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韓国総選挙にみる「法難」

韓国総選挙の取材でソウルに滞在しています。

選挙は、たいていの場合、争点となるのはもっぱら生活に身近なイシューです。外交はあまりポイントになりません。
ですが、内政が問われた選挙の結果が、のちに外交に大きな影響を与えること、実に多し。

今回の韓国総選挙はその典型例になりそうな雲行きです。しかも、外交で最も影響を受けそうな国が日本なので、何回か続けてこの選挙をお伝えします。


祖国≒曺国

いつも政治が熱い韓国らしく、今回も様々な話題があり、どの話から書こうか悩ましいのですが…
まずは日本でも一時期ワイドショーで騒がれた、曺国(チョ・グク)元法相にします。

彼は選挙の直前に新党「祖国革新党」を結成して比例代表のみに候補者たちを立て、自身も比例名簿の2番目に載せました。話題沸騰となったのが、その党名。

「祖国」も「曺国」も、ハングルで書くと同じ「조국(チョグク)」。個人の名前を政党の名称に含めるのは法で禁じられているのですが、同音異義語であることから「チョグク革新党」は選挙管理委員会に認められました。
こちらの写真↓では、その「조국」が彼の顔の斜め右上に写っています。

筆者撮影

つまり、「祖国を革新するぞ!」とアピールする政党だといいつつ、事実上、曺国氏の名前が連呼されるという前代未聞の党名が登場したわけです。

同音異義語の妙味というか言葉遊びというか、どう評すればいいのか迷いますが、そういうトリック(?)はまだあります。

上記の写真、「조국」のさらに右側に「9하자!」という文字が見えますね。「9」のハングルは「구(ク)」。一方、「救う」の「救」もハングルでは「구」。
日本語でも「九」と「救」はともに「きゅう」ですよね。

実は、韓国の選挙では各党に番号が割り振られるのですが、「祖国革新党」は9番になったのです。「하자(ハジャ)!」は「しよう!」。
つまり、「9하자!」は、「救おう!」と「9番にしよう!」をひっかけているわけです。

改めて整理します。
彼の上に写っている「조국9하자!(チョグクル クハジャ!)」は、「祖国/曺国を救おう!」と「比例代表の一票は9番にしよう!」を混ぜこぜにしているのです

いったい誰が考えたのか、言葉のセンスが抜群です。

韓国ドラマを地でゆく展開

限りなく「曺国革新党」に近い「祖国革新党」は、選挙の台風の目となっています。比例代表のみなわけですが、その比例代表での支持率で29.5%という世論調査結果も出ています。
これは、進歩系の最大野党「共に民主党」が比例用につくったミニ政党(「衛星政党」とも呼ばれます)の19%を上回り、保守系与党「国民の力」のミニ政党の30.2%に迫る勢いです。

しかし、なぜ曺国氏が日本のワイドショーを賑わせたか、思い返してみましょう。前の文在寅(ムン・ジェイン)政権で法相に就任したものの、娘の大学不正入学をはじめ家族のスキャンダルが噴出したためでした。

彼自身も不正入学のために表彰状の偽造に手を染めたことなど多くの罪で起訴され、一審・二審とも有罪判決。大法院(最高裁)に上告をしていますが、年内に棄却される公算が大です。
有罪が確定すれば、たとえ今回の選挙で当選しても議員資格を失うのですが、それでもこの人気。

そこには、娘の不正入学などで起訴されたことや、検察による長時間の家宅捜索が「やり過ぎ」「政治的な思惑に基づく強引な捜査」という曺国氏の一貫した主張があり、進歩派の有権者たちの間で共感が広がっているのです。

というのも、文在寅政権は検察の権限を大幅に縮小する方針を打ち出し、その実行役に任命されたのがソウル大学法学部の教授であった曺国氏でした。対して、曺国氏をめぐる捜査の総責任者は当時の検事総長・尹錫悦氏

曺国氏の視点からは、自らに対する捜査は検察弱体化の妨害が真の目的であり、だからこそ不当に過酷であったと映り、尹錫悦氏は不俱戴天の仇となりました。総選挙で新党を結成して与党の議席を1つでも多く削って尹大統領を苦境に追い込むぞ…と燃えている姿は、まるで韓国ドラマの復讐劇。

そういえば、ソウルのスーパーの店頭で、こんなパッケージの巨大なポップコーンをみつけました。

筆者撮影

ポップコーンに手を伸ばしながらNetflixのドラマを思う存分にどうぞ…というわけでしょうが、隣に置いてある500mlのビール缶と比べると、その巨大さがよく伝わるかと。

「検察独裁」と訴えて

現実の政治ドラマに話を戻すと、曺国氏は尹錫悦政権のことを「検察独裁」と断じ、今回の選挙で野党側が大勝して尹大統領を弾劾に追い込むことを目標に掲げています。

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