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たかが2円、されど2円 ~最低賃金決定の意義

8月5日、熊本県の最低賃金が決まりました。
7月8日付のnoteにも書いたように、その動向には注目していたところです。

【日本はなぜ賃金が上がらないのか?】
https://note.com/s_kohyama/n/n3a64afcf7994

熊本県内の最低賃金を審議する『熊本地方最低賃金審議会(以下、地方審議会)』では「今年度の県最低賃金を現行から32円増やし時給853円とする」ことを決めました。過去最高の上げ幅であり、国の審議会が示した目安を2円上回ることは異例中の異例。加えて、これまで公益・労働者・経営者の3者の代表が揃う地方審議会では『全会一致』で決まってきたものが、9対5の賛成多数で議決。反対した5委員は全て経営者側とのことで、このことも異例でした。関係者の間では少なからず波紋が広がったようです。

審議会終了後の各委員のコメントを要約すると三者三様に。
●公益を代表する地方審議会長
「政令市がある県として、全国で最低水準の位置から抜け出したいと考えた。福岡との最賃49円の差も大きく、労働力が流れるのではとこれまで指摘されてきた。TSMCの進出という国家プロジェクトが始まろうとする中、熊本の新しい最賃の姿として32円を提示した」
●経営者側
「物価高を考慮すれば、国の目安額までの引き上げはやむを得ないが、それを上回るのは納得できない。事業者にとっては原材料費などが上昇する一方で、価格転嫁が難しい。小規模事業者の今後の影響が心配だ」
●労働者側
「国の目安を上回っていることに一定の評価はできるが、生活必需品の価格上昇は低所得者を直撃している。今後の影響を考えると32円が十分とは言えない」

ご覧の通り、三者三様のコメントです。これまでも経営者側と労働者側が一致することは稀でしたが、それでも両者が歩み寄る形で最終的には決まってきていました。他の都道府県を見てみると、まだあまり決まっていないようですが、兵庫県では国の目安を1円上回る最低賃金を決定したようです。

そもそも最低賃金がどのようにして決まるのか、知らない方が多いと思いますが、4つにランク分けされた都道府県は、国の設置する『中央最低賃金審議会(中央審議会)』でランクごとに上げ幅の目安を示されます。ちなみに熊本県は最低のDランク。その後、都道府県ごとの地方審議会は設置されるものの、基本的には国の目安通りに決定されていく。そこに自主性や主体性を見出すことはできません。ある意味では、長年続いてきた上意下達による最低賃金を決める仕組みに限界がきた、といえるのかもしれません。

【令和4年度地域別最低賃金額改定の目安について】厚生労働省HPより
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27195.html

2000年に施行された地方分権一括法では、国と地方とは対等の関係と位置付けられ、地域の主体性や自立性を高めようと、国から地方公共団体への事務・権限の移譲や、地方公共団体の義務付け・枠付けの緩和等が行われてきました。当時の地方には、権限とともに責任も担おうとする覚悟を示そうと、かなりの熱気を感じていました。ところが、最近では、地方分権改革の流れとは逆行するかのように、国は地方をコントロールしようとし、地方自体も突出することで批判を受けることのないように、国の顔色をうかがったり、横並びよろしく他の地方公共団体の様子を窺う姿勢が強まったかのようです。

そんな中での今回の熊本県の最低賃金決定の動き。大げさに思われるかもしれませんが、一時的な反乱で終わるのか、それとも地方審議会委員の会長が言うように『新しい最賃の始まり』なのか、今後にも大いに注目したいと思っています。たかが2円、されど2円、今回の最低賃金の決定にはそんな意味が込められているのです。

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