これまでのあらすじ(息子就学前)

思い返せば息子ソウタ(仮名)は本当に寝ない子だった。
とにかく寝ない。寝かしつけに1時間2時間かかる幼児だった。しかも夜中にやたらと起きる。夜中に起きて泣き叫ばれてもわたしが起きて対応できないことが多く、夫の睡眠時間が著しく削られ、夫婦揃って体調を崩した。折しも第二子の妊娠が判明し、わたしは子供を育てながら正社員として働くことを諦めた。
娘の出産のときは夫の実家にお世話になったが、とにかく寝ない息子には義父母も大変手を焼いた。義父が寒い中毎日ナイトドライブに連れ出して寝かせてくれた。夜の電車の車庫、パチンコ屋の電飾、ショッピングモールのクリスマス電飾、カーステレオから流れる安全地帯。娘の産前産後の記憶は寝ない息子の記憶でもある。

幼稚園入園時にはひらがなと数字が読めるようになっていた。時計の読み方もすぐに覚えて、同じクラスの子に教えていたらしい。
そして日常会話が全部数字。なんでもかんでも数字。
数字ばかりが出てくる会話にわたしがまいってしまい、年少の冬からくもんに行かせることにした。あっという間に足し算と引き算を覚え、日常会話が全部足し算と引き算になった。

年中組に進級したらチックが出るようになった。不自然にまばたきの回数が多い。
チックが出なくなったなと思ったら今度は吃音が出た。会話を始めるとき、一語めの最初の文字で会話が詰まる。
こここここれはね。
おおおおおかあさん。
それまでずっと滑らかに話していたのに、突然どうしたんだろうと思った。
2学期に入ると癇癪がひどくなり、自分の頭を殴ったり、頭を壁にぶつけたりするようになる。悩みに悩んで区の発達支援センターに電話をかけて相談に乗ってもらい、K式の発達検査を受け、言語聴覚士の先生との面談を設定してもらった。
K式の結果、発達に遅れはなさそう、ただ設問によって得意不得意に差がある。例えば今火事になったらどうする?と話すと「先生、今は火事は起きてないから大丈夫だよ」と返事をする。仮定の話、目の前で起きていないことを想像する、ということが難しそう。
言語聴覚士面談。吃音はその時点で治す方法が確立されていない。成長につれて軽快する例もあるので、今は様子を見ましょうとのこと。
年長からのグループ療育を勧められて見学に行ったが、息子に療育が必要とは思えず、お断りした(今思えば受けておけばよかった)。

年長組に進級。妹が入園してきて、兄としての責任感が芽生えたからなのかわからないけれども吃音が多少落ち着く。
クラスに問題児がいて、担任の見ていないところでクラスのお子さんが無差別に殴られており、息子も殴られるメンバーに入っていた。発覚したのは12月。息子はずっとひとりで耐えていた。
クラス内では「ちょっと変わってるけど物知りな子」というポジションを獲得。穏やかな性格で他人を差別しないからか、「人気者ではないけれど意外と好かれている」という感じ。前述の問題児も「ソウタは何でも知っててすごい」と言っていたことをわたしは知っている。じゃあ殴るなよって話なんですけど。

幼稚園の作品展、「直線と円を組み合わせ、隣り合ったスペースには違う色を塗る」というルールで作った基礎塗り絵の作品がこれ。

作品を見てびっくりした。こんなに細かく色分けしてる子、ほかにいない。
息子は今でも図工の課題にとても時間のかかる子で、それは「課題を適当に済ませる」ことができない彼の性分によるものなんだけど、年長の時点でその性分は存分に発揮されていて、これを制作中にクラスのお子さんに「ソウタおまえバカじゃねえの?」と言われていたらしいと後から聞いた。

就学前検診。面談を担当してくれたのがたまたま養護の先生で、吃音ではなく、まさかの「発音が甘い」という理由でスクリーニングされ、校長面談に。校長先生にことばの教室の存在を教えられ、教育センター面談となる(居住地は未就学児は発達支援センター、就学後は教育センターと管轄が分かれている)。教育センターでこれまでの経緯を話したところ、「発音や吃音については現時点でことばの教室へ通級する必要はない」「でもちょっと繊細なお子さんのようなので、小学校でうまくいかないことがあるかもしれない。何かあったらいつでも教育センターに相談して」と心強い言葉をいただく。
このときの養護の先生には就学後にも大変お世話になっていて、保健室登校を続ける息子と保護者のわたしを今も支え続けてくれている。校長先生は代わってしまったけれども、当時の校長先生はスクールカウンセラー出身で発達障害に大変理解があり、就学後のことをいろいろと教えてくださった。わたし自身も教育センターまでつないでもらったことで気持ちが軽くなる。

就学前の息子、こだわりの強さなどは散見されたものの、集団生活では特に問題を起こしたことがなかった。知能にも遅れがなかったため、相談先でもだいたい「様子見で」という結論になっていた。なので専門の病院を受診することは特に考えていなかった。「この子はほかのお子さんとはちょっと見えてる世界が違うみたいだけど、まあ特に問題も起こしてないからなんとかなるだろう」と。今思えば、この時点で受診していたら何か違ったのかもしれないけど。

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