がしていたから今の分野にいますが、もし実体験がなくても何かしらやっていただろうなと思います。子育てとかフェムテック分野をやっていたかもしれないですね。

ご両親とハワイに行った時のお写真

同じ立場の起業仲間に出会える
コミュニティ「SAAI」

上野:金子さんにとって、SAAIはどんな場所ですか。

金子: SAAIは、楽しいです!

上野:まず出てくるのが『楽しい』なんですね(笑)。

金子:何が楽しいかと言われれば、起業仲間がたくさんできたことです。
まず、新しいメンバーという意味では、SAAIのBar変態のチーママさんが今のチームメンバーとつないでくれました。シルバーニアの企画を一緒にしている別のメンバーも、紹介してもらったり、あとは、SAAIで知り合ったデザイナーさんと意気投合して、デザインの相談をしたりとか、事業の推進に繋がるネットワークをいっぱい得ることができました。

何より、全く違う種類の事業に携わっている方でも、悩みを分かち合える起業家に出会えるのが嬉しいです。起業家の悩みって、本当に「孤独」なことだと思うんです。代表とメンバーとでは、どうしても抱える重みが違って、完全には、共有ができないんですよね。そんなときに、SAAIにいる事業は違えど、代表の立場の方に相談できて、一緒の立場で頑張る仲間がいることは、すごいありがたいですね。

※本文内でいう「変態」は生物学的メタモルフォーゼの意。

SAAIで仲の良い会員さんとご一緒に

今回、インタビューを受けてくださった金子萌さん。起業家として、CEOとしての楽しさや悩みを赤裸々に熱く語っていただきました!先日シルバーニアの資金調達を達成された金子さんの、さらなるご活躍を応援しております!


▼株式会社想ひ人 

・インタビュー・執筆上野七生(うえのななみ)