音楽の持つ不思議な力
オカリナを習っていたころ、老人ホームへ慰問に行ったことがあります。
その中に、重度の認知症患者で、演奏を聴いても全く無表情で、微動だにしなかった70歳代の女性がいました。
8曲ほど演奏したのですが、その間、ピクリとも動かず人形みたいでした。
ところが、最後に男性がソロで荒城の月を吹いた時、突然、表情がわずかに緩み、口が開いて、声は出てないけれど、唇が動きました。
歌詞を口ずさんでいたのです。
ビックリしました。
じっと見ていると、最後の4番まで歌詞を間違えずに、口を動かしたのです。
そして曲が終わった時、ボロッと涙を流されました。
私はそれを見て、何か熱いものがこみあげてきて、涙ぐんでしまいました。
この人の中で今、何が起きたんだろう?
間違いなく、なにか大きな感情が動いて、涙を流す力があった、
つまり、この人は生きているのだ、と。
そのことに、感動したのだと思います。
そんな経験があったので、音楽の持つ力って本当にスゴイと思っていました。
国立病院機構京都医療センターで2009年より脳神経内科外来で取り入れられている、「フラッシュソングセラピー」という独特な音楽療法があります。
飯塚三枝子臨床音楽士が考案、患者さんの嗜好に合った曲や記憶の中にある懐かしい曲を、ランダムに、フラッシュカードをめくるように提供し、患者自身がメドレー形式で次々と歌う、
素早い曲の変更やリズムで脳と身体を刺激し、充足を得る方法、となっています。
曲が変わる時、曲名を告げるのではなく前奏、または冒頭メロディーで誘導するのが特徴で、新しい曲に対するワクワク感、知ってる曲だとわかった時の安心感や、嬉しい思い、歌詞を思い出せた喜びなど、曲の数だけ多く感じてもらう、という療法なのだそうです。
もちろん保険適用ではないので、京都医療センターでは、自由診療でこれまで200人の認知症患者に実施。不安や暴言など周辺症状は大幅に改善、見当識など認知機能についても改善が見られた、とのこと。
2018年にはこのフラッシュソングセラピーのISOアプリが発売されています、
「認知症外来の音楽療法」
後に「音楽回想法」と名前を変えています。
APPストアから無料でダウンロードできるようになってますね。
「懐かしい!」という思いが脳にどんな影響を与えているのか、本当に不思議な気がします。
毎年増える認知症患者、
新薬のニュースばかりでなく、
こんなふうに様々なアプローチがあること、
医療以外にも、できることはたくさんあること、
もっと多くの人に知ってほしいものです。
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