見出し画像

感情の修羅場


それが起こったのは昨年の6月。
母の49日を控えた2日前のこと。

その少し前に父はコロナで入院をしており、退院したその日の夜のことだった。

その日は、兄夫婦担当の日で東京の自宅にいた私は、

父の様子はどうだろう、、とたまたまモニター画面を開いたとき、見てはいけないものを見てしまった。

兄が顔を真っ赤にして
体ごと飛びかかるような勢いで父に怒鳴っている。

父も必死に言い返そうとしている。

スマホのモニターごしに、息を呑んだ。
電話して止めないと、と思いながらも

その場には兄のお嫁さんTちゃんもいたので
ぐっとこらえてモニターをただみつめた。

Tちゃんは兄を止めながらも
父にやさしく話しかけていた。

兄の怒りは止まらない。
そして、父も普通ではない怒り方をしている。

このままじゃまずいなと思ったとき、
ラインの通知が届いた。

Tちゃんからだ。

すぐに開くと
そこには「Tです」とだけ書いてあった。

「みてたよ」と返事をする。

泣いている絵文字がひとつ、返ってきた。

言葉にならない感情がみんなに交錯していた。

母が旅立ち、すぐに父がコロナで入院。
一時は看取りの話もでる状態になった。

体調の不調から「せん妄」といった意識障害が出てきて幻覚をみる事も多く入院中も私や兄交代で泊まり込みをしていた。

徹夜が続いていた私もせん妄の父を相手に
「お兄ちゃん、限界だよ」とはじめてラインでヘルプをだす。

兄は仕事を切り上げてくれそのまま2日間徹夜で過ごし退院準備と49日の準備をしてくれた。

そして退院後、家に帰ってきて
父の何かしらの発言が引き金となり、兄はついぞ溜まっていた感情が爆発してしまったようだ。

ヤンチャで頑固な父は母に迷惑をかけてきた、兄弟それぞれに父に対する葛藤があったのは確かなこと。

けれど、この場面を見るまでは
そこまで兄に溜まっていたものがあったことは知らなかった。

ラインで一通りTちゃんと会話をした後モニターをみると、 

兄は2階に上がり、父はいつものソファーにすわりながら興奮冷めやらずにいる。

Tちゃんはひとり。

電気の消えた畳の部屋、
母の仏壇の前で泣いていた。

モニターをみつめながら息が詰まりそうになった。

兄に怒りたい気持ちも、
父に対する複雑な気持ちも、

そして、何より
Tちゃん、ごめんなさい。の気持ち。

家族の真ん中だった母が旅立ち、
あさってには49日というその日。

家族はバラバラになった。

私も父が寝床につくのを見守ってから
モニターから離れ
どうしようもない気持ちを抱えながら布団にもぐる。

こうなっちゃうんだな、
お母さんがいなくなるって。

こうなっちゃうんだな、、、。

寝付く前に
Tちゃんからのライン。

「山場から和解にいきたいね、ラスト」と。

「ほんとね、、まるで映画のシーンみたいだったね。こわかったね」

激しい夜が終わり

その後
夢を見たり見なかったりでぼんやりと朝を迎えた。

枕元のスマホに
1通のラインが届いていた。

Tちゃんからだ。
すぐに開いてみる。

「おはよー
奇跡ー、
和解しました

また伝えますね
泣くーーー泣いたー」

え!?
Tちゃん、どういうこと!?

Tちゃんからその後詳細を教えてもらった。

朝になり、

父が手招きして
Tちゃんに話しかけてきて

「昨日はY(兄)と話した?」

「少しね

大丈夫だからね、
親子だから。

本当はあんなこと思ってないよ。
本当は大好きだからね。」

「R(私)にも話した?」

「うん
お父さん大丈夫だからねーっていってたよ」

そして父は

「そう よかった」

と涙ぐんだそう。

その後、

朝食のテーブルについて
父は兄が席に着くのを待ち
3人揃っていつものハイタッチ。

兄も「昨日はすまなかったね」と父に伝えた、とのこと。

父も頑固だけれども、兄も頑固。
兄には悪いけど似たもの同士のような気もする。
そんな2人が和解するだなんて、、。

私もTちゃんもびっくりした。

その後、Tちゃんに聞いてみた、
昨夜、仏壇の前で母に語りかけた時どんな感じだったかな!?と。

Tちゃん曰く写真のなかの母は

「しょうがないわね、、、」と言ってくれた感じがした、と。

確かに、そう言いそうな感じだ。

そして、その日以降不思議なぐらい
父のせん妄はなくなり
入院前の正常な状態に落ち着いた。

もしかして母が何かしてくれたのかな、とも思いつつ、Tちゃんの思いがどこかに届いたのかもしれないと思った。

その日の
Tちゃんのラインはこう締めくくっていた。

「今日は平和✌️
ありがとーーーー」と。

ちいさななんてことない出来事だけれども
家族にとっては奇跡の日だった。

もう一度家族をやる。
本当にいろんなことが巻き起こっている。

隠しきれない何かも溢れでる。

今回のMVPはどうしたって
Tちゃんだな!

ありがとう、家族に付き合ってくれて。

「山場から和解にいきたいね、ラスト」

そのTちゃんの言葉が今なお響いている。

#介護 #84才父との物語

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?