金沢市が抱える都市の問題とこれから
金沢のバスを利用したことがある人ならば異常な複雑さに惑わされただろう
けっしてそれは「行先が複雑でわからない」といったよくある問題ではない
いまから筆者が主張しているいくつかの異常な問題を取り上げる
1章-支払い方法が複雑!!!!!
金沢市のみならず奥能登、能登、白山(白山、野々市)、加賀(小松、加賀)に支社を持つ北陸鉄道バス。
その路線バスネットワークは石川県をも超え富山県小矢部市までも伸びる。本体の北陸鉄道は2つの鉄道線を持ち旅行業の北鉄航空も抱える名鉄グループの中小私鉄だ。
そんな北陸鉄道独自のICカード「ICa」の歴史は比較的深く、JR東日本の交通系ICカード「Suica」が登場した3年余りあとに日本海側初のICカードとして登場し、今年の12月1日に誕生20周年を迎える。
そんな会社だが交通系ICカードには一般路線バスには対応していない。
その理由としては交通系ICカードの運用費用の高さがある。
その例として熊本県内で交通事業を行う5社のバスに搭載された900台の交通系ICカード読み取り、決済機器の更新費用に12億円超が係るが、クレジットカードのタッチ決済に切り替えた場合その費用は7億円程までに圧縮される。
また広島では広島交通が提供する交通系ICカード、ICOCAに片乗り入れを行っているPASPYも機器更新に多額の費用がかかることを理由の一つに上げ、それを廃止し新乗車券システム「モビリーデイズ」を導入する。
画像引用元:https://www.hiroden.co.jp/topics/2023/pdf/1023-newticketingsystem/newticketingsystem.pdf
最近の話だと熊本県内の交通事業者が交通系ICカードの運用を年内にも辞め、クレジット決済を導入する指針を出し、クレジット決済と熊本県独自のICカードの「くまモンのIC CARD」の2枚体制に変えることも記憶に新しい。
石川県の北陸鉄道バスもまさに同じで今年度中にも一般路線バスにもクレジット決済を導入し今までのICaと併用して運用する予定だ。
(ICaは北陸鉄道の、Suicaは東日本旅客鉄道の登録商標です)
そうなった場合金沢市内の公共交通機関の決済方法をまとめると、
西日本JRバス:交通系ICカード
北陸鉄道(城下まち金沢周遊バス):交通系ICカード&クレジット決済
北陸鉄道(一般路線バス):ICa&クレジット決済
北陸鉄道(北鉄電車):現金(ICaは定期券のみ対応)
IRいしかわ鉄道:交通系ICカード
JR:交通系ICカード(七尾〜和倉温泉〜穴水はICカード非対応ののと鉄道線の為不可)
となる。あまりにも複雑過ぎるのだ。せめてバス事業者間では決済方法を一種類ぐらい統一してほしい。
実際私が北鉄路線バスに乗っていると毎度のように観光客と思われる人がICaリーダーにスマホをこすりつけてる光景を目にする。
運転手が気だるそうに「スイカ使えない」と小声で放送する。
インバウンドの場合は「NO IC CARD」。
あまりにも両者とも可愛そうではないか。
そのあと観光客が「別のバスでは使えてたのに〜〜」と声を漏らす。
そりゃそうだよな。複雑すぎるもん。
2章-バスの遅れがひどい!!!!
