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修繕積立金の値上と部屋の売却

昔、わたしが担当していたマンションの理事会後、一人の理事と個人的にお話をする機会があった。

 理事の方から「話があるから残ってくれ」と言われることは珍しい。

 要は、このマンションの修繕積立金の段階増額が心配で、売却を考えているが、どう思うか?という相談であった。

 そのマンションは、売り出し時に管理費・修繕積立金が極めて安価に設定されていたため、第1回の大規模修繕工事に際して銀行から借り入れして工事費を賄っていた。

管理会社を替えた際に修繕積立金が小さすぎると指摘を受け、修繕積立金負担額を当初の2倍に引き上げ、かつ、3年毎にさらに引き上げるという段階引き上げ計画を総会で決議していた。

10年もすれば、管理費・修繕積立金合計で毎月5万円近くの負担が発生する計画だった。

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 この方は、当時お仕事をされて収入があったが、10年後には完全に年金生活になるという。ローン完済後も、年金の中から毎月5万円近い金額をマンションに払い続けることに疑問を感じているとのことであった。


なるほど、そのマンションの修繕積立金負担額は計画上、相当のスピードで上がることになっていた。

これは、築10年過ぎまでの積立金負担額が相当に低い金額に設定されていたためで、積み立て挽回を急いでいる状態だった。

「今なら、高くで売れるのではないか・・・。」

「高くで売れるときに売って、賃貸に入居し、その後公営のマンションに申し込んだほうが安心して老後を送れるのではないか。」

 というのが、相談の趣旨であった。

 私は、修繕積立金の増額計画はあくまで計画であり、必ずしも計画通りに実施されるものではなく、管理組合が総会を開いて所有者の承認を得て実行されることだと、説明した。

 しかしその方は、

「組合は管理会社の言いなりで、管理会社が粛々と増額を進めればその通りに進んでいく」と、おっしゃった。

「あなたの前の担当者はいかにも営業マンで、組合が工事に費やす金額もすごかったから、信用できなかった。」と。

 確かに、管理会社は管理組合に積み立てを促す。早めに高めの工事をさせることが可能となるし、本当に工事が必要な時への備えでもある。

 居住者の負担を気遣って、予定されている積立金増額を見送ろうという管理会社の担当者はほとんどいないだろう。

 わたしが、そのままマンションの担当者であれば、不安を理解し、増額予定を下方修正できるか検討してみるが、担当替えは頻繁に行われる。

 だからなおさら、その理事が管理組合と管理会社をよく理解し、先を読んでいるということが分かった。

 わたしは、不動産屋ではないので、高くでお部屋が売れるかどうかは分からないと前置きしつつ、

「一つの案として、売却の機会を待つのはいいことだと思う。」
と申し上げた。

 今後、築年数が増し、修繕積立金負担額の増額が進めば、売却に支障をきたすことは大いに考えられる。そこまで予測できているなら進めてもよいのではないかと。

 相談から2年後、その居住者さんがお部屋を売却されたと管理員さんから聞いた。

 大変落ち着いた良い方だったので寂しい気はしたが、その方の決断にわたし自身が納得した。

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わたしのお仕事について ちいさな管理

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