61 下水道のはなし

 東京の地下鉄の駅を歩いていると、どぶ臭いなと思うことがよくある。ひどい駅になると、柱や壁の一部から水が漏れだしていて、ビニールの膜などで覆っていたり、細い塩ビ管などで臨時の排水系統が作られていたりする。そこで、そういえば東京は合流式だったな、ということを思い出して顔をしかめたりする。
 先日、転職して初めての異動を経験して、その部署の影響で都市インフラに関連することを猛烈な勢いで勉強する羽目になっており、文系、それも全く関係のない経済学部を卒業したぼくは日々あたふたしながら建材や治水事業について勉強している。


 前回、物流システムの基礎は道と都市であると書いた。その物流システムであるところの道の中でも、特に複雑でやっかいなのが下水道と高速自動車道路ではないかと思っている。どちらも現代の都市には必要不可欠なものであるが、高度な技術を必要とする割に、それ自体に目を向けられることが少ない。先日、東京オリンピックのトライアスロンの会場となっている東京湾が非常に汚いということで、東京は合流式下水道であることが話題となった。ちょうどぼくもそれを勉強したところだったので、そもそもトライアスロンで東京湾を泳ぐこと自体止めるひとがいなかったのか、と思うくらいだった。
 そもそも、下水道というのは下水を速やかに都市から排出して処理をするシステムである。下水道が整備されることによって、都市は衛生と高度な治水能力を手に入れた。この下水というのは一般的には生活排水や屎尿のことを指すが、実は下水道法上の「下水」は降ってくる雨水も含めて「下水」と呼ばれている。道が舗装された都市に降ってきた雨水は、そのままであれば土が吸収することができず、逃げ場を失い標高が低いところに集中する。その局地的な洪水が起きることを防ぐために、道路に非常にゆるやかな勾配を設け、側溝で雨水を受け、管路を通って河川に放流する。そのため、水を排水する系統ということで下水道法の管轄ということなのだろう。
 この雨水を排水する系統と、生活排水、すなわち下水道法上の「汚水」を運搬、排出する系統が同じものを「合流式」、異なるものを「分流式」と呼ぶ。東京や大阪はかなり早い段階で都市化され、早急に下水道を整備する必要があった。だから地中にひとつの大きな管さえ埋めてしまえば雨水と汚水の両方をすぐに処理できる合流式の下水道が整備された。施工コストと時間の問題でそうせざるを得なかったのだろう。
 そして、問題点はトライアスロン問題のときに報道された通りで、大雨が降った際に、管路を大量の雨水が流れるが、処理場の能力を超越する水が流れ込んでしまった場合、汚水を含む水の一部が雨水系統から排出されてしまうという構造的欠陥がある。なぜこのようにしているかといえば、処理場が壊れてしまった場合に処理できなくなる汚水と、未処理のまま放流する汚水とどちらがより都市に影響を与えないか、というトロッコ問題的なところからだろうと思う。
 そういった側面からも、早い段階で合流式下水道より分流式下水道の整備が進んだ。関東でも東京と横浜をのぞけば、ほとんどが分流式である。東京と横浜も、全部が合流式ではなく、一部のみ分流の部分もある。だから、大都市だからといって合流式であるとは限らない。念のため。


 そして最初のはなしにもどる。東京の地下鉄の独特のどぶ臭さは、合流式下水道の管が近くを通っているからなのかもしれない。もしかすると、伝ってきた雨水が汚水とどこかで混じっているのかもしれないし、はたまた地下にあるトイレなどから排出される汚水をくみ出すためのビルピットという施設からのものかもしれない。合流式だと、側溝がそのまま汚水の入る下水道に直結しているため、ビルの地下に埋設されているビルピットから排出される一定量の汚水が側溝のすぐ脇を通ることになる。そのため汚水の臭気がわずかの間公衆に漏れ出てしまうのだ。


 いずれにしても、都市ひとつの何気ない日常をとっても、その原因はその都市ならではの特殊な事情がある場合がかなりある。なぜだろうと考えて調べると、意外に今まで感じなかった自分のまちについても、想いを馳せてしまう。ぼくはそういう人間であり、最終的には都市のインフラそのものを見守っていく業界にたどりついた。そして、そこで骨を埋めようと考えている。そこでしか見えない景色をどれだけ表現できるかが、ぼくのこれからの書き手としての使命なのではないかと考えている。

おすしを~~~~~よこせ!!!!!!!!おすしをよこせ!!!!!!!よこせ~~~~~~!!!!!!!おすしを~~~~~~~~~!!!!!!!!!!よこせ~~~~!