81 「オタク」のはなし

 ぼくは自分が「オタク」ではないと思っているし、どちらかというと「オタク」とよばれる人種は苦手な部類だと感じている。ただ対外的にはおそらく自分は「オタク」に分類されがちだし、それをねらっていないといえばうそになるだろう。


 中学時代から男子校に通っていたので、石を投げれば「オタク」に当たるんじゃないかというくらいたくさんの「オタク」を見た。彼らは一様に何かよくわからないものを愛でたり語ってたりした。当時は2ちゃんねる最盛期で「電車男」がさかんにメディアミックスされていたくらいの時代だった。と書いてしまうとある程度年代がばれてしまうが、まあそういうことである。


 なぜこんな話をしているかというと、とある漫画原作の映画がいろいろと物議を醸しているというところから端を発している。ぼくはその原作を未読であるが、原作のプロモーションの時点で「うわ」となるくらいには、ぼくの苦手な「オタク」のあれこれが埋め込まれていて、「おまえは『オタク』じゃないのだからこっちにくるな」と暗に言われたような気分になった。ぼくとしてもオタクは引退したのでそうしようと思った。
 そう、ぼくはむかしはオタクだったと思う。鉄道の路線図や時刻表が大好きだった。検索するわけではない、鉄道の路線図を見てあの駅とこの駅がつながっていて、この駅は特急が止まる、あの駅は快速も通過する、みたいなことがすごく知りたかったし、今でもそういう側面はある。けれど、もう昔ほど鉄道について何かを知ろうという気持ちはない。つまり、鉄道については引退している。RPGではファイナルファンタジーシリーズにはまり、高校時代はそれについての論文のような物までかってに書いたくらいだ。それもいつしかついていけなくなり、大学を卒業する頃には引退していた。オタクというのはぼくにとって、何か知識を仕入れてそれを披露する人間のことであると定義している。そのあり方にぼくはどこかなりきれないところがあり、また常に、「オタク」というものの存在の矛盾にもやもやしたものを感じてしまうことがある。
 そもそも「オタク」とは、というはなしをはじめてしまうと、実はこれが非常に面倒なものになってしまい、現代評論の様々な部分でも未だになんとなくでしか結論がないようなものであるので、ここでは割愛させていただく。そんな面倒に巻き込まれるのはごめんである。


 しかし、大学に入ってから如実に感じたことであるが、ぼくはいわゆる「オタク」と呼ばれる人種が明確に苦手だ。なぜだろうか。少し考えてみた。
 高校時代まではそんなことは考えもせず、オタクであることを否定も公表もせず、ただ漫然とそうであるなあ、と思っていた程度であったわけだが、おそらく大学時代以降になってから、この「オタク」という表現自体が徐々に幻の市民権というべきか、そういったものを受けているかのように感じられる。難しいはなしだが、おおよそぼくの実感をことばにすればそうなる。より正確に言えば、ぼくは「オタク」が苦手なのであってオタクが苦手なわけではないのだ。さらにいえば「ヲタク」がぼくの最も苦手とする人種である、といえばもっとわかりやすいだろうか。同じ理由で、「腐女子」もあんまり、というかさらに苦手だといえる。ぼくは異性である女性の方が同性である男性より平均してずっと苦手であるという性質を持っているから、というのが最も大きな理由で、それ以上の理由はほとんどない。こういう書き方以上のことはすべきでないのでそう書いている。
 要は、ぼくはかれらの横顔のどこかに「ふつうのひと」を見てしまうからなのだろうと思う。それはハロウィンの日に渋谷ではしゃぐ若者たちみたいに「仮装」であって、本来はかれらは「ふつうのひと」であり、それをどこかで認識しつつも、確信犯的に「オタク」をしようとするというのが、ぼくにはどこか許すことのできない冒涜のようなものを感じてしまうのであった。それはある種の選民思想であり、教養主義的なところから来ていることは明らかであるが、しかしながらぼくはやはり、「オタク」を生理的に得意ではないと言わざるをえないのだと思っている。
 ぼくにとって「オタク」ではないオタクというのは、ある種の業であり、雑に表現すれば一種のギフテッドのようなものであると思っている。そうせざるを得ないからそうしているのであり、たとえば誰かにちやほやされたいから「オタク」を演じる、なんていうのは、どこかしらでオタクとはいえないだろうと思っているのだ。
 つまるところ、ぼくは「オタク」ではないにしろ、おそらくオタクたる何かがあるのかもしれないとどこかでは思っているし、そうでないひとをわずかながら見下しているということがここから導き出せる。そういう自意識を掘り出して、つまびらかにしていくことが、今後の創作につながると、ぼくはただ単純にそう考えているだけだ。


 異論はあってしかるべきだと思うが、ぼくはオタクは恋をしない生き物だと思うし、してはいけない生き物だからこそオタクなのだろうと思っている。ただ、それだけのことのためにこれだけの文章を書いている。

おすしを~~~~~よこせ!!!!!!!!おすしをよこせ!!!!!!!よこせ~~~~~~!!!!!!!おすしを~~~~~~~~~!!!!!!!!!!よこせ~~~~!