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深海の街 / 松任谷由実


長くキャリアを積んで第一線を走り続けているように見える人でも、そのキャリアを細かく見れば浮き沈みはある。それは誰でも同じこと。今回のユーミンもそれは当てはまる。
ユーミンのピークとして、セールス的にはThe Dancing Sunが最高だけど、あれはタイアップだらけの作品だから…。作品としてのピークは私見では2回。14番目の月、そして、天国のドアかな、と思う。昨晩お会いしましょう から教祖的な祭り上げられ方は今となっては異様なものもありもはや社会現象。年々、なんかしらの流行を作ること、あるいは流行に乗ること、このためだけの作品が濫造されていき、結果、本人もわからないノーコンセプトな作品が世に流れたりして、00年代のいわゆる喪失の10年にセールスはダダ下がった。その間も、もがき続けていたように思う。

ある時期から、これからは流行とか、世の中の動きとかは関係なく、自分がやりたい音楽をやりたいようにやる、と宣言していたのも、もがき苦しみの宣言だとも思うし、重圧を跳ね除けるための宣言だったとも思うが、その宣言から10年以上経って、ようやく一つの結果を出したのが前作の宇宙図書館、そして今作だと思う。そして、この作品、今までにない相当な気合いを感じた。

本当はリゾートをテーマにしたものを作りたかったらしい。だけど、ご承知の通り、制作時期はコロナ真っ只中。ゴールが全く予期できない沈み切った空気の中、「深海の底で残るものは、愛しかないことに気づいた」というフレーズをコンセプトにまとめられていったという。このテーマは、深い。ものすごく深い。そして、こういうテーマを自分の中で見出していった時の絵の描き方=作品の紡ぎ方=は、やはり底知れぬパワーを感じる。同じく疫病に見舞われた100年前の五輪の年から、今に至るまでのシーンを切り取り、統一したテーマのもとに世界が綴られ、締めのタイトルチューンに至って、どんなことがあっても、愛は最後まで残り、それを永遠に信じ続ける、という一つのテーマを歌い上げて終わる。…これ以上ない構成で、じっと聞き入ってしまった。ようやく、セールスとは関係ない、本来のユーミンが戻ってきた感じ。やはり、この人は強い。久しぶりにいい作品に巡り会えて、満足しました。

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