複業のゲーム開発で最近打った施策について

表題の通り、自分でオーナーシップを持って開発している複業のゲーム開発で最近打った施策について書きます。
施策はいろいろ打ってはいるのですが、今回書くのは「大成功した施策」と「大失敗した施策」についてです。そちらの方が面白いので。

施策にはそれぞれコードネームがあります。なんでコードネームがあるかというとあった方が自分がアガるからです。年間開発工数4人月、外注費100万円程度のゲーム開発において、最も生産性に寄与するのが私の開発力です。
開発力に最も寄与するのが私のモチベーションなのでモチベーションを上げるのに大きく寄与するコードネームをつけるのは当然の道理です。

[大成功した施策編]

・Paddle Wheel

意味は船舶の動力外輪の意。ペリーが乗ってきた黒船の両脇についている大きい水車みたいなアレ。従来の風頼みの船と違って内燃機関の力で無風でも動ける。
(下の画像はゴールデンカムイ234話の上川丸)

ゴールデンカムイ上川丸

経緯:
ゲーム販売において、新作が発売した月とそうでない月の売り上げの差が顕著でした。
発売した月の売上は40万円/月。そうでない月は10万円弱/月といった具合です。
販売して3ヶ月以降の旧作の売上は月に3〜5万円であり、ここに伸び代があると考えました。
そこでゲーム販売サイトの割引機能を使って(ゲームDLサイトのSteamのようなアレです)
割引アイテムの販売からの期間と適用割引率の2軸で長期間事前調査を行いました
大事な点は、サマーセールのような大規模割引セールではない時期に、50%以上の割引率をつけて旧作の売り上げを拡大させようと考えた点です。

達成したかった目標:
・今まで売上の補助に過ぎなかった旧作売上の拡大(3倍増の10~15万円/月が目標)
・割引アイテムを釣り餌にした新規ファンの獲得

注目した指標:
・割引適用アイテムの販売からの期間
・割引適用アイテムの割引率
・割引適用アイテムの販売数
・今まで自分のゲームを買ったことのない新規ファンの獲得数

結果:
販売して3ヶ月以降の旧作の売上が3~5万円/月から15~20万円/月まで上昇しました。成功だと考えます。
新作が30万円/月、準新作が10~15万円、旧作が15~20万円/月となったことで売上は50%程度向上しました

事前調査の分析結果:
 割引アイテムは割引率70%以上の場合、販売開始日から2年以上経っていても新規ファン獲得に大きく奏功します。安価な暇つぶしを求めて定期的にDL販売サイトをクロールする層がいると考えます。
普段は月販0~2本の旧作作品が割引きを入れると40本程度売れる程度には劇的な効果が望めます。
 割引アイテムは割引率50%以上の場合、新規ファンの獲得は限定的でした。何作かは買ったことがあって、もし割引がかかっていたら買おうとお気に入りリストにいれる。割引がかかったらスナイプする層がいると考えます。
閉店間際のスーパーで50%オフのシールが貼られるのを待つタイプなのだろうと見ています
 アイテムの割引率が20%の場合、準新作しか動きません。むしろある程度売れる力を残した作品の粗利率を削ってしまうのでメリットは薄いです。また新規ファンの獲得にもつながりませんでした。

事前調査を踏まえた上でのアクション実行:
事前調査を踏まえた上で3つの軸で割引きを実行しました。実行したのはいずれも大規模セールではない時期です。これは大規模セール期間中はまた別の法則が働くと考えているからです
ライトファンを狙ってヘビーファン化させる割引き施策
「自分のゲームを1〜3本程度購入したことがあり自分をフォローしているユーザー」をターゲットに
「販売開始から半年以上経過した作品を50%割引」することで、他のシリーズや作品に興味を持ってもらうことを狙います。「たまたま1本買ったライトなファン」を「新作を高頻度で買うファン」に「昇格」させることで定価で売れる新作の売上を伸ばすことをゴールとしています。
ほぼ無価値の旧作で新規ファン獲得を狙う割引き施策
「自分の作品を一度も買ったことがない、自分を知らないユーザー」をターゲットに
「販売開始から2年以上経過した作品を80%割引」することで自分のフォロワーを増やし、作品シリーズの認知を狙います。
販売開始から2年経つとほぼ売上もたたなくなるため、安価でばらまくことで自分の認知向上を狙う施策です。売上確保というより宣伝を狙った施策です。
セール客専用施策
いくつかの数字を分析し、ユーザーインタビューを試み、DL販売サイトの運営の人と話した結果、ある結論に達しました。
何をどうしようと割引価格でしか買わない。定価では絶対に買わない、という層は存在します。こういう層は定価では絶対に買ってくれません。
彼らは購入したゲームの面白さよりも、購入した時の割引率によって自分の買い物の賢さを感じて満足するのではないかと考えました。
とにかくこういう層のために「販売開始からこれだけたったらxx%割引してもOK」という割引に関する明確なルールを決めて粗利を無闇に削らないようにしつつ「定価では買ってくれない層」から売上を立てる方向で戦略に組み入れています。

