見出し画像

いいCSの三拍子『プロ・素人・バランス』

熟練のプロがド素人に相談する。そんな空間。

農業における人のマネジメントに特化したサービスを提供している会社をやっている。
お客様は、農家さんであり、経営者だ。
40代が若者扱いされる業界にあり、お客様もベテラン揃い。20年、30年選手なんてのは当たり前。
当社CSチームは零細ベンチャーらしく20代なので、年齢差は凄まじい。
そして、私たちには、農業の知見もなければ、社員・パートさんのマネジメント経験もほぼない。

それでも、 プロ中のプロから、素人の我々に相談がくる。
CSや営業経験者なら当たり前なのかもしれないが、前職がマーケティングで、コンサルタントとも仕事をしたことがない私には、ちょっとした珍事なのである。

新卒が引き出した「そんな感じでやってみますわ。」

ありがたいことに、零細企業に入社してくれた (無謀な) 新卒がチームにいる。
先日、関西のお客様から次のような相談を受けた。

K様
「スタッフそれぞれの成績をどう見せていくのがいいんやろうか。貼り出してみてもいいんかな?」
「昔は、成績表とか廊下に貼り出しとったやろ。あんな感じ・・・で。」

なかなか、アグレッシブなお客様である。
そういうやり方でうまくいっていいるところもあるが、もちろんリスクもある。

新卒「お悩みというか、懸念点がおありなんでしょうか?」
K様「んー、なんかプレッシャーは感じてほしいけど、、、ギスギスはできんし。」
新卒「ギスギスさせたいわけではないですもんね。」
K様「そうやなぁ。今は、飲みにも行かれんし。一人ひとりにだけ見せたほうがいいんかな?」
新卒「面談の時間を設けるお客様もいますよ。もしやるとして、K様はなにを伝えたいのでしょうか?」
K様「そうやなぁ。"見てるよ" ってことかな〜」

共感しつつ、どんな理想状態を描いているのか、一つ一つ話を聞いていく。
最初は、パートさんに自分の脳力や出来具合を知ってもらう、プレッシャーを感じてもらうという話だった。
けれど、深く話していくにつれ、それは表面的なことであり、ほんとうに伝えたいことは "見てるよ、気にかけてるよ。サポートもするから、しっかり頼むね!" だということにたどり着いた。
そこからは、目的にあわせて、他社事例をいくつか打診し、形を決めて、今後の流れについて大枠を合意する。

K様「相談してみてよかったですわ。そんな感じでやってみます。」

20年近く作物とパートさんに向き合ってきた大先輩が、新卒3ヶ月目の新卒に相談する。
そして、スッキリした顔で「やってみます」とおっしゃっていただく。
不思議な空間である。

プロとしての技、引き出しが価値を高める

事業ドメインは農業 x 人のマネジメントだが、私たちが農業やマネジメントにおいて、お客様に並ぶことはできない。
時間が足りないし、人生経験が足りないし、機会が足りない。
それでも、相談はくる。
正解を持たない中で、なにかを持ち帰ってもらうことが、サポートではないCSとしての価値なんだと思う。

先の例では「全員の成績を公開するか or 限定公開にするか」への回答だけでも十分ではある。
ただ、一歩踏み込んで「なにがやりたかったのか」「本当に叶えたいことはなにか」を一緒に考えて、「あぁ、、、これだったな、やりたかったことは」に到達できたことが重要だったのだと思う。
本質的な課題を持って帰ってもらえたからこそ「やってみますわ」になったと思う。

さらに、課題の特定で終わらず、提案までいけたことが大きかった。
的外れでも提案する。一緒に考える。お客様に選んでもらう、決めてもらう。
意思決定して覚悟を持って帰ってもらえる打ち合わせは、本当によい打ち合わせだと思う。

そのために、勉強が重要なのだと改めて感じた。
お客様事例における成功・失敗要因、農業固有の環境への理解、農業に限らずマネジメント技法や流行をインプットするという積み重ねが土台にある。
ここをサボらなければ、プロが知らない、プロの技を提供できる可能性が出てくるのだ。
さらに、ひとつの技法や手法でも、課題の角度に応じて、伝え方や使い方を応用できれば、たくさんの引き出しからお客様に選択肢を提示することができる。
そうすれば、決めてもらえる。

まとめるとチープだが、

解きほぐす技 (= 質問と整理のスキル)
提案できる引き出し (= インプットと応用のスキル)

が重要なんじゃないか、と感じた。

素人としての初心も鍵になる

少し変わって、別のお客様から非常に嬉しいお話を頂戴した。

御社のサービスを使っていてよかったことですか。
うーん、色々あるけれど、、、もしかしたら、一番大きいのは、考える時間ができたことかもしれません。
色々、質問してくれるじゃないですか。
「それは、なにを目的にされているんですか?」
「どっちが優先度が高いのでしょうか?」
「どうして、そのやり方を選択されたのでしょうか?」
とかね。
経営とか、パートさんのマネジメントとか、改めて、立ち止まって考えることって案外なくて。
なかなか、そういう話もしないので。
質問してもらって、自分の中でもはっとすることや発見がある。
なので、この一緒に考えてもらう時間っていうのは、僕の中では非常に大きいな、と思いますね

すごくポジティブに捉えてもらったものの、我々が無知なために、たくさんお伺いしただけである。
しかし、とても大事なことを教えていただいた。
プロとして提供していくことが価値だと考えていたし、絶対にそうでないと、と思っていた。
しかし、どうも違った。
一緒に考えていく、その業界や慣習に染まっていない人間として素直に訊いてみる、ということが価値になるのである。

無知なままでいることを許容してはいけないが、私たちは素人であり無知なのだという意識を持ち続けること、そして無知であることに正面から向き合うことも大事なのだと感じた。
知っていると思うのではなく、毎回「知らないことがある」「この人にはこの人の背景がある」「ここからなにかを学ぼう」そう思って、話を伺っていくことの大切さを教えていただいた。

プロと素人のバランスが命

「プロとしての技術」と「素人としての初心」は、使い方、そのバランスが重要なのだとも思う。
プロに傾きすぎれば、知ったかぶりの偏屈コンサルタントのできあがり。
素人すぎれば、ただ勉強させてもらって終わり。

これは、実体験からくるもので非常に恥ずかしいが、書いておく。
前職でかなり勉強していた (と思い込んでいた) 私は、同期からすると相談しても話も聞かず、答えらしきものを押し付けてくる相談しにくい人間だったはずだ。その行為はプロではないが、プロに傾き過ぎている。
一方、農業に関わり始めた頃の私は、自分の引き出しが少なすぎて、お客様から勉強させてもらう一方で、選択肢を提供することができなかった。

だからこそ、積み上げるものを積み上げて、準備をしつつも、話を伺うときにはそれらを取っ払って、真っ白な状態で話を聞く。
その上で、プロとしての技、引き出しを上手に提供する。
お客様に行動してもらうためのCSに必要な要素は、「技術」「初心」「バランス」なのだと思う。

改めて、長年の勘と経験を蓄積した猛者たちが、若きペーペーに相談するというのは面白いな空間だと思う。
次のお客様にも覚悟を決めて行動してもらえるように、頑張っていこう。

ご支援は新鮮なお野菜に変わり、やがて文章となる見込みです。