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『白川野宿』~白川を憩いの地へ

野宿という言葉を久しぶりに聞いたような気がします。熊本市の中心部を流れる白川の河川敷で『白川野宿』というイベントが開催されているのです。河川の拡幅工事によって生まれた空間を市民の憩いの場として活用しようと、地元有志の皆さんによる夜市やキャンプが始まりました。拡幅工事といっても、堤防沿いで川の流れを見守り続けてきた木々たちを、『立曳き』という伝統工法を用いて移植しているので、以前からの趣を維持し、新たに作られた人工的な空間といった印象は感じられません。そんな『白川野宿』を楽しむ知人を訪ね、野宿の楽しさを覗いてみました。

中心部の繁華街から水前寺方面へ歩いて数分、電車通りに沿って大甲橋を渡ってすぐの河岸がそのエリアです。電車や車の行き交う音に川のせせらぎがほどよく交じり、対岸のビルの灯りを眺めながら、手作りの料理やビールをいただきました。身近なところで日常の慌ただしさから解放される、手軽ではあるけれどとても贅沢な空間。暗くなり焚き火の炎を眺めていると、どこか別世界に瞬間移動したかのような錯覚を覚えました。

白川は多くの熊本市民にとって身近な河川なのですが、死者行方不明者422人を出した昭和28年の『白川大水害』を始め、これまで幾度となく災害を引き起こしてきました。2012年の九州北部豪雨は記憶に新しく、役所やオフィス、商店などの集中した都心部の浸水被害を、ぎりぎりのところで食い止めることができました。自然と災害は常に背中合わせ。共生するためには河川を知ることが重要で、万一高い堤防などで河川を遮断し、人々を遠ざけてしまっては迫りくる危険を察知することはできません。

熊本では今、再びダムで揺れています。2020年の球磨川流域での水害を契機に、一旦は中止されたダム計画が再び動き出しました。「球磨川の流域環境を守る」という民意を尊重して中止されたはずのダム計画が、水害後、「命と環境を守り、両立すること」へ民意が変わったとして、流水型ダムの整備が急ピッチで進められようとしています。命と環境の両立は以前からの流域住民の願いであり課題。そんなに簡単に答えの出せるものではないはず。

多大な被害に遭った白川はたゆたうように、静かに流れています。ここに来て、川のせせらぎに耳を傾けていると、本当の民意が聞こえてきて、新たなアイデアが浮かんでくるかもしれません。


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