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旅する介護福祉士(1)

「旅する」というキャッチフレーズを使っているが、とくに旅行が趣味だというわけではない。全国の介護施設を巡ってみたいという、ぼくのささやかな夢である。

ぼくが得意とする紙芝居や、なんちゃって腹話術のパペット人形、そして自分で開発した脳トレパズルなどをカバンに詰めて、フーテンの寅さんのように旅してみたい。

そして、旅先ではいろんな出会いがあり、もしかすると寅さん映画に必ず登場するような美しいマドンナに出会えるかも、などと妄想して楽しんでいる。

そんなぼくのちっぽけな夢が一度だけ叶ったことがある。

それは、介護分野のワークシェアリングを提供する「カイテク」が募集した「介護ボランティア募集」に応募して採用されたことがキッカケだった。

能登の地震によって被災した高齢施設の利用者が、金沢の避難所に集められており、そこに介護ボランティアとして派遣されるというものだった。

しかし、その当日はクロスハートのシフトが入っていたので、施設長や同僚に勤務日の交換をお願いしなければならなかった。同僚のひとりが快く交代してくれた。感謝。

このボランティアに参加するに当たり、ぼくはレクグッズを持ち込むかどうか迷った。避難所という緊迫した場所に、オチャらけた寅さん気分で紙芝居やパペットを持ち込んではいけないのではないかと思った。

かくしてぼくは、2月の半ば、生まれて初めて北陸新幹線に乗って、金沢へと旅立ったのだった。

出向いた先は金沢の「いしかわ総合スポーツセンター」という斬新なデザインのデッかい体育館みたいな施設。メインアリーナ(大)、サブアリーナ(中)、マルチパーパス(小)と呼ばれる三つのフロアとなっていた。

メインアリーナは家族単位の小さなテントが所狭しと並ぶ一般被災者のための避難場所となっており、サブアリーナはパネルで碁盤の目のように仕切られた要介護者のための簡易ベッドが並んでいた。

そして、一番小さなマルチパーパスは、電動式の介護ベッドが並ぶ、要介護度の高い方々のフロアとなっていた。

会場内を様々なカラーのビブス(ベストのようなもの)を着用したボランティアスタッフが忙しそうに往来しており、医師、看護師、介護士、リハビリ担当、事務などが色で分かるようになっていた。

介護度の高い方々のマルチパーパスのホワイトボードには、当日ボランティアの名前がグループごとにカタカナで並んでおり、その中にぼくの名前もあった。

ぼくのグループは、東京、愛知、千葉、富山、埼玉、群馬、岐阜そして地元石川などから集まったボランティアたちだったが、介護業界の同じ専門用語を使うこともあり、頼もしい仲間に思えた。

やっていることが介護なので、普段の仕事のような気分になり、そこが避難所であることを忘れるようだった。

しかし、仕切られたスペースのそれぞれの入口には、ADL(日常生活動作情報)やそれぞれの特記事項などが貼られており、そこには例えば、今回の震災で家族を失ってらっしゃることなど、ドキリとする情報も見られた。

介護現場ではあるが、いつもとは違う緊張を感じた。

(その2)につづく~ U^.^U

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