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⁂Ⅴ Libelleの章 ⁂

次の日、【シュピ】は、いつもよりも早く起きて“星の木”に向かいました。

「おはよう!【マリ】。」

その声に、“星の木”の下でまだ眠っていた【マリ】が
『んん…どうしたの?【シュピ】。』
とまだ開かない目をこすりながら答えました。

「ねえ、僕、羽がどうやったらできるのか知りたいんだけど【マリ】知ってる?」
『そうねえ…必要だったらできるんじゃないかしら?…ふぁぁ~。』
と【マリ】は、大きなあくびをしながら答えました。

「必要だったら?」
『ええ。必要がないならできないのよ。きっと。』
と【マリ】は“永遠の池”に向かいながら答えました。

「そっか。じゃあ、僕には羽は必要がないってことなのかな?」
『そうねえ…。【かたち】になったときには必要がなかったのかもしれないわね。(バシャバシャ)』
と“永遠の池”で顔を洗いながら答えました。

「【かたち】はどうやって誰が決めたんだろう?何が必要になるかなんてわからないのに。」
と【シュピ】は不思議そうな顔をしました。

『そうね。誰が決めたのかしらね。謎よね。』
とさっぱりした顔で答えました。

そんな会話をしているところに
『おお!ふたつ揃ってお出迎えありがとう!』
と調子のいい【ビー】がやってきました。

「あっ。おはよう【ビー】!昨日は本当にありがとう。あの後【シュメ】は大丈夫だったの?」
『ああ!嘘みたいに元気になったぜ。今朝も早くから舞踊ってたしな。なんでも、俺様みたいに鍛えて”ポー“を持てるようになったらまた、私も毎日”水晶の星“に飛んで行くわ…って張り切っているよ。』

【シュピ】と【マリ】は、あの、優雅な【シュメ】が【ビー】化した姿を想像し思わず苦笑いをしました。

『でも、元気になって良かったわね。もし、昨日、【ビー】が来なかったら、どうなっていたことか…。そうよ【ビー】、昨日に限って何かあったの?』

『あ、ああ!そうなんだよ!【シュメ】の件で大事な事、すっかり忘れてたよ。
いやね、昨日、“金の星”を出てすぐに、体が七色のでかい【かたち】に会ってね。
名前を…【リベレ】とか名乗ってたなぁ。』

【ビー】が出会った
その【かたち】は蜻蛉‐トンボ‐に似ている【リベレ】でした。
  
  *   *   *   *   *   *   *   *   

いつものように“金の星”を出た【ビー】は
“銀の河”付近まで来たときに見知らぬ大きな【かたち】に出くわしました。

4枚の長い羽を羽ばたかせ、同じぐらい長い胴体は七色に光っています。

その【かたち】は【ビー】に話しかけてきました。

『もし、お主は、どちらの星に生まれた【かたち】なんじゃ?』
『ん?俺様か?俺様はな、あの“金の星”に生まれた“金の星”の王子だが…
お前は何者だ?」

『申し遅れたのう。私は、名を【リベレ】と申すものじゃ。お主は新しく出来た星のほうの【ゼーレ】じゃな。しかも王子と。それは丁度いい。お主に大事な話がある。』
『大事な話?新しく出来た星って言ったか?よくわからないがどういうことだ?』

『説明してもよいかのう?』
『おう!手短にな。』

『今、私たちがおるこの宇宙は“8の字大宇宙”といってな。実は、ここには星や銀河とは違う【かたち】を失った【ゼーレ】という光が、星の数以上に飛び交っておる。私はその光を呑み込んで、各星々に【ゼーレ】を産み落としているんじゃ。【ゼーレ】は私の身体を抜けて産み落とされると、再びその星で【かたち】となって生まれ、生きることが出来るんじゃよ。』
『ふ~ん。じゃあ俺様もかつて【ゼーレ】だったってことか?そんな記憶はないけどな。』

『ああ。記憶がないのも無理はない。【ゼーレ】というものは何故か、新しい【かたち】になる瞬間にそれまでの記憶を消してしまうようじゃからのう。記憶があると色々と生きづらいんじゃろう。』
『なるほど。で、その【ゼーレ】とやらを、放っておいたらどうなるんだ?』

『そうじゃな。恐らく世界は何もない“無”の状態になるじゃろうな。』
『“無”?』

『そうじゃ。光だけの世界は、何もない“無”と同じじゃからのう。』
『それで、そうならないために呑み込んで産み落とし、【かたち】にして各星々にとどめているってことか?』

