11月28日に大分194キロ死亡事故の地裁判決が出た。その地裁判決に対して思うところをまとめた。以下のつぶやきの補足でもある。
なお、交通法規や法の専門家ではないので、正確性は紹介書籍、さらに正確性を望むなら弁護士相談などで補完してほしい。
はじめに
事故の概要は省略する。詳しい解説をしていると思われる報道を紹介し、それに対する周辺情報と私見を記す。
報道での解説
FNNプライムオンライン(Youtube)の2024/11/28を紹介する。裁判結果に関する報道を確認したところ、ここが一番詳しいと感じた。
上記の部分は、動画だけでなく報道記事にもあった。
そして以下に続く部分は、Youtube動画でしか説明されていないようである。
令和4年の裁判とは
上記の説明に「令和4年に東京高裁が示した基準」とある。下記のサイトに基づくと東京高判令4.4.18のようである。
裁判例検索には掲載されていない。法律情報総合オンラインサービス「Westlaw Japan」を利用することで調べられると思うところ、法の実務家でもない個人が利用するにはハードルが高そうである。ベーシックパッケージの「判例全分野」に含まれていそうであるが、基本コンテンツ利用料の説明がないように見える。
当方所有の以下2書籍に掲載はなかった。書籍①は、判決前に発売されているので、掲載がないのも無理からぬことである。書籍②には横浜地判令4.6.6が掲載されているものの、それより前である東京高判令4.4.18は掲載がなかった。
その他の情報を確認したところ、どうやら『判例タイムズ1502号』p.116に掲載があるようであり、現在取り寄せ中である。もっとも、この情報を知った元サイトに判決の詳細が記されている。以下のサイトである。
過去の判例に照らして
記載されている内容を見るに、『ケーススタディ危険運転致死傷罪 第3版』にも同様の記載がある。書籍では、東京高判平22.12.10と福岡高判平21.10.20を紹介している。これらの判決を概略だけ記す。
前者は、限界旋回速度に近い速度でカーブに進入時に、ハンドルを切りすぎて内小回りとなったことによる事故である。後者は、限界旋回速度に近い速度でカーブに進入し、カーブ終点でハンドルを切りすぎるミスをして対向車線にはみ出し、態勢の立て直しのために逆ハンドルしたところ横すべりしたことによる事故である。
両者、判決の肝となるであろう部分は以下である。
これらに対し、書籍では以下のように締めている。
上記、東京高判平22.12.10と福岡高判平21.10.20、それから東京高判令4.4.18も、カーブにおける事故での裁判である。しかも進路逸脱を伴うものである。それがゆえ、今回のケース、進路逸脱を伴わない危険運転致死傷罪の成立は斬新と感じる。
私見
その1:今回の裁判を見て
前記のとおり、今回の裁判の斬新なところは、進路逸脱を伴わない場合でも危険運転致死傷罪が成立するとした点にある。その点、やや疑問に感じる。それは、従来の判決とは危険運転致死傷罪の適用の性質が大きく変わっているように見られるからである。
まず前提として、以下を知っておく必要がある。これは、危険運転致死傷罪の条文中の「よって」を説明するものである。この「よって」は、因果関係を表す常套句である。条文と書籍解説を並べて示しておく。
高速度類型における実行行為の危険性とは、「進行を制御することが困難な高速度」であり、「思い描いた進路に沿って進行することが困難な高速度」だった。
そして従来の考えでは、その「思い描いた進路に沿って進行することが困難」ということに内在する危険性が死傷結果を引き起こしていると評価できる限度で死傷事故との間に因果関係が認められていた。だからこそ、思い描いた進路に沿って進行することができなくなった、つまり進路逸脱の場合に限定して高速度類型が適用されていた。
今回の裁判では、「思い描いた進路に沿って進行することが困難」ということに内在する危険性ではなく、「思い描いた進路に沿って進行することが困難」と認定されるような高速度に内在する危険性が死傷結果を引き起こしていることを以って因果関係を認めたということになると思う。
つまり、「思い描いた進路に沿って進行することが困難」な高速度とひとたび認定されれば、死傷結果との因果関係を検討する段階ではもはや「思い描いた進路に沿って進行することが困難」であるかは関係なく、高速度ゆえの対処困難性によって因果関係は成立すると判断されたように見える。
まとめると以下の図式だろうか。
なお、前記判断の前段、制御困難性を考える際には対処困難性を考慮しないということは、以下から読み取れる。
そして……
上記の点、死傷事故との因果関係の判断において、制御困難性を考慮しなくてよいのかという点、これを前掲書籍の以下の記述に照らすとどうも疑問に感じる。
その点が、過去のつぶやきの疑問である。
その2:過去の記事に照らして
別の説明を。
過去の記事で以下のように書いたことがある。
この部分「危険運転行為の危険性」も変わることになる。①「単独でも事故を起し得る危険性」だけでなく、「そんな速度で接近する他者は存在しない」という②「他者の予想を裏切り、他者の事故を誘発する危険性」でもあると変化した判決といえる。それどころではなく、そのような高速度になれば①②は無関係に危険運転致死傷罪が成立することになったともいえそうに思う。
上記のように、性質がかなり変わる判決内容である。そのため、本来は別の危険運転類型とする立法での対応が適切と考えている。それは過去の記事で以下のように記した。
聞きたい方々の見解
城祐一郎氏
『ケーススタディ危険運転致死傷罪第3版』の著者である城祐一郎氏が、今回の判決をどのように捉えているかは気になるところである。
以下は裁判前のもの。
城祐一郎氏は妨害運転罪の成立を検討すべきと考えているようであり、『ケーススタディ危険運転致死傷罪第3版』でも前記「“危険”か“過失”か 「猛スピード運転」と死亡事故」でも触れている部分がある。今回の裁判では妨害運転は不成立と判断されている。この記事は高速度を念頭とした記事であるため深くは触れないが、ここも聞きたいところである。
星周一郎氏
報道では星周一郎氏の名前がしばしば見える。以下の場所にもコメントがある。
前掲書籍に掲載されていた以下の点を、今回の判決を踏まえて、もう少し掘り下げて聞いてみたいところである。
『裁判員裁判時代の刑事裁判』は共著のようであり、「危険運転致死傷罪の要件解釈のあり方と立法の動向」の章全体が星周一郎氏によるものとなっている。この書籍も気になるところである。
最後に
被告人が反省していることを考えると、おそらく控訴しないのではないかと思う。この裁判結果で確定することになるのではと思う。
加害者や被害者遺族のことを抜きに考えれば、この裁判結果をどのように考えるか、高裁や最高裁の考えを聞いてみたいところではある。ただしその観点を、この裁判の控訴審や上告審で聞く必要はない。
これからはこの裁判基準で危険運転致死傷罪が争われるケースが増えるものと思う。争う被告人が現れれば、高裁や最高裁に進む可能性も増えるものと思う。
最後に、世間が重要な裁判と認識しているこの裁判の判決文を、裁判例検索で公開してほしいところである。
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