そもそもバスは遅れる乗り物。しかし城下町金沢はその度合が違う。
近江町市場から香林坊を通って片町、広小路に至る金沢の中心街、百万石通りをご存知だろうか。この通りに面する建物は立派な新聞社のビルや香林坊大和や金沢エムザ、東急スクエアといった商業施設、雑居ビルが連なる立派な都市の顔をしているのだが、道路はそうではない。全然。
バスが3台連なりシェアサイクルと自家用車の往来も大変に激しいこの道路は『2車線道路』である。
北陸の道路事情は運転が粗く流れが早いことで知られるがそれでも日中は常に渋滞気味だ。
朝夕には片側一車線はバス専用道になるのだがタクシーや荷捌き車はほぼ守らず路肩停車していたり守らない自家用車も散見され、道路によればそんなの知ったことかと言わんばかりにバスレーンが自家用車で渋滞しているところもある。
また後の話にもつながるが金沢市交通政策課によってレーン時間外にバス優先レーンとしてマイカーはバスが後ろから来たら第二車線に移動するよう求める社会実験が去年に一ヶ月と今年の10月から2ヶ月間予定されている。
6キロ位バスで移動するのなら15分程度は遅れると見積もっておいたほうがいいだろう。
都市の空洞化
郊外に多数出来たロードサイド型店舗や大型商業施設によって休日、金沢のマチナカで過ごす人は減少したことは想像に難くない。
また金沢特有の道路の弱さからマイカー所有率が1.5近くまで上る車社会石川県民が渋滞に悩まされ、郊外の大型商業施設では取られない駐車料金が傷になり金沢を忌避するになったことも考えられる。
金沢の新交通システム
モータリゼーションの流れを受け1967年に路面電車(北陸鉄道金沢市内線)が廃止された金沢市ではその路面電車、代わりになる基幹交通を整備し直そうとしている。
金沢市は市内線廃止から僅か9年後の1976年(昭和51年)から新しい交通システムの検討を始めており、今までに
モノレール
地下鉄
ガイドウェイバス
LRT(レール・ライト・トランジットの略称。路面電車)
BRT(バス・ライト・トランジットの略称。連接バスやバス専用道を備える交通システム)
の機種で検討されてきた。
どこに路線を設けるかは
野町駅〜広小路〜香林坊〜武蔵ヶ辻〜金沢〜金沢港
有松〜広小路〜香林坊〜武蔵ヶ辻〜金沢〜金沢港
有松と野町駅〜(野町バス停付近で接続するものと予測)〜広小路〜香林坊〜武蔵ヶ辻〜金沢〜金沢港
で検討されており、金沢南北をどう結ぶかは
地下接続
地上接続(中橋迂回?)
郊外からのバスとの乗り継ぎ拠点は
広小路、有松の2拠点
有松のみ
で検討されている。
なぜ48年間も検討が続けられているのにもかかわらず未だに形になってないのか不思議に思っただろう。
その理由の一つに先ほども述べた道路の弱さが関係してくる。
もしもLRTやBRTが金沢中心街に通ったら2車線分をそれに充てる事になり、車道は2車線となってしまう。
車社会が進んでいる石川県、北陸でそれを実行するのにはあまりにも危険と言え、あらかじめマイカーから公共交通に乗り移れるモビリティハブの整備、また荷捌きスペース、タクシーベイの整備が必須といえる。
その為地下空間を活用する地下鉄やモノレール等が検討されたがい
ずれも金沢市が負うには大きすぎる費用が原因で却下され現在ではBRTかLRTの二択で検討されている。
トリビア的なことを述べると金沢市内の地下駐車場、デパ地下等の地下建築物の設計は将来の地下空間を活用した交通システムが使うであろう土地の部分だけ空けられており、そこからも長い年月をかけて検討が進められてきたことがわかる。
また簡単に金沢市のLRT、BRTに求められる付帯条件、長所短所を書き表す(新しい交通システム導入検討委員会会議資料より一部引用)
LRT
景観:架線レス車両(バッテリー方式等)
輸送力:30m連節車(路面電車の法定限度最大。富山低床車:18.4m 宇都宮低床車:29.52m定員159人 札幌低床車:17m)
BRT