『そうじゃ。【ゼーレ】に比べたら星の一生などあっという間じゃ。じゃがのう、そうして【かたち】を持てば、その星を楽しんで生きることができる。そうやって、この”8の字大宇宙“は、均衡を保てておるのじゃ。』
『なるほど。わからなくはないな。で、【リベレ】、大事な話ってのは?』

『実はな、お主の星が出来る前は、あの白い星しかここにはなかったんじゃよ。白い星と言っても、その頃はもっと透き通っていてのう。私は星があることも知らずに通り過ぎようとしたんじゃ。そしたら小さい何かがその星にぶつかってのう。そのまま突き抜けって行ったんじゃよ。そしたら、みるみるうちに白くなって姿を現してのう。それでそこに星があることをはじめて知ったんじゃが、私はどうにもこうにも一方方向にしか進めんもんでな。それで産み落とすのはあきらめて、ひと周りして来たんじゃ。そしたら、もうひとつ小さい星もできていたんで両方に【ゼーレ】を産み落として行ったんじゃよ。』
『じゃあ、俺様はその時の【ゼーレ】ってことかい?』

『いいや。あのあとにも何度も産み落としているからのう。現に、お主が生まれる前から同じ【かたち】が生きておったはずじゃ。』
『確かに、俺様には王がいたわ。ん?王がいたが女王は知らないぞ?』

『そんなことはないはずじゃよ。すべての【かたち】は同じ【かたち】がペアになることで、またそれと同じ【かたち】のものが生まれるからのう。』
『なるほど?まあ、いいや。それで、その【かたち】とやらはどうやって決めてんだ?』

『なんでも【ゼーレ】は望む【かたち】になって生まれ変わるらしいのう。はるか昔に記憶が残ったままの【かたち】がいて、そう言っていたからのう。』
『へえ~。なら俺様は、次もこの【かたち】がいいなあ。』

『ハハハハハ。全く同じ【かたち】になれるとは限らないんじゃよ。その星にある材料でしか【かたち】づくられないからのう。』
『まあな。確かに記憶をなくしちまうんだから結果一緒か。でも、あれだな、今の俺様は前の俺様が望んだ【かたち】で生まれてきたって考えると感慨深いな。だってよ、【ゼーレ】だった間、ずっとこの【かたち】になることを望んでいたんだろうからよ。おっと、そうだ!俺様はその短い星の一生を楽しむために急いで行かなきゃいけないところなんだよ。大事な話っていうのはこのことかい?』

『いいや。もっと大事な話があるんじゃ。実はのう・・・その、白い星を突っ切っていった小さい何かなんじゃが、それと似たようなものがこちらに向かっているのを見かけたんじゃよ。それで、今ここにいる【かたち】に、このことを伝えておきたくてのう。』
『もしかしたら、また衝突するかもしれない…ってことかい?』
【ビー】は目をまん丸く見開いて【リベレ】に尋ねました。

『そうじゃ。ただ、嫌なことに、それが前よりも大きくなっておるんじゃよ。あの時は突っ切って行けるくらいの大きさだったんじゃが…。』
『一体どうすりゃいいんだよ?』

『どうにもできんのじゃ。私はまた、このまま進んでいくしかないからのう。次に来たときにお主たちの星が無事であればいいんじゃが。』
『無力か…。でも、きっと今までも、そうやって星々は生死を繰り返してきたんだろうからな。明日が来るのが当たり前なんて、そっちの方がよっぽどファンタジーな話だよな。でもよ、どうして、そんなことを俺様に話したんだ?』

『そうじゃのう。お主とばったり出会ってしまったからのう。話しておこうかと思ったんじゃ。お主とは以前にもどこかで、こうして会話している気がするんじゃよ。』
『そうか。俺様には記憶がなくて申し訳ないな。でも、こうして出会ったってことはきっと、そういうことなのかもしれねえな。』

『そうじゃな。引き留めて悪かったのう。』
『いいや。むしろありがとうよ。まっ、またすぐに会えそうな気もするけどな。』

『無事を祈っておるぞ。』
『ああ。…そうだ…もし、この星々に万が一のことがあったらよ、今いる【ゼーレ】たちを、また同じ星で会えるようにしてくれよ。いいやつばかりなんだ。ま、どうせ記憶はなくなるんだろうけどよ。』

『ああ。喜んでうけたまわるぞ。』
『よかった!それだけが救いだわ。じゃあ、またな。』

こうして、【ビー】は急いで“星の木”の待つ“水晶の星”に向かいました。


話を終えた【リベレ】は

『あいつは、記憶がなくなっても言うことは変わっとらんのう。』
と、少し微笑みながら呟きました。


そんな【リベレ】が、ホバリングしながら
あなたに向かって尋ねます。


「あなたはどんな【かたち】になる?」


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