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横断歩道上の赤信号無視横断者

二訂版(補訂)基礎から分かる 交通事故捜査と過失の認定

第7講「車道上における車両対歩行者事故-横断歩道上-」読了

ここは勘違いしていた。
140字に収まらず、しかも重要と思うので、記事にまとめておく。

関連する道路交通法の条項

関連する道路交通法、38条1項を示す。

車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

道路交通法38条1項

条項は大きく、前段と後段に分かれる。
後段は、横断者がいる場合に横断歩道手前で一時停止し、歩行者の横断を妨害しない義務と言える。
そして前段は、後段を実現するために、仮に横断者がいても大丈夫なように事前に速度調整する義務と言える。横断者がいないことが明白な場合のみ、前段の義務は免除される。

赤信号無視横断者がいる場合の法的解釈

まず、車両側が青信号、歩行者側が赤信号の横断歩道を考える。

車両が青信号、歩行者が赤信号
車両側が青信号、歩行者側が赤信号

通常、歩行者は信号を守るものと信頼してよい。これは信頼の原則と呼ばれるもの。そのため、このような横断歩道に接近する際、道交法38条1項前段に定める速度調整義務は、通常は生じない。「……横断しようとする歩行者……がないことが明らかな場合」と言えるため。

ここに、赤信号無視で横断しようとする歩行者が現れた場合を考える。

車両が青信号、歩行者が赤信号  車両が青信号、歩行者が赤信号、赤信号無視横断者あり
車両側が青信号、歩行者側が赤信号
赤信号無視横断者あり

歩行者が信号を無視して横断を開始しようとしている場合、あるいは既に横断中の場合はどうなるか。この場合、車両側が青信号だろうと、歩行者側が赤信号だろうと、道交法38条1項前段が適用される。横断歩行者の出現により「……横断しようとする歩行者……がないことが明らかな場合」ではなくなったため。

赤信号をあえて渡ろうとし始めた歩行者は、引き続いて渡り切ろうとすることが予見される。そのため、この横断者は「進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者」にもなる。これにより38条1項後段が適用される。つまり、青信号の車両には一時停止義務が生じ、一時停止の後にも、赤信号無視歩行者の横断を妨げない義務を負う。

書籍の該当箇所を抜粋する。

……、たとえ車両用対面信号機が青色で、歩行者用対面信号機が赤色であっても、1項前段の速度調整義務や後段の一時停止義務は免除されません。ただし、相手が歩行者の場合も信頼の原則が適用されることがあり、信号機の設置された横断歩道においては、車両の運転者において、「歩行者は信号に従って横断するだろう」と信頼することが相当ですから、歩道上を横断歩道に向かって歩いている歩行者や横断歩道手前の歩道上に立っている歩行者がいたとしても、彼らは信号を守り、赤信号を無視して渡ってくることはないだろうと信頼してよく(大阪高判昭63.7.7。札幌高判昭50.2.13等)、よって、「横断しようとする歩行者」には当たらず、「横断しようとする歩行者がいないことが明らかな場合」ですので、速度調整義務は課されません。
 他方、先ほど申し上げたように、1項後段も、横断者側の信号表示に関する規定はありませんので、歩行者が赤信号に従わずに横断しようとしているときや現に横断中の時は、横断歩道の手前で停止しなければなりません

二訂版(補訂) 基礎から分かる 交通事故捜査と過失の認定』P.189

さらに加えると、赤信号無視の歩行者に対してクラクションを鳴らして歩行者の横断を思いとどまらせ、その側方を通過する行為は道交法38条1項後段違反となる。この例は、書籍P.190にも記載されている。

なお、赤信号無視横断者の発見時、横断歩道にすでに近接しすぎている場合、横断歩道手前での停止が間に合わないかもしれない。このあたりは紹介書籍の主題である過失の認定に大きく関わる。ただし、それはこの記事の主題からは外れるため、この記事では記載を省略する。

法的解釈の根拠

なぜ前記のように解釈するのが妥当か。それは38条2項との対比にある。38条2項を示す。

車両等は、横断歩道等(当該車両等が通過する際に信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等により当該横断歩道等による歩行者等の横断が禁止されているものを除く。次項において同じ。)又はその手前の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、その前方に出る前に一時停止しなければならない。

道交法38条2項

38条2項には、上記太字で示される説明がある。この太字部分により、信号で歩行者の横断が禁止されている場合を、38条2項は除外している。

これに相当する記載は、38条1項にはない。つまり、信号で歩行者の横断が禁止されている場合にも、38条1項の義務は課せられていることになる。


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