「それさえも笑い合った それさえも恋だった」

待ち合わせ場所に現れた彼を見た瞬間、目眩がした。
赤いポロシャツ。肩甲骨の形がよく分かる。
いいね、と思った。青い空の下を真っ赤なシャツで歩く事の出来る強い自信が。
「これ?古着だよ。」
そう言われてみれば確かに、襟は草臥れているような気もする。
「セブ島にも着て行ったんだ、銃を撃ったよ。」
あの空や海の元でこれを着たのかと、心が震えた。




そういうことばかり思い出していた。
目の前にいる男性は、見れば見るほど彼にそっくりだ。思わず口をついて出てしまう。

「Yさん、昔の恋人によく似てる。」
「昔の?好きだった?」
「…好きだと言われて付き合っただけ。あなたみたいなひと、好みじゃないもの。」
「随分子供っぽい手を使うんですね。僕を好きだから、知って欲しくてわざとそう言うんでしょう。まあ、“本当に”好きじゃなかったとしても、時間の問題でしょうね。」
僕は、あなたみたいなひと好きですよ。浅はかで可愛いなって。

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