「淋しい夜には裸になって」
金曜日の夜、有楽町駅前で。
「見て、特設水槽。」
都会のビルに立ち囲まれたアンバランスなそれ。動き回る魚たちをふたり、目で追いかける。
優雅にからだを動かして泳ぐね。でも、自分たちが優雅にからだを動かしていると、知らないね。
後ろから、やだ、気持ち悪い、と笑う女の子たちの声。友人はぐるりと振り向き「失礼な事を言うね!」と睨みつけたので慌てて引っ張り、少し開けた場所へ出てから声を出して笑った。
銀座へ。私達も泳ぐ。友人はよく喋る。私はあまり。
「装飾品を身に付けるのは、飾るのは、古来から人類だけ、あんなに昔の人だって動物の骨でお洒落をした、魔除けにもした、祈った、トルコの邪視除けを知っている?目で見て。その目を使って。安いものと高いものの区別がつくようになる。物も人も。おかしなものを手にしなくなる。見て。その目で。三島由紀夫を読んだの。流行りにのるべし。水着を買いに行かない?ナイトプールってやつが流行りらしいね。多分、私達より十も若い子だっているけど私達のが良いと思う。行こうよ。」
少し疲れてしまって、途中から筆談に切り替えた。隣に男が座ってきたら、気が乗れば少し話をして、嫌ならだんまりを決め込んだ。
「さっき言ってた三島由紀夫、あげる。」
友人はペンを取り出し文庫の裏表紙になにか書き付ける。私も倣った。
「やられたな、読み始め。」
「ラッキー、こっちは終わりかけ。」
笑う彼女へ打ち明ける。
「あなたの好きなところはいっぱいあるけど、一番好きなのは名前だよ。」
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