・familiarize

意味はファミリー化。光岡自動車の卑弥呼がマツダ・ロードスターをベースとしているように、共通の車台を持つ複数のプロダクト群の意味

注目した指標:
・作品ごとの開発計画の安定化
・作品のリリースペース、リリース頻度
・量産した作品ごとの売上とユーザー満足度

経緯:
それまでは年間4〜5本の新作をリリースしていました。作品ごとの予算は作品ごとに独立していました。直近でリリースした新作の初動売上をもとに、それ以降に製作開始される作品の開発予算が組まれていました。また作品単位で開発規模も大小の幅がありました。
しかしそうすると外注人材の確保や予算規模確定が「そのときになってみないと分からない」という問題を抱えていました。
また大規模開発を行う場合、大規模な発注は早期に発注する都合があります。そのために、まだ発売してもいない新作の売上をあてにしてイラストレイターなどに多額の外注を行う必要があって、これがしばしば「あてにした新作の売上爆死と開発中作品の規模の急な縮小」「先行していた作品の開発が炎上したため後続の作品が開発中止」という事態を引き起こしていました

戦略:
この問題の解決について、二つの目標の達成を狙うことになりました。
一つは売上の拡大であり、もう一つは開発規模の平準化です。
売上の拡大は、作品1本あたりの販売本数は増やせないためリリース作品数を増やす方向で達成を狙うことにしました。

戦略達成のための道筋:
手をつけたのは開発体制の刷新です。今までは新作ごとに開発体制、外注体制を作り直していました。このチームビルドコストが高く、私が開発に集中できない問題がありました。
そこでほぼ私が担当する開発ラインを1つに統一し、外注比率の高いシナリオ/イラスト班をゲームのシリーズごとに少数の特定のメンバーに外注するようにしました。

外部から見ると我々の新体制のチームは主人公や登場人物、舞台設定(古代ローマ、古代中国、ファンタジー)が違う3つのシリーズを展開しています。
いずれも共通のゲームシステムを持つ辺境征服の戦略ゲームのシリーズです。

共通ゲームシステムに関しては3ヶ月スパンで開発チームが開発計画を組み、長期かつ安定的に開発を進めます。
各シリーズの新作ごとに発注するものはイラストとシナリオだけに絞れるので外注規模も平準化できます。

ゲームシステムの進化:
ゲームシステムは共通のため、たとえば「陣地構築」というシステムを開発すると3シリーズ全てで使えます。一つのゲームシステムを継続開発&メンテするため開発効率が高くなり、また安定した長期計画が組めるようになりました。
陣地構築はこんなやつです。長篠の馬防柵みたいなやつ。

画像1

結果:
毎月新作を1本出せる体制を整えました。年産4〜5本から年産12本にリリース速度を大幅アップさせることができました。
ユーザーから見ると新作はシリーズ前作から3ヶ月分の開発成果が入っているためゲームシステムの進化が感じられます。
また3シリーズのどれかの新作が毎月リリースされるので私としても売上が安定できます。
開発スケジュールの面でも、継続して一つのゲームシステムを開発しているため開発計画も組みやすく、炎上して後続のゲーム製作スケジュールが狂うこともなくなりました。
作品一本当たりの売上は伸びなかったものの、年産本数が倍以上に増えたため売り上げも伸びたこと、開発計画の炎上もなくなったことから、大成功と判断しています

意外となメリット:
作品ごとに毛色が異なるため「この作品ではこういう演出を描きたい」「こういう展開を描きたい」という外注の方からのリクエストを取り入れやすくなりました。
一例.「煮ても焼いても食えない謀略家タイプのライバルが書きたい」「典韋みたいな暗殺者上がりの親衛隊長が書きたい」
その分リクエストを出した方もオーナー意識を持ってクオリティ高くやり切ってくれるのでゲームのクオリティが高くなりました

[大失敗した施策編]

・Volley Shot 

意味は一斉射撃の意味。DL版の発売日はROM版に比べて不本意ながら遅延していた。この問題の克服を狙った。

注目した指標:
・新作の販売数

経緯:
今まで主に開発の都合でROM版を販売してから、反響として報告されたバグを修正+機能追加パッチを当てたDL版を販売してきました。
ROM版はいわば有料ベータのような扱いでした。
開発スケジュールを大きく見直すことで、開発遅延を克服すること。また盆暮れの最繁忙期に、主力販売チャンネルであるDL販売サイトに新作を投入することを狙いました。

結果:
また盆暮れの最繁忙期に、DL販売サイトに投入された新作のDL版売上が、主力販売チャンネルであるにもかかわらず大爆死しました
普段は30万円程度見込める新作の初月売上が、10万円弱程度しか出ませんでした。

分析:
DL販売サイトにおいて、盆暮れの最繁忙期は大割引セールを行う時期であり、売上ランキングも割引作品で埋め尽くされます。
DL販売サイトの運営が書き入れ時を見込んで、定価販売の新作より目立つ一等地に割引中の人気作を置いてしまうため、定価販売の新作の売上はデバフがかかります。
また売上にデバフがかかるということは人気ランキングからの流入も見込めないということで、より一層売上に不利に働きました
またDL販売で売れ行きが芳しくなかった分ROM版の売れ行きが上下したかというとそのようなこともありませんでした。この結果からROM版とDL版はほぼ客層が別という結果が分析されました

学習した結果とその後のリアクション:
盆暮れと春秋の大規模セール時期(4週程度)にDL版の販売時期をかぶせず、ずらすようにしました。またROM版とDL版で客層が被っていないことが分かったため、ROM版とDL版の販売開始日をずらすことになんの躊躇もいりませんでした。
また普段の1/3以下の売上しかなかった新作は「30万円売れるポテンシャルを持ちながら、本来行き渡るべき層がまだ買っていない」と考えました。
そこで上記のPaddle Wheelにおいて「発売後3ヶ月以内、割引率80%」の実験に投入したところ、割引期間中に「新作の初月販売数平均」の230%の販売数を出しました。
(粗利が削られている分大体初月売上の半額ぐらいの売上)
初動で爆死したら大幅割引してリカバリーというリアクションが学習されました。


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