環境負荷:ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車のいずれかが望ましい。
輸送力:連節バスの導入が望ましい。
正着性:バスの正着性に配慮した停留所構造が望ましい。
いずれも乗ってみたくなる、分かりやすいシンボライズされたデザインが求められる。
LRTの長所
シンボル性が非常に高いことからマイカーユーザーがLRTに移りやすくまたタクシーを利用する観光客が減りLRTに流れることが望める。
安全性が高いかつ高頻度運転が可能(富山LRTではJR西日本が開発した自動列車停止装置ATS-SWが導入されている)。
電車であるため環境負荷が低い(宇都宮LRTは再エネ100%で運行)。
高い地域効果(宇都宮LRTの場合沿線人口1.5倍、新築賃貸物件への問い合わせ前年同月比587.5%、沿線で高層建築物が増加、市内経済波及効果については900億円と試算されたが開業1年で予測2割上回る470万人が利用したことからそれ以上の効果が出る可能性もある)。出典元:https://www.ntsel.go.jp/Portals/0/resources/kouenkai/r6/24kouenkai_shoutaikouen_2.pdf
LRTの短所
自家用車でアクセスしにくくなる
周辺道路等の一般車両の所要時間の増加
荷捌き・タクシー車両及び一般車両への影響(上堤町、南町、尾山交差点で右折ができなくなる他、荷捌きが不可となりタクシーベイも百万石通りの裏手等に整備する必要がある)。
有松・広小路でのバス再編により乗り継ぎが発生する。
BRTの長所
事業費が安く済む
郊外から有松、広小路での乗り換えが一部発生するが利用動向を見極めながら郊外直通型のBRTの設定が可能。
LRT以上の高頻度運転が可能(LRT:40本/h BRT:60本/h)。
BRTの短所
マチナカを走行する一般路線バスをLRTほど削減できない(LRT:56本削減 BRT:14本削減)
深刻な運転手不足から今の状況では上記の本数で実現出来ないと見る。
金沢交通戦略
金沢市では2007年から2016年を新金沢交通戦略、2016年から2023年を第二次金沢交通戦略、2023年から2027年までを第三次金沢交通戦略と位置づけている
MaaSやモビリティハブを活用した
「歩行者・自転車・公共交通優先のまちづくり」
「交通から暮らしの質やまちの魅力を高めるまちづくり」
を趣旨としていて、
その中で第1段階として
都心軸エリアのバス停の機能向上
連節バスの導入
バス専用レーンの強化
などを掲げ、バスレーンについては2章でも取り上げた社会実験としてバス専用レーン時間外のバス優先レーンの実施などに取り組んでいる。
第一段階の整備完了後概ね5年後に公共交通分担率等の条件を含め総合的に判断し第二段階への移行を検討する。
第二段階でLRTまたはBRTの導入を検討するスキームで交通戦略を組んでいる。
北陸鉄道石川線 浅野川線
北陸鉄道石川線浅野川線ではコロナ流行以前から慢性的な赤字が続いており、2024年3月期は両路線で2億1600万円の赤字を計上している。
そんななか両線の沿線市町である内灘町、金沢市、野々市市、白山市と県が国の補助金も含めて総額132億円の経済支援を行うため来年2月から3月に国会に社会資本整備総合交付金の予算案を提出、県や市町が負担する分は、県や市町の議会に提出され、審議される。
北陸鉄道線のみなし上下分離については、来年4月からの開始に向け、特定事業計画(鉄道事業再構築実施計画)や協定書を策定中です。
4月から「みなし上下分離方式」による運用の開始、 鉄道施設等の更新、北陸鉄道線の利便性向上策の実施を開始する方針だ。
その主な施策を書き出す。
鉄道線のクレジットカード、デビットカードによるキャッシュレス決済の導入
駅(停車場)の整備、鶴来工場の改修
石川線の新西金沢からIRいしかわ鉄道線乗り入れ金沢駅直通、野町から香林坊への新線敷設可能性の調査
