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制度を揺るがす善意と悪意

新型コロナウイルス対策の国の給付金詐欺が発覚しました。容疑者の1人が東京国税局の職員ということもあり、怒りをもって報じられています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/66bb0286228b73d206e97be4089a58724b188c99

このニュースを見て、私の認識不足を痛感したのが、個人投資家も持続化給付金受給の対象者となること。17歳の少年が、コロナ禍で収入を減らした個人投資家と偽って、持続化給付金100万円をだまし取った容疑で書類送検されています。申請名義人の多くは高校生や大学生などの若者とのこと。単に騙されただけなのか、それとも……。海外逃亡している主犯格が逮捕されれば、金の流れや具体的な手口などの全容が明らかになることでしょう。

被害額は2億円ともいわれる中、「これは氷山の一角ではないか」との懸念の声も上がっています。確かに、現在報じられている内容を見ると、「制度に精通した公務員だったから可能」というよりも、言葉は適切ではないかもしれませんが、「やろうと思えば誰だってできる」それくらい単純な手口のようにも思えます。とすれば、『氷山の一角』との懸念は、当たっているのかもしれません。

この制度を設計したのは中小企業庁の職員。もちろん公務員です。今となっては「なぜこんな不正を招くような制度にしたのか」との批判も聞こえてきますが、当時は、書類や手続きをなるべく簡素化することで、一刻も早く手元に届けることを最優先とされてきました。そうなると、制度を悪用しようと企んでいる者からすれば、しめたもの。公務員にとっては、公平公正の確保と個々への対応、緊急時の迅速性も含めて、これらのバランスをどうやって図っていくのか、とても難しいところです。

今後は恩恵を受ける側の善意と悪意とを図りながら制度を設計することになるのかもしれません。例えばヨーロッパなどでは、公共交通機関を利用する際、乗客が乗車券を自己管理することで駅員や乗務員による運賃の収受や乗車券の改札を省略する『信用乗車方式』が導入されています。乗車券無しでも乗れることから、「さぞや『キセル乗車』が多かろう」と思いきや、通常のやり方とほとんど変わらないとのこと。なぜなら、ときおり行われる抜き打ち検査で不正が発覚すれば、料金の数十倍もの高額ペナルティが課されることになります。善意に頼る仕組みの場合は罰則強化で不正を減らす、これからの制度設計に際しては、悲しいことではありますが、こんな傾向が強まるのかもしれません。

善意と悪意が複雑に入り混じる社会。それは個々人も二面性を持ち合わせています。お金が絡むことになれば欲が強まり、悪意が顔を出すことになります。今回はその悪意がむき出しになった結果といえるのかもしれません。ただ、この事件での救いは、申請名義人の1人が警視庁に不正受給を自ら申告したこと。一度は誤った道に進んでも、やり直しは効きます。やはり善意を信じたいものです。

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