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『小京都』からの転換~オンリーワンの観光政策へ

『〇〇の小京都』、そう言われればよく聞く言葉ではありました。ウィキペディアを見てみると、中国、九州地方では、松江市や尾道市、津和野町、朝倉市秋月地区、日南市飫肥地区などがそれにあたります。相良藩700年の歴史を有する人吉市も『小京都』を名乗っていたことを知っていましたが、同じく風情のある町並を有する山鹿市が『肥後の小京都』と呼ばれているのは初耳でした。全国各地に広がる小京都は、それだけ京都自体に魅力と特徴があり、人を引き付けるだけの力を持った地名だと言うことなのでしょう。

ところが京都新聞では、1985(昭和60)年5月、全国に散在する小京都と呼ばれる26市町と京都が参加して、それぞれのまちのイメージアップと観光客誘致の相乗効果を図ることを目的として結成された『全国京都会議』から、最近では脱退が相次いでいると報じていました。多様化や個性が求められる時代に、小京都と称することで、どこまで効果があるのか、見直されても当然だと思います。またその地特有の個性が、京都と比較されてしまうことで、返ってマイナスに働く場合もあるのだろうと思いました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/76de4d8b49060b5e99a1f85d8332539922895ab8

私は熊本市長を務めていた時に、「都市の個性や魅力」とひと口に言っても、簡単ではないことを実感してきました。いわゆる『都市ブランド』と呼ばれるものですが、一朝一夕にできるものではありません。熊本市は2011年に九州新幹線が全線開業し、福岡市や鹿児島市と1時間以内で結ばれることになりました。新幹線効果には期待しつつも、通過駅にならないように、熊本市の魅力を全国に発信しようと躍起でした。

当時、着目したのが『熊本城』と『水』。お城も全国各地にあるのですが、武者返しと呼ばれる石垣や復元整備された本丸御殿、それらを含む城域が、街の中心部から歩いて行ける城下町であることをアピールしました。

水については、人口70万人を超える熊本市の上水道全てが地下水で賄われている世界でも稀な都市であるということ。各所に湧水が見られ、熊本市の東部地区に広がる江津湖は、清冽な地下水を湛え、稀少な鳥や植物、魚など豊かな自然環境の象徴のような湖が広がっていること。それらをアピールしました。

新幹線開業の翌年、2012年には政令指定都市に移行することが決まっており、大都市であるにも関わらず、歴史や文化、自然環境が豊かであることをアピールしたものです。その際に意識したのがお隣の福岡市。九州だけでなく全国で最も元気のある『地方最強都市』、『アジアのゲートウェイ』としても高い評価を得られている福岡市に近い熊本市が存在感を発揮するためには、福岡市が決して真似できないものを売り出そうと考えました。

京都だけでなく、軽井沢や銀座などになぞらえて、「小〇〇」として売り出すのも戦略の一つであり、決して否定するものではありませんが、それでは本家を超えることはできません。古い表現になりますが、オンリーワンを目指すことがより求められる時代なのだと思います。

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