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成功したスタートアップが失速してしまうまで

下の記事がとてもよかったので、経験や聞いた話をもとに書いていきます。
複数の会社の話を混ぜて平均値をとったような話で、特定の会社の話ではありません。
前提として、テックドリブンなWeb SaaSの話をしたりします。

特にこの辺ですね。

P/M-Fitしたあとの最高の時期

P/M-Fitさえしてしまえば初期はものすごく楽しいです。
あとは足りない機能をどれから作るかと言う問題はあるにせよ、機能を作れば作るほど成果が出ます。
人生で一番楽しい時期だと思います。

何を作ればユーザーの価値になるかも明確ですし、エンジニアからしても今作っているものがユーザーの価値になることは明らかです。
なので「大変だけどやりがいがある時間」ということで皆喜んで働きます。

T3D2(売上を3倍に伸ばす時期が3期、2倍に伸ばす時期が2期)を続けてどんどん数字が伸び、社員数が増え、多数のキラキラした人材が集まります。

大型上場間近の有望ユニコーン企業としてメディアからの取材依頼も相次ぎ、ろくろを回しながらかっこいいことをカメラの前で言った内容が記事になり、それがSNSで拡散されてチヤホヤされる。
こう言う時期の経営者は最高に楽しそうですね。

やがて辛い時期が来る

上場を目指す時期が来ます。
N-2, N-1期で、上場周りを整えながら、上場で見せる数字を作るために営業企画や経営企画が必死に頭を絞ります。
これさえあれば一気にガッと大きい数字が作れる!
そうすればIPOの申請を東証に出すことができる!

そういう一撃必殺の企画が出て、営業やエンジニアが必死に駆けずり回ってどうにかプロジェクトも完遂!
大きな売上の数字ができて東証マザーズ(今はグロースっていうんでしたっけ?)に上場できました。

株価はイケイケです。
ストックオプションやナマ株を持っている古参社員たちもホクホク顔です。
よかったですね!

俺たちの戦いはこれからだ

一般論なんですが、スタートアップはグロース市場にIPOした段階では赤字です。
そんな上場済みスタートアップの株価は「売上を含む主要KPIの数値どれだけ伸びているか」で決まります。
この数値の伸びが鈍化した時がスタートアップの株価が死ぬ時です。

当然大口株主や機関投資家からの期待やプレッシャーも大きいです。
「当然前年比150%以上の伸びは出せるよな?」
「翌期の具体的な経営計画を出せよ」
「何を出して達成する気なのかもちゃんと説明できるだろうな」
こうやって経営者は大口株主や機関投資家から激詰めされます。

しかしどうしていいのか分からない

今までは「足りない機能だらけ」だったのでその必要だけどまだない機能を作ればそれでOKでした。
足りない機能を実装すれば、ユーザーは喜び、訴求できるユーザー数は増えて売上も上がる。プロダクト価値も増える。
そういう「正のサイクル」が回っていたわけです。
ところがこのフェーズに至ると、もう必要な機能は一通り揃っているわけです。
先述の チームの目標が「とにかくたくさん開発する」はいけない
“アウトプット”ではなく“アウトカム”を重視する体制作り
 の記事から引用するとこんな感じです。

「何を作ればいいのか分からない」
この問題に対して、大抵の目標を見失った企業において唯一具体的な解答を出せるチームが存在します。
そうです、営業です。

「今まで失注してきたコンペにおける星取り表で足りなかった部分の機能を増やせば、受注できる企業が増える。当然売上もユーザー数も増やせる。」

営業の人はしばしばこう言います。
特にユーザー数の多い=社員数の多い中堅企業や大企業に売り込めれば少ない労力で大きな売上をゲットできます。
こうしてテックドリブンなスタートアップが運営するSaaSの限られたリソースは中堅企業や大企業が喜ぶ機能を実現するために使われていきます。

機能を増やすことで、こういう星取り表で「◯」を増やそうとするわけですね

こういう項目ごとに優劣を比べる表を星取り表という

進むべき方角を見失うプロダクトマネージャー

星取り表強化に最適化すれば数年間は売上を伸ばし続けることができます。
あるいは他社の買収によって手っ取り早くユーザー数増加と星取り表強化をするかもしれません。

しかしそれは営業ドリブンなプロダクト戦略であり、「プロダクトの魂が入った」機能拡張ではありません。
「なんでも機能は揃っているけど、全部使いづらい」という大企業の社内システムみたいになりがちです。
なにより「星取り表で勝つこと」に特化しているため機能がブクブクと肥大化しがちです。

プロダクト志向というよりコンペ志向

こうなってくるとプロダクト全体の価値の増大というよりは「コンペで勝って受注を獲得し、ARRや売上をゲット!」する方向に最適化されていきます。
どの機能を増やせば、最も売り上げを増やせるコンペで勝てるようになるか?という卑近な方向に興味関心が集中します。
プロダクト志向のプロダクトマネージャーやエンジニアはこういう状態を嫌がり離職する人間も増えます。
まだ若いフェーズの会社に移ればプロダクト志向の仕事ができるのでそちらにいくのです。

そもそもどうすればいいんだ?

