NPNトランジスタのモデルパラメータを使用したコレクタ電流とベース-エミッタ間電圧の関係式の解析

はじめに

この記事では、トランジスタのモデルパラメータを使用して、コレクタ電流(ICI_CIC​)とベース-エミッタ間電圧(VBEV_{BE}VBE​)の関係式を詳細に解析します。これらのパラメータは、SPICEモデルから抽出されたものであり、トランジスタの特性を理論的に理解するために使用します。この解析を実施する理由は、主業務において、トランジスタの特性を理論値とデータシートの実測値と比較し、どれだけ乖離があるのかを把握するためです。これにより、設計の精度向上や最適化に役立てることができます。

トランジスタのモデルパラメータ

以下は、
ローム製2SC4081U3 NPNトランジスタの主要なモデルパラメータです。
解析を標準化するために1例として使用させていただきました。

  • IS (Saturation Current): 70.000E-15 A
    サチュレーション電流。トランジスタが逆方向にバイアスされたときに流れる非常に小さな電流。

  • BF (Forward Beta): 277.08
    順方向電流増幅率。ベース電流に対するコレクタ電流の比率。

  • VAF (Forward Early Voltage): 114.03 V
    順方向アーリー電圧。コレクタ電流の変化に対するコレクタ-エミッタ間電圧の依存性を示す。

  • IKF (Forward Knee Current): 1 A
    順方向膝電流。トランジスタが飽和領域に入る前の電流。

  • ISE (Base-Emitter Leakage Current): 70.000E-15 A
    ベース-エミッタ間のリーク電流。

  • NE (Base-Emitter Leakage Emission Coefficient): 1.8934
    ベース-エミッタ間のリーク電流のエミッション係数。

  • BR (Reverse Beta): 11.565
    逆方向電流増幅率。逆方向にバイアスされたときのベース電流に対するコレクタ電流の比率。

  • VAR (Reverse Early Voltage): 100 V
    逆方向アーリー電圧。

  • IKR (Reverse Knee Current): 0.11266 A
    逆方向膝電流。

  • ISC (Base-Collector Leakage Current): 1.0228E-12 A
    ベース-コレクタ間のリーク電流。

  • NC (Base-Collector Leakage Emission Coefficient): 1.3260
    ベース-コレクタ間のリーク電流のエミッション係数。

  • NK (Forward and Reverse Knee Current Coefficient): 0.71869
    順方向および逆方向の膝電流の係数。

  • RE (Emitter Resistance): 0.2 Ω
    エミッタ抵抗。

  • RB (Base Resistance): 13.897 Ω
    ベース抵抗。

  • RC (Collector Resistance): 1.2190 Ω
    コレクタ抵抗。

  • CJE (Base-Emitter Zero-Bias Junction Capacitance): 11.342E-12 F
    ベース-エミッタ間のゼロバイアス接合容量。

  • MJE (Base-Emitter Junction Capacitance Grading Coefficient): 0.38289
    ベース-エミッタ間の接合容量のグレーディング係数。

  • CJC (Base-Collector Zero-Bias Junction Capacitance): 4.0230E-12 F
    ベース-コレクタ間のゼロバイアス接合容量。

  • MJC (Base-Collector Junction Capacitance Grading Coefficient): 0.34629
    ベース-コレクタ間の接合容量のグレーディング係数。

  • TF (Forward Transit Time): 338.92E-12 s
    順方向のトランジットタイム。

  • XTF (Forward Transit Time Bias Coefficient): 4.0449
    順方向のトランジットタイムのバイアス係数。

  • VTF (Forward Transit Time Voltage): 167.36 V
    順方向のトランジットタイム電圧。

  • ITF (Forward Transit Time Current): 0.85959 A
    順方向のトランジットタイム電流。

  • TR (Reverse Transit Time): 110.25E-9 s
    逆方向のトランジットタイム。

  • XTB (Temperature Coefficient for Beta): 1.5000
    ベータの温度係数。

コレクタ電流とベース-エミッタ間電圧の関係式

トランジスタのコレクタ電流(ICI_CIC​)とベース-エミッタ間電圧(VBEV_{BE}VBE​)の基本的な関係式は次の通りです:

IC=IS(eVBEVT−1)I_C = I_S \left( e^{\frac{V_{BE}}{V_T}} - 1 \right)IC​=IS​(eVT​VBE​​−1)

ここで、

  • ISI_SIS​ : サチュレーション電流

  • VTV_TVT​ : 熱電圧(室温で約26mV)

さらに、アーリー効果を考慮すると、関係式は次のように拡張されます:

IC=IS(eVBEVT−1)⋅(1+VCEVA)I_C = I_S \left( e^{\frac{V_{BE}}{V_T}} - 1 \right) \cdot \left(1 + \frac{V_{CE}}{V_A}\right)IC​=IS​(eVT​VBE​​−1)⋅(1+VA​VCE​​)

ここで、

  • VCEV_{CE}VCE​ : コレクタ-エミッタ間電圧

  • VAV_AVA​ : アーリー電圧

Pythonによるシミュレーションとプロット

以下に、Pythonを使用してコレクタ電流とベース-エミッタ間電圧の関係をプロットするコード例を示します。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

# 定数
k = 1.38e-23  # ボルツマン定数 (J/K)
q = 1.6e-19   # 電子の電荷 (C)
I_S = 70.000e-15  # サチュレーション電流 (A)
V_A = 114.03  # アーリー電圧 (V)
T = 300       # 絶対温度 (K), 室温で約300K

# ベース-エミッタ間電圧の範囲 (V)
V_BE = np.linspace(0.5, 0.8, 100)  # 0.5Vから0.8Vまで

# 熱電圧の計算
V_T = k * T / q

# コレクタ電流の計算
I_C = I_S * (np.exp(V_BE / V_T) - 1) * (1 + V_BE / V_A)

# プロット
plt.plot(V_BE, I_C)
plt.xlabel('Base-Emitter Voltage V_BE (V)')
plt.ylabel('Collector Current I_C (A)')
plt.title('Collector Current vs Base-Emitter Voltage for 2SC4081U3 NPN Transistor')
plt.grid(True)
plt.yscale('log')  # コレクタ電流を対数スケールで表示
plt.show()

まとめ

この記事では、2SC4081U3 NPNトランジスタのモデルパラメータを使用して、コレクタ電流とベース-エミッタ間電圧の関係を詳細に解析しました。Pythonを使用したシミュレーションとプロットを通じて、トランジスタの動作特性を視覚的に理解する方法を紹介しました。これにより、トランジスタの動作をより深く理解し、実際の設計や解析に役立てることができます。さらに、理論値とデータシートの実測値を比較することで、設計の精度向上や最適化に役立つ情報を提供します。


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