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ある日常④

「びはいんじゅう…」
「びはいんじゅう…?」

behind you…
後方注意…

たぁ君…?
特徴のあるイントネーション。
確かに彼の声。

私は、錆のついた手で眼鏡をかけなおし、闇色の続く後ろを振り返る。
煙突とボイラーの隙間から漏れる光が、風とともに映写機フィルムのようにちかちかと動いている。

「ごぅ あろん…」

いつのまにか青年となったたぁ君は、私の手を掴んで座るように促す。

機関車は速度を上げた。D51は鈍い汽笛を数秒ならした。

―――走っている!

枕木の衝撃はほとんど感じられないし、積んでいる山と積まれた石炭のひとかけらも滑り落ちては来ない。しかしD51のスピードはどんどん上がり続けている。

汽笛をもう一度鳴らし終えて、中年の機関士はいった。

「彼は若いのにすごいですよ。この勾配を、何万トンの鋼材資材を積んでいても、簡単に登ってしまうんだからなァ。この荒馬を乗りこなせるのは世界ひろしといえども彼しかいないだろうなァ…」

中年の機関士は横顔に笑みを浮かべたのちこういうと、青年の機関士は英語で私たちに喋りかける。

「Look! Be around you(廻りを見てごらん)」

機関車はいつまにか空を走っていた。満天の夜空を。