売上が数十億円までならなにをすればいいかイメージできたが、数百億となると何を軸に芯の通ったプロダクトを作ればいいのかイメージできない。
創業者や経営上層部ですらこの辺になると「北極星」を見失いがちです。
そうなると全社集会で話すスピーチも「かっこいいけどふわふわしていてイメージ先行な言葉」になりがちです。

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」 壇ノ浦後の義経。全てのプロダクトマネージャーはいずれ「この先私は何を作ればいいのか」ということになる。

社内受託化するエンジニア組織

このフェーズになると、営業戦略や経営企画のパワーがエンジニア側に対して強くなりがちです。
パワーバランスが崩れ、エンジニア側が弱くなると始まるのがエンジニア組織の社内受託化です。

大きな機能を開発する「プロジェクト」を「完了予定日」までに完了させるために、進捗にたいしてステータス全振りするための組織へと最適化されていきます。
社内受託状態の仕事が面白くないと感じるエンジニアは流出しますし、バーンアウトが発生してエンジニア組織の出力は段々と下がっていきます。

買収したサービスとのサービス連携も度々発生するわりに価値が低く見積もられがちでますますエンジニア組織の士気は下がっていきます。

そして株価が落ちていく

・売上や主要KPIの数値の伸びが鈍る
・主要なスター社員の流出が相次ぐ
・次の戦略が見えてこない
そういう要因が重なったりして、どこかで株価が落ち始めます。

株価がだらだらと緩降下を繰り返して、上場来安値(だいたいはIPO時の終値)を割ってしまうと、そこから脱しようとじたばたともがく長い時期が始まります。

じゃあどうすればいい?

もと記事だと「アウトカム思考になればいい」と言っていますね。
目先の数値を伸ばすことに汲汲とするのではなく、「アウトカム思考」にしてユーザーにとって本質的に価値になる数字を伸ばす。
あるいは視点を高くとって北極星を見ながらプロダクトの価値を伸ばす戦略にすればいいと思います。

大事なことは「そう簡単にはなにをどうすべきか?が見えてこない状況」で「限られたリソースをアウトカムに対して有効に配分し、本質的なプロダクトの価値を生み出す」ことに集中することだと思います。

だが立て直せない

進捗にステータス全振りしたエンジニア組織もそうですが、上の状況で行き詰まってしまう組織はすでに組織が悪い方向に最適化されています。
すでに動脈硬化が進んでいる状態です。

各チームが細かく細分化され、プロダクト価値という最終出力とは遠い目先の数値を追い回すことに最適化されているのです。
思考も当然目先の数値の最大化に最適化されています。
なのでいきなり「北極星を見ながらプロダクト価値を考えて」と言われても体も頭も動きません。

サイロ化タコツボ化されて具体的すぎる数値で管理しすぎていたチームのマインドを変化させることはかなりの困難であり時間もかかります。
これを再度プロダクト志向に意識改革させた上で各種KPIや売上を上向かせることを同時にやらないといけないのです。

経営陣が「次に自分は何を作ればいいのか?」すら見失っていて、組織が硬直化しています。
プロダクト志向で考えたかった人間はやりたいことができないのでもう離職済みです。
その状況で「プロダクト志向の組織」として立て直せというのはだいぶ厳しいように思います。

「昭和型ジャパニーズトラディショナルカンパニーの従業員の意識を伸び盛りのスタートアップのような組織に変革する」ような難しさに近いものがあります。

時間を巻き戻せるならどうすべきか?

「必要だがまだ実装されていない機能が大量にある」状態を脱しつつある状態の時に、各種組織をサイロ化タコツボ化させなければいいのです。

逆コンウェイの法則のようにプロダクトを中心に、営業/CS/エンジニア/..etcを配置します。
プロダクト中心のアウトカム志向で組織を動かせるようにすれば上の「動脈硬化」状態にならず済むかもしれません。

「ただしプロダクト中心のアウトカム志向で動く組織」を作る難易度は非常に高いように思います。
そもそもそれが成功している組織がいくつあるんでしょう?
現在上場しているテック系スタートアップ企業は大体動脈硬化の真っ最中に見えます。

結論はこれから

正解はまだなくて、海外事例を見る限り、多分これが正解なんじゃないの?知らんけど。
みたいなフェーズです。
皆様、私と一緒に正解の見えない闇の中を手探りで進んでいきましょう。

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