果物の季節

冷蔵庫でうたた寝をしている、桜桃だと思い込んでいた少女の頬っぺた色の食べ物が、本当の本当はいか明太子だったことにより23時の世界は崩壊する。行くあてのない苦い紅茶を喉を鳴らして飲み干せば、台所は完成するけれど、その先に残るものといえば茶渋とペンギンだけである。
台所に生息するペンギンは意地悪だけど根はいいやつだから、と人々に言われる。でも、私は知っている。桜桃をいか明太子に変えたのはこのペンギンたちだ。彼らはただの意地悪だ。

果物の季節がきたのだ。盛大に祝おう。
桃の皮を野生の手で剥き、西瓜を齧りながら長電話をして、パイナップルの噂をしながら、奪われた桜桃を取り戻すのだ。
高らかにそう謳えば私たちは果物の季節の住人になれます。安心してね。
果物の季節の住人になれたら何をしよう。みんなを騙してミックスジュースにしてしまおうか。練乳かき氷の上でみんなと楽しく暮らそうか。
それとも全部全部やめて、夏野菜の季節に逃避行しましょうか。
その前にペンギンをシティホテルに閉じ込めなきゃね。私がいか明太子で彼らを引きつけるから、あなたは彼らを捕まえて。せーの。

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