見出し画像

喫茶店の隣の席

私にはよく行く喫茶店がある。年季の入った古びたビルの地下2階。1番はずれにある喫茶店である。

口癖のように「毎度ありがとうございます」と繰り返すおばあちゃん。常に独り言を呟くおばあちゃん。帽子をかぶってせっせと注文を取って品を運ぶおじいちゃん。

そんな個性の強い人たちが経営する喫茶店にはお客さんも個性的である。5つか6つくらいの種類のタバコを吸い比べている大学生。奇抜な格好をしたバンドマンらしき男女4人組。インスタで見つけてきたであろう純粋そうな女子2人組。おじいちゃんおばあちゃんを和やかに見つめる若いカップル。常連らしい貫禄があり、新聞を真剣に呼んでいるおじいさん。

この喫茶店はこの人たちがいない限り成り立たないと思っている。私はいつもここに1人で行く時、隣の席の人はどんな人だろうとワクワクしながら向かう。所狭しと並べられたアンティークな机と椅子にはいつも人がいっぱいいる。偶然、隣の席になった人たち。一期一会の出会い。直接話しかけはしないけど、この空間を共有していて1番近い隣にいること。これが人生なのかなぁとか考えながらタバコを吸う。

私は大抵、18時くらいまでそこにいる。18時くらいになると人が一気に減って今まで賑わっていた空間がしんと静まりかえる。嵐の後の川の流れが穏やかになるように。その時に独り言を呟くおばあちゃんは「みんな帰っちゃって寂しいねえ」とこぼす。うん、寂しい。この喫茶店のこの空気は明日にはもう無い。明日が来る確信もない。もし明日が来たとしても今日と全く同じお客さんの構成は2度とない。おばあちゃんはそのことに寂しいと言ったのではないかな。

人生を知り尽くしたおばあちゃんは常にその寂しみと共に日を終え、寂しみを忘れずに、また明日の新たな出会いを楽しみにしてるのじゃないかな。そんな生き方したいなぁと思って私も眠りに落ちる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?