疲れているときにふとやりたくなるゲームがあるんだ
鍵を回してドアを開ける。玄関で靴を脱ぎ捨てて狭いキッチン前を通り抜ける。ごちゃごちゃした部屋の隅に荷物を置いてただ一つの椅子に腰掛ける。
疲れた。
口から漏れるのは長い溜息。
飯を食べてシャワーを浴び少しだけインターネットサーフィンをして寝る。それだけの生活。いったいなんのために生きて……
CA-BOOOOM!
轟音。爆風が室内に入り込む。本棚が倒れ衣服が飛び散る。
反射的に振り返った。窓ガラスは完全に粉砕され、窓枠が所在なさげに佇んでいる。そして窓の外に人影。
ジャリジャリ。
そいつは更に混沌具合の増した部屋を横切り、唖然としてるわたしの前で立ち止まった。
男は銀行強盗が使うような覆面をかぶり、左手に酒瓶、右手にゲームのコントローラーを握りしめている。
「Heyメーン! 調子はどうだ!?」男が陽気な声で言った。
「えっ? ……えっ?」
「調子はどうだ!?」
「ええと?」
「疲れたときは娯楽だ! ゴラクニウムを摂取しろ!」
「ゴ、ゴラクニウム……?」
覆面男は勝手にパソコンの電源を起動させてSteamランチャーを開いた。
そして、俺が止めるまもなくいくつかのゲームをライブラリに表示させた。
「これが俺の今のオススメだ。とりあえず確認ぐらいはしてもいいんじゃないかね?」
◆
QT
言わずとしれたP.T.のパロゲー。
ホラー要素はなくとにかくゆるくて可愛くてサイコーが詰まっている一作!
自宅(?)でのパーティに始まり、おもしろ美術館、鹿もいるしスケート会場もある大きな公園などを適当に歩き回っているだけで楽しいのさ。
面白いものがあったら写真をパシャリ。
見て分かる通りキャラクターは皆笑顔。ここは皆が幸せで優しい世界。
癖になるBGMもグー。なんとサントラは無料!
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Hidden Folks
膨大に描き込まれた一枚絵の中から特定のオブジェクトを見つけ出すウォーリーを探せ』……ではなくHidden folks。のだ!
グラフィックは手書き、効果音はなんと作者さんの声と口で鳴らす音で作られてるというから驚きだ!その数なんと2000種類以上。
真面目に遊ぼうとすると疲れちゃうかもしれないので、適度に俯瞰しながら気になるオブジェクトをクリック!「ドゥ」「ポゥ」「シャァ」
ちょこちょこ動いてるオブジェクトを見ているだけで楽しくなること請け合いだ。
Desert Child
明るいものを楽しむには疲れすぎている、ダリーって気だるげなぬるま湯に身を置きたい。そんなときにはこれなんてどうだ。
椅子に深く腰掛けゲームを起動。思う存分ChillするまでCoolなLo-fi Musicが歓迎してくれる。そのまましばらく聞いててもいいし、スタートしてもいい。もちろんそこで終わってもいい。
気が向けばレースやアルバイトに精を出せばいいしそうでなければ適当に歩き回っていればいい。腹が減ったらラーメンもピザも鮮度の不安なスナックもある。ソレも億劫なら? 立ち止まってぼーっとしてればいい。Relaxするために使う時間は浪費じゃない。
Goat Simulator
今はもう無数にある○○Simulator系の先駆け。多分。
人間をやめたいならこれ。はい、君は今からヤギです。おめでとう!
何をすればいいかって? 好きなことをすればいいんじゃないかな?
なぜなら君はヤギだから!
ビルを駆け上る?危険物に火を付ける?人間を嫌な上司や顧客に見立ててぶっ飛ばす?やっちゃえやっちゃえ。責任なんて投げ捨ててしまえ。
なぜなら君はヤギだから!
Mutazione
あえて退廃的な世界に沈みこんでしまいたいときはコレが効く。
手描きで作られた素晴らしい世界。悲しくも優しいヒューマンドラマ。
幻想的な情景に反してシビアな現実が襲ってくるが、乗り越えた先に待つ感動はきっと心に染み入ることだろう。
そして世界を彩るオリジナル楽曲は寝るときのお供としても適している。
なんとレコーディングは全て生演奏というこだわりに作品。すごくいいぞ。
Donut County
くすっと笑えてサクッと破壊の快感味祝える一品。まいうー。
一応パズルゲームではあるけれど、ほぼ何も考えずに動かしているだけでクリアできるし街を混沌に陥れることができるのがグー。
キャラクターはカワイイし掛け合いが楽しい。
ああ、ドーナツが食べたくなってきた。
I Am Dead
このゲームもオブジェクト探しゲームだが、オリジナリティがある。それは、オブジェクトの断面を好きな角度から見ることができるということ。閉じたラジオの中や水筒の中、はたまた一見ただの石にしか見えない物の中などなど……。
これが本当に新鮮で面白く、好奇心がある限りいつまでもオブジェクトを眺めていられる。
◆
「どうだ? 琴線にふれたゲームはあるか?」
「え、そうですねぇ……まあ、いくつかは……」
「そうか、それはよかった! それじゃあ俺は帰るぜ。うまいもの食って楽しいゲームをプレイしてぐっすり寝ろよ! あと湯に浸かるのもいいぞ! グググ」
覆面男はバシンと俺の肩を叩き満足そうな唸り声を上げて返っていこうとした。
ボケーッと覆面男の後ろ姿を眺めていたが、ジャリジャリと耳障りな音で正気に戻り、
「あ、あの」
と呼び止めた。
「ん? なんだ? 他にも知りたいか?」
「ゲームもいいんですけど。えっと……窓ガラスの修繕費用──」
「コレは俺のオゴリだ! 遠慮せずに飲みな!」
俺が最後まで言い終わらないうちに、覆面男は重力を無視したような急加速で接近してきた。
そして俺の頭を恐ろしい力でつかみ、口に酒瓶をつっこんできた!
液体が容赦なく襲ってきて溺れそうになる。というか溺れてる。
鼻から液体が漏れる。苦しい。喉が焼ける。むせて口から液体が漏れるが覆面男は手の力を弱めてくれない。
程なくして俺の意識は疲れを感じることもできないほどぶっ飛んでいった。まるで爆発物に突撃したヤギのように。
終わり
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