法華験記 巻上 聖徳太子 その1

第一 伝燈仏法聖徳太子    

聖徳太子さまは豊日天皇の二番目の御子です。

ある夜、母君の夢に金色に輝くお坊様が現れて「私は自分の力で世の苦しんでいる人々を救いたい(救世)と願っております。これから貴方のお腹に宿ります。」と話し、母君は「貴方様はどのようなお坊さんなのですか?」と問います。

 夢の僧は「私の名は救世観音(菩薩)です。インドから見て西の方角に私が宿る相応しいお家があると聞きました。」と答えました。
 母君は「私の体は垢にまみれて汚れています。どうして宿るとおっしゃるのですか?」

 僧は「私は垢まみれや汚れていることは全く問いません。あなたに宿ることによって多くの人々が喜んでくれることを望みます。」といって踊りながら母君の口の中に入りました。母君が朝起きると喉の中に何かを呑んだ感触がありました。 

 その数か月後、妊娠していることがわかりました。妊娠八か月ほど過ぎた時にお腹の中で赤ちゃんが話をしている声が聞こえたといいます。いよいよ出産のとき、急に西の方角から赤黄色の光が差し込み、宮殿の中をとても明るく照らしました。

 赤ん坊(聖徳太子)はすくすく大きくなり、よく喋り、人の心がよくわかりました。幼少のころ、百済の国からお経や論書が奉納されたのを聞き、天皇陛下に「そのお経や論書をぜひ拝見させてください」と奏上されました。

 天皇陛下はとても驚き、「どうして仏教の書物を読みたいのだ?」と問われます。太子は「私は昔、前世で中国の南岳という場所で数十年修行をして いました。なのでぜひ読みたいと存じます。」と仰りました。

 六歳の頃、太子の御体からはとても良い香りがしたらしく、抱っこをしたり触ったりした人はその良い香りが数か月も無くならなかったそうです。 
 別の日に、百済国から日羅というお坊様が朝廷に来られました。その体から光を放ち、沢山のお付きとと共に宮殿に入ってこられました。
 
 太子は日羅さんを見て指を差して「あの人は神人です!」と言って驚いてその場から去りました。その姿をみた日羅さんは靴を脱いで走って太子の元に駆け付けます。太子は隠れて御衣を着替え、出てこられました。
 日羅さんは地面に両膝を付けて何度も頭を下げ謝りながらこう言いました。「敬礼救世観世音、伝燈東方粟散王(救世観世音菩薩様、仏教を伝える日本国の王様に心から敬って礼拝します)」。

 日羅さんは体中から光を放ち、太子もまた眉間から光を放ちました。太子は前世で中国にいた時、日羅さんはお弟子さんでした。日羅さんはいつも太陽の神様(日天)を礼拝して敬っておられたので体から光を放つというのです。

その2に続く

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