特許売込状に対する対応とDJ action

いわゆるパテント・トロールから、米国子会社等にライセンス提供の申入状が届くことがあります。例えば、「当社は米国特許〇〇を保有している。御社の事業は本件特許に関連していると思われる。当社は本件特許をライセンスする用意がある。〇年〇月〇日までに連絡いただければ、〇〇の条件でライセンス供与する。この期限を過ぎた場合はさらに割高なライセンス条件になる可能性がある。既に〇〇〇等の企業がライセンスを締結している。」といった内容です。

このような特許売込状に対する対応は悩ましいですね。面倒なので無視するというのも一つの選択肢かもしれませんが、その前にそのパテント・トロールの米国での提訴履歴を確認してみることは必要と思います。

そのパテント・トロールが米国で盛んに提訴している場合には、「無視」は即刻提訴されるリスクをはらむので得策ではないのでしょうね。期限までに何らかの回答をしておくのが良いのだと思います。通常は、侵害の事実を具体的に説明するクレームチャートを要求しつつ、交渉開始時期をクレームチャート受領後〇〇日(2週間から30日程度でしょうか)後とさせてほしい、といった内容の回答書を送付することになるのではないでしょうか。

その上でどうするかですね。提示されたライセンス条件が格安である場合はライセンスに応じるというのも一つの選択肢なのでしょうね。ただ、この場合、例えば、そのパテント・トロールのウェブサイト等でライセンス取得の事実が公表されてしまうと、さらに他のパテント・トロールからのアプローチを誘発しかねないので、そのあたりのリスクを踏まえておく必要はあるのだと思います。そのパテント・トロールが、早期にライセンスに応じた場合には企業名を公表しないことを確約している場合はライセンスに応じやすくなるとは思います。

一方、根拠のないライセンスの申入れには応じないというのが自社のポリシーであったり、あるいは、新たなパテント・トロールからのアプローチを懸念する場合は、DJ action (Declaratory Judgment action:非侵害等確認訴訟)を提起するというのも一つの選択肢だと思います。自社の米国子会社の本店所在地を管轄する裁判所が特許権者に有利な判決を下す傾向のある裁判所(東テキサスや西テキサスの裁判所等)でない場合には特に有効だと思います。DJ actionの提起に対しては、相手方から特許権者に有利な裁判地において対抗として侵害訴訟が提起されることも想定されますが、DJ actionが先に提起されている場合は、両訴訟の争点(侵害の事実)に関する証拠が被疑侵害者(=自社の米国子会社)側にあるということと相まって、DJ actionが提起されている裁判所に侵害訴訟の手続も移送されるケースが多いようです。DJ actionの提起にはそれ相当の弁護士費用が発生し、場合によっては早期にライセンス取得した場合のライセンス費用を上回ることもありますが(多くの場合はそうなると思いますが)、そのパテント・トロールを完全に撤退に追い込むことが十分期待できます。私の所属する企業でも、同様の案件でDJ actionの提起を選択し、提訴後直ぐに相手方のパテント・トロールが白旗を挙げてきて、以後権利行使はしないことを確約する合意書を締結して、案件を終結させたことがあります。

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