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【授業紹介】実習・巻子(巻物)編

こんにちは

こんにちは!ナカモリです。
今週の仙台はずっと雨が降っていて、気温の低い日が続きました。関東地方は梅雨入りの発表もありましたね。
前期の授業も残り半分。梅雨に負けないように頑張っていきたいです。



今回の話題

さて、今回は、巻子(巻物)の扱いについて取り上げた実習の様子をお伝えします!
はじめに、巻子の性格について杉本から講義がありました。
以下、授業中の解説をご紹介します。

巻子の特徴

巻物と聞くと、忍者が持っている秘伝の書が思い浮かぶ、という人も多いのではないでしょうか。巻子を広げていった一番奥に重要な内容を書いて、簡単には見られないよう守っている点に、秘伝の書が巻子として作られる利点がありそうです。

しかし、数メートル、時には数十メートル紙を広げないと内容を確認出来ない巻子は、実用的でなく、あまり多くは作られなかったそうです。

一方で、その扱いにくさにも関わらず巻子として作られたものは、特殊で、作られたこと自体に意味があります。
例えば、お寺や神社の成り立ちを伝える縁起絵巻は、霊験あらたかな様子や由緒正しさを示すために、伝統的な巻子の形で作られました。加えて、お寺の由来を人々に説明する際に、連続した流れを視覚的に見せられる点も、巻子ならではの良さだと言えます。

このように、巻子には見づらいという難点がありますが、それを乗り越えて制作されたものには意味があり、出来の良いものが多いそうです。そして、保存状態については、手前の部分は傷みが激しいですが、根気強く広げないと見られない奥の部分は、状態が良く綺麗に残っているということです。


巻子から冊子へ―装丁の変遷

つづいて、糊でつなげた長い紙を巻いただけの巻子が、折って綴じられ、冊子になっていくまでの発達の過程について、説明がありました。
(以下、各装丁の模式図については、真保亨『古絵画のみかた―美と伝統』第一法眼出版 1974より転載)


まず、巻子同様に長くつなげた紙を、山折りと谷折りを繰り返して折り畳んだものが作られました。これを折本(おりほん)といい、経典の装丁に多く見られます。

折本

これだけでも随分扱いやすくなっていますが、うっかり落とすと、バラバラと広がってしまう恐れがあり、まだまだ不便です。そこで、折本の背を糊で綴じる旋風葉(せんぷうよう)という装丁が生まれました。
(※旋風葉には、表紙の上下を紙で止めたものと、各ページを背で糊づけしたものがあるようです。)

旋風葉


旋風葉はコンパクトで扱いやすい形状ですが、紙の折り目に負担がかかり、傷みやすいという問題がありました。それを解消するべく考えられたのが、粘葉装(でっちょうそう)という装丁方法です。旋風葉では山折りでつながっていた小口(本を開いたとき両外側にくる部分)が、粘葉装では切り離された形になっています。一つ一つのページが止まっている蝶に見えるため、胡蝶装(こちょうそう)ともいいます。

粘葉装


ここまで糊綴じによる装丁の変遷を見てきましたが、そもそも糊は外れやすい、という根本的な問題があります。つづいて、この問題を解消する糸綴じの装丁をご紹介します。

一つ目は綴葉装(てつようそう)です。こちらは何枚か紙を重ね、二つ折りにして真ん中を糸で綴じ、それをいくつも重ねたものです。

綴葉装

こちらは、糊代がないためにページが完全に開くという利点があります。
見開きで大きく作品の写真を載せる展覧会図録などで重宝される綴じ方で、この度杉本が制作した『東北画人基礎資料集』も、綴葉装を採用しています。( ↓『東北画人基礎資料集』についてはこちら。)



二つ目は、明朝仕立(袋綴)です。こちらは、文字を書いた紙面が外側を向くように折ってページを作り、それを重ねて糸で綴じたものです。

明朝仕立(袋綴)



最後は大和綴(やまととじ)です。こちらは、綴葉装や明朝仕立とは異なり、重ねた紙に穴を開けて糸を通し、結んで止めただけの簡素な装丁です。

大和綴


授業では、実際の版本を手元で見ながら、様々な装丁の違いを学びました。

授業中に見た明朝仕立(袋綴)の冊子。内容は江戸時代の百科事典のようなものです。



実際に扱ってみる

巻子や冊子の基礎を理解した後は、杉本の実演を通して扱い方のポイントを確認しました。
それから、グループに分かれて巻子を広げ、巻き戻す練習をしました。

巻子を広げているところ。肩幅程度に広げて見たら、順次手前側を巻き取っていきます。
巻き戻しているところ
紐を結んでいるところ。「一か所ひっぱると解ける」日本の伝統的な結び方を練習しました。
授業では画帖(がじょう・絵の描かれた紙を厚紙に貼って折り畳んだもの)も扱いました。


授業で扱った巻子は、実物を写した模本でした。
絵巻の研究をする時にも、実物を見られる機会は限られており、研究者はまず対象の絵巻の模本をじっくり観察し、実物を見る際に注目すべき点を洗い出す、という方法で作品を見るのだそうです。



ありがとうございました

今回は、巻子の扱い方を学んだ実習の授業についてご紹介しました。
いかがでしたでしょうか。

展覧会などで見慣れている巻子は、一部分だけを広げた状態であるのがほとんどなので、自分で扱ってみないと、長さや扱いづらさは実感が湧かないと感じました。また、授業を受けるまで画帖の存在を知らなかったため、新しい知識を得る良い機会にもなりました。

それでは、今回はここまで。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!

【参考】

展覧会特設サイト:杉本監修の展覧会「東北の画人たちⅠ~秋田・山形・福島編~」についてはこちらからどうぞ!

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