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スマホ依存の説明問題

 今日、テレビ局から電話があった。依存がらみなのか、スマホ依存についてドーパミン神経系から説明してくれないかという話。
「快感でドーパミンが放出されると癖になって依存する」とかいうアホっぽい説明をしてほしいらしい。
「そりゃ、無理だ」と答えた。  
 そもそもドーパミン神経系は、報酬に対しても活性化するが、報酬が得られそうなトリガーでも活性化する。その程度は実報酬以上になる。だから、人はドーパミンにハマるといわせたいのだろうが、ドーパミン神経は報酬予測誤差を計算する。機械学習の強化学習はこの仕組みの応用だから今や常識。予測より実報酬が少なければ、ドーパミン神経の活動は止まる。これが繰り返されると「飽きる」。  
 テレビにそって説明すれば、あおった番組がつまらなければ(実報酬が予測を下回れば)、番組中でも視聴率は落ちるし、次回への報酬予測が小さくなり次回の視聴率は落ちる。  
 一発芸人さんは受けた当初はでてくるだけでおもしろいが(報酬予測が大きくなっている)、それを上回る快の提供が出来なければ、報酬予測誤差は0になり、早晩、飽きられる。  
 だから生活上の障害や苦痛が起きるほどの「障害」とか「症」といえる行動反復の問題点は、この報酬予測誤差のメカニズムの破綻。その破綻を後押ししているだろう、不安や高い衝動性、発達問題などの併存障害。ギャンブリングの場合行動遺伝学の研究から、いわゆるギャンブル依存のリスクの50%程度は遺伝要因で説明できるし、候補遺伝子もまあまあ同定されている。具体的には、NTF(ニューロトロフィンファミリー:Neurotrophin Family)、神経細胞の生存、発達、および機能を支援するために重要な役割を果たすタンパク質のファミリー。NGF,BDNF,NT-3,NT-4/5などが含まれる。いわゆるギャンブル依存症には脳の脆弱性とかかわるということ。
 快感を繰り返すと快感にハマるとかアホっぽい解説をしてはいけない。   
 だいたいドーパミン神経をサクッと快感というのもおかしい。痛みなど様々なトリガーでも反応する。だから、ドーパミン怖い、みたいな説明はちゃんちゃらおかしい。  
 また、スマホ依存なんて、WHOのICD-11に記載されているわけでもない。もし、ギャンブリング障害、ゲーミング障害といった行動嗜癖障害になぞらえるなら、 ①気が付くと始めてしまう、途中で中断できない、など行動のコントロールが障害されている ②その行動が生活上の他の次項よりも優先されている ③望ましくない出来事が続いているにもかかわらず、その行動が継続し、拡大している。 この3要件をすべて(すべてだよ)みたし、他の精神的な疾患や障害では説明できず、個人、家族、社会、教育、職業など重要な領域で顕著な障害や苦痛が一年以上生じている場合に、「障害」とか「症」と呼ぶのであって、これに足りない?場合は「危険な使い方、遊び方」と呼び、区別することが求められている。  
 だから世にあふれるスマホ依存チェック、ゲーム依存チェック、ギャンブル依存チェックなんて、ほとんどが危険な遊び方、使い方だ。いわゆる有障害率調査も同様。  
 さらにいえば「依存症」なんて言葉、ICD-11では薬物系だけで使われている。行動系は基本、~ing disorder。遊び方の障害。またWHOでは嗜癖化(依存プロセス)より生活障害や苦痛に重点が置かれている。  
 ま、こんな説明されては困るんだろうから、ここに書いておくことにします。

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