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#青春と人生の交差点 / はじめての紹介でモヤった話

青春とは、なんと自分勝手でワガママで甘くて辛くて酸っぱいのだろう…。

いまだに考えても考えても分かり得ない遠き日の「青春のモヤる出来事」がある。

高校三年生。男女のあれやこれや、付き合うだの告白しただのと色めき立つお年頃。私はしばらく付き合っていた彼氏と半年ほど前に別れてからは好きな男の子がいたわけでもなく、周りの女子たちがキャンキャン騒ぐようなその手の話題には全く興味のない冷めたJKだった。

その頃興味があったのはファッションとブラックミュージック。上に二人の姉がいて家には最新のファッション雑誌が常に数冊あり、流行りのヘアメイクや洋服をチェックしては「はあ~~、早く大人になりたい。働いてお金を稼いで好きな洋服を沢山買ってお洒落したい!」と頭の中は an・an と non・no とマイケル・ジャクソンで埋め尽くされていた。

そんなだから周りの男子たちは鼻垂れ小僧にしか見えない。話してもちっとも面白くないし「 an・an は林真理子のエッセイを読むために後ろから開くんだよね~ 」なんて言ったって誰にも理解されやしなかった。

ある日、さほど仲良しでもない同じクラスの女子がいきなり私にこう言った。

「 ねえ、ある人にあなたを紹介したいんだけど。会ってくれないかな。」

はん?一体どういう用件で?

聞くとどうやらその子の知り合いが「彼女が欲しいから誰か紹介して」と言っているらしい。何故私にそんなことを打診してくるのかは分からなかったが興味本意に話を聞くと、相手はちょっとヤンチャ系のおにいちゃんで社会人。とにかく男前でカッコいいから一回デートするだけでも楽しいと思う、とやたらと勧めてくる。

「とにかく私の顔を立ててよ。一回のデートでいいからさ!」と半ば強引に約束を取り付けられた。

人から誰かを紹介されるなんて人生で初めてのこと。しかも相手が社会人であること、とにかく男前であること、となれば私の好奇心がムクムクと湧き上がる。

さして仲良くもないその子の顔が立とうが立つまいが別にどうでもいいけれど、その案件は背伸びしたい盛りの女子高生には美味しいスイーツのお店を紹介されたようなワクワクする楽しみをもたらした。

「 わかった。とりあえず会うだけならいいよ。」

そう言って安請け合いしてしまったのだ。そもそもこれが間違いの始まりだった。

デートの当日。待ち合わせの駅の改札にその人は先に来ていた。確かにちょっとヤンチャな感じだ。ファッションは私の好みじゃないな…( その当時の感想ね。若いって辛辣 )当日私は一応男受けのよさそうな、可愛らしい non・no ファッションで出向いた。本当はとんがった an・an ファッションの方が好きだったけれど、黒ずくめの女子高生となんて誰もデートしたかないだろ。私なりに気を遣ったワケですね。

フムフム。確かに男前だ。若い頃の美しいジュリーと佐藤 健を足して2で割ったようなお顔。

デートは何処へ行って何をしたかは全く記憶にないのだが、始終その美しいお顔をぼーーーーっと眺めていただけで終わったような気がする。いいもの見せてもらいました。てな感じ。それでもなかなか優しくていい人だったからそれから3回くらいは会ったかな?カフェでお茶したりご飯を食べたり、他愛ないデートだったような気がする。

その頃の私の気持ちが恋愛モードじゃなかったこと、興味はファッションとマイケルにしか向いてなかったこと、その話題はその人とは共有できなかったことなどの理由で自然と連絡をとらなくなった。別にどうということもなく。向こうも私といても面白くなかったんだと思う。


それからしばらくして、その事自体もう忘れ去っていた頃、さして仲良くもないその友達が私のところにやってきた。彼女の友達を引き連れて。


「 ちょっと話があるんだけど。」


いかにもケンカを売りにきているテイだ。


「 なに?」

「 ミイちゃんはあの人のことが好きだったんだよ!」

ミイちゃんとは私に男を紹介した子だ。

「 は?だからなに。」

「 あんた、あの人のことフッたでしょ!」

・・・なに言ってんのか分かんないんですけど。

「 ミイちゃんがどんだけ傷ついたと思ってんのよ!」

・・・だからなんでミイちゃんが傷つくんだよ。そして私はあの人を振った覚えはないよ。そもそもなんで紹介なんてしたんだよ。好きなら自分が行けばいいじゃんかよ。

モヤる。物凄くモヤる。

ミイちゃんはその子の背後に隠れるようにして下を向いている。今にも泣き出しそうだ。

こういうシチュエーションに私はとても弱い。面と向かって文句を言われたら200%言い返して勝つ自信があるが ( 勝ち負けの問題じゃないけどね ) 弱い立場を装った偽被害者と正義の味方のつもりで文句を言いに来た偽善者を目の前にして、なんとも言えない歪んだ同情心が湧いてきた。

ここで私がミイちゃんに反撃したら、その正当性にぐうの音も出ないだろう。恥の上塗りだ。ミイちゃんは味方の友達にきっと私が酷いことを言って自分は傷つけられたとかなんとか、ありもしない物語を吹き込んだに違いない。まあここはミイちゃんの顔を立ててやるか、と冷めた気持ちで当たらず障らずの事の成り行きを説明した。

自然消滅だったこと、喧嘩別れでもないしそもそもそんなに深い付き合いまではいかなかったこと、フッてもないしフラレてもないこと。そしてミイちゃんために「キスもしてないよ」と言わなくてもいい安心情報まで提供した。

ミイちゃんは泣きながら誤解だったと言って謝った。分かりゃいいんだよ。別にあんたと喧嘩したいわけじゃないし。

それでも彼女の取り巻きの友達は私に向けて攻撃的な視線を止めない。まあ、引っ込みつかなくなったというところだろう。気の毒に。

私にはどうでもいいことだ。早く家に帰ってマイケルを聴きながら an・an を読みたいだけ。

考えれば考えるほど、ミイちゃんの言動が不可解で理不尽で解せないと思いながらも私の心はMTVでスリラーを躍りながら熱唱するマイケルで満たされていた。

それにしても、何故ミイちゃんは自分の好きな人に私を紹介したのだろう。いまだに謎だ。

そしてそれ以来、二度と人からの紹介で男と付き合ったことは・・・ない。

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