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大切なひとを待つ時間の長さ

「ゴメーン!待ち合わせ場所、変えてもいい?」

『ん?今から??』

彼の言う”あたらしい待ち合わせ場所”は、電車で50分以上もかかる遠い地だった。なんでも、想像以上におしごとが立て込んで、昨日約束した18時に、昨日約束した場所までたどり着けないらしい。景色が、急に暗くなったように感じた。まだ夏なのに。

これがもし、よくあるカップルなんかであれば、『えー!昨日と言ってること違うじゃん!』なんて拗ねてみたりするのだろうか。『遅れた分、おいしいスイーツ食べに行くの付き合って』なんて無理を言ってみたりもするのだろうか。

だけれど、この時のわたしは疲れきっていた。2日近く徹夜をしていた。
だから、できることなら1秒でも長く眠っていたかった。指定されたその場所までの50分を睡眠に費やせるのならば、そこに多少のお金がかかるとか計画していた予定が崩れるとか、そんなことは、はっきりいってどうでもよかった。
自分でも、ここまで冷たいヒトはいないんじゃないかと思うのだけれど。


ガタゴトと小気味いいリズムを奏でながら、地下にもぐったり、そうかと思えばまた地上に顔を出す電車に揺られた。乗車して10分ほどで眠りに落ちたまま、結局、目的地まで1度も目を開くことはなかった。思っていたよりも眠りが深くて、寝言を言っていたのか……?と心配になるほどだ。
ふと顔をあげると、そこには同じような服装をした大人たちが、同じような表情をしてつり革につかまっていた。

駅の改札を抜けて、人混みのない場所から彼に電話をする。

『もしもし~。今着いたけど、もう会えるかな?』
「え!もう来たの!!待ってて!すぐ行く!」

……15分は待っただろうか。大切な人を待つ時間って、どうしてこんなにも長く感じるのだろう。


なんてことを考えながら過ぎ去る人の流れを見ていると、”わー!会えた”の文字を顔に浮かべながら、走ってくる人がいた。遠くから見ても分かる。

「わー!会えたね!」

思った通りの言葉を、思った通りの声色でプレゼントされた。

正直、ここまででおなかいっぱいなのだけれど、彼が「おなかすいたね!」というので、これからおいしいものでも食べに行こうと思う。


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