aurora(3/3)

3

時は経つ。雪で見えなかった地面が少しずつその姿を現す。
もう会えない。あの日使ったギターはあの場に置いたまま。近づくことも出来ずにいた。もし彼が倒れていたらと思うと足が竦んだ。
きっと生きていても、もう嫌われてしまった。もうここにも現れることはないだろう。幻のようなものだったんだと言い聞かせる。あの時間は帰ってこない。

心に住み着いた彼を思う。何度も何度も繰り返す。考えることすら嫌になる。怯えるという事悲しいという事嬉しいという事。でもいなくなって初めて、今までにない寂しいという事を知ってしまった。





しんと静まる雪の中に、さくり、と氷になりかけた雪の音が聞こえた。興味もない。伏せた身体を動かす気にもならない。



なーにやってんの


その声にびくりと肩を震わす。顔をあげ目の前に現れたのは、悪魔の姿をした最初の彼。あ……ぅ……。言いたいことは沢山あったはずなのに、声はかすれ喉につかえて出てこようとしてくれない。
ぐるぐると……どうして??生きてた。良かった。でもしばらく来なかった。身体は??あんなに血が出てたのに??なんで??嫌われたんじゃないの??言葉にならない言葉だけが喉の奥を占めつける。


なんだあんなに綺麗な声で歌うのに、声も出ないほど俺様に会えたのが嬉しいか??それともまだ悪魔は怖いかぁ??


変わらない調子で話しかける悪魔。
きれいなこえ。
初めて言われた自分を肯定する言葉。
聞き間違えじゃなかった言葉。


き、きらわれ……た……と


振り絞った声はかすれ。目を合わすことはできない。傷跡はきっと残ってしまっていると思うと前が見れない。が、ぐいいいっと顔を掴まれる。



俺を誰だと思ってるんだ??



顔を持ち上げられ見せられた首には傷跡ひとつない。
????
何がどうなっているの??


つよぉーい悪魔だぞ??
笑いながら彼は言う。




馬鹿か、と笑いながら罵られて。声を出して笑いながら。また顔を見合わせる。不器用に笑いながら泣いた。


なんだちゃんと笑えるじゃねーか。



身体にあった歪みはすとんと抜け落ち。俺は人前で声を出し笑うことすら初めてだったということに気づかされる。
悪魔は言った。



まず名前を聞こうか、
俺は、悪魔族だからかね。
デーモン。デーヤンでいい


お、俺、名前……ない……


そうか。でも不便だな。んー。
そのたてがみ光ってんな。キンピカだから。
キンタって呼ぶわ。


キンタ……。



キンタ。お前をこんな群れに埋もれさせるなんて俺にはできねえわ。


う、ん??



考える暇無く、準備はもうして来た。という手にはどこからかゆらり煌めく見慣れたギターがでてきた。これはお前の大事なもんだろ??そんな声が聞こえたと思うと。しっかりと渡される。俺にこれは無理だ。やっぱベースのがいいわ、くるりと指を回すと彼の手には見慣れぬ楽器。調達するのに時間かかったんだよ悪いと思ったけど早くしなきゃと思ったんだ、と言いながら。


外へでてみないか。
その声と一緒に。


ふいに
手を伸ばすデーヤン。



世界はここだけじゃないんだぜ??
俺はお前と見てみたい。




なんて真っ直ぐなんだろう。
とまどいながらも
ずっと待ち焦がれていた。
差し出された手をそっと握る。



空は新しい世界へと導くように
オーロラが遠くどこまでも続いていた。

おわり