新型車両の導入(石川線にて実施。発注、製造に時間を要することから2028年からの運行開始予定。IR線に乗り入れる場合また新しく車両を新造する必要がある為、2028年から運行予定の車両は将来的に浅野川線へ移る可能性もある)。
線路保存費(保線管理員人件費、線路修繕費、駅除雪・融雪水道料、保線区ガス代)、電路保存費(電路修繕費など)、車両保存費(車両修繕費など)を自治体で負担
運転費(運転士人件費)、運輸費(駅務員人件費、駅構内設備の人件費)、運輸管理費(本社輸送関係従事員人件費、駅構内清掃費)、その他(案内宣伝費、一般管理費、固定資産税、減価償却費)を北陸鉄道で負担。
軌道の改良(石川線めちゃくちゃ揺れます)
増便
駅の待合環境やアクセス性向上、駅のコ ミュニティ拠点化
二次交通との接続強化
パークアンドライドの利用促進
QRコードを活用した新たな定期券、乗車券システムの開発(QRコードはデンソーウェーブの登録商標です)
鉄道と他分野(店舗やイベント等)との連携を伴った地域振興キャンペーン(例:電車に乗って買い物、飲食すればポイント付与)
学生などの支援策。詳しくは不明
子供無料化
駅カルテ(最寄りバス停や公的施設、観光資源等の駅勢圏情報を取りまとめ利用者がスマホ等で閲覧できるようにする)
鉄道の観光資源化(鶴来鉄道資料館、鉄道ファン以外にも訴求するイベント)
鶴来白山エリアの活性化(北鉄グループ、名鉄グループ、関係自治体で実施)
鉄道プロモーションの展開
沿線企業や住民企業と連携した利用促進
職員の休憩施設、仮泊施設の更新
鉄道運転免許取得費用補助
大型二種免許取得費用補助
採用活動の強化
バス要員増
石川線鶴来駅の駅西側からのアクセス向上
浅野川線内灘駅の交通機能の強化や利便性の向上、交流・賑わい機能の確保。
新駅の設置
なおこれらは新交通システムが長らく検討されたままになってる現状を受けてかはわからないが北陸鉄道、県、市町が戦略に定めた事項につき、各主体が信義に従い誠実に責務を果たすことを約する締結書を結んでいる。
現在行われている施策としては
野町駅から金沢駅西口・県庁前を結ぶ石川線接続バスシティライナーの運行、案内強化
のりまっし金沢上にて石川線IR線乗り継ぎとシティライナー乗り継ぎがそれぞれセットになった定価運賃より半額になるデジタルきっぷの配信。
が主にある。
引用元:
https://www4.city.kanazawa.lg.jp/soshikikarasagasu/kotsuseisakuka/gyomuannai/1/2/21545.html
金沢MaaS
金沢市が費用を出したと思われ、北鉄、名鉄グループの株式会社ホクリクコムが開発したMaaSアプリ「のりまっし金沢」。
JR西日本のMaaSアプリ「WESTER」や福井県の「ふくいMaaS」と連携しており、アプリ上でICaの残高確認、北陸鉄道のみの経路検索、オトクなデジタルきっぷを購入、使用できる他、イベント情報、観光情報、運行情報そしてマップ上で路線図、シェアサイクル「まちのり」の基地、駐輪場、タクシーベイの位置などを調べることができる。
登場初期は北陸鉄道のホームページに表示されている経路検索にデジタルチケットが追加されただけだとか以前北陸鉄道が配信していた北鉄時刻検索のほうが使えてた。と言われ評価はあまり良いものではなかったがメジャーアップデートが行われUIの刷新、マップ上で様々な情報が確認できる交通ガイドが追加された結果、評価もある程度高くなった。
IRいしかわ鉄道等第三セクターについては石川県、北陸地方全体の問題なので別に投稿します。
誤って間違った情報を発信している可能性も拭いきれないのでこれを読んだ読者にいかなる不都合が生じた場合でも筆者は一切の責任を持ちません。
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