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【感想】黄色い家

良い悪いの前に、自分の中にバチッとはまってしまう小説だった。
たまにこういう事があるから油断ならない。
いや自分はおっさんで、10代の女の子とはかけ離れた存在なんだけど。
そこは御免だけど。

だって物語の最初の場所が1999年の、東村山の崩れかけの古い文化住宅なんだ。
その情緒感をよく知ってる。大体どのあたりにあるのかも分かる。
自分も幼少期そのあたりで過ごしたから。

そこで、ネグレクト気味の片親のもと、食うや食わずでほとんど何の文化にも触れずに育ち、高校も中退し、年齢を偽ってスナックで働き始めた17才の女の子が、怪しい客が連れてきた、似たような寂しい境遇の女子高生がカラオケで歌い始めたX JAPANの「紅」を初めて聴いて、ぶっ飛ぶんだよ。

いや、そりゃそうだ。こんな出会い方で「紅」初めて聴いちゃったら、誰だってこうなる。
すごいすごい!ってなって、実は同年代で、従業員と客だけど、なにも関係なくなって、最後みんなで抱き合って、分かれる。
ひー。良すぎる。

そんな物語の始まりで。
社会に居場所のない女性たちの、どこにもたどり着かない共同生活が始まる。
導入が不穏だったけど、そこにはちゃんと幸福があり、破滅がある。
それは確定していた破滅だけれども、ちゃんとしっかり破滅するもんで、
良かったっていうことでもないんだけど、なんだろ、とにかくちゃんと終わる。ピリオドが付く。
そうか。うん。と。

例えば日々流れていくニュースのなかに、ちょっと引っかかる小さな記事があって、でもすぐに忘れてしまう。そういうひとつひとつの裏側には人が必死に生きていて、それは結果として犯罪として裁かれることになってしまったのかもしれないけれど、でもそこにはどうにもならない境遇があり、そうとしかできなかった人達がいる。
そういう事を考えさせられるお話しでした。

いや、最高。

オーディブルで聞いたのだけど、この大内櫻子さんの朗読、ちょっと、朗読の最高峰を聴いてしまった感がある。
すごくて。同じ人の声なのに、それぞれ全く別の人格がしゃべってる感じがする。
ひとつの家の中に4人の女性がいて、それぞれ感情をくるくる変えながら会話するのとか、圧巻。
これはオーディブル版を勧めたい。

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