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父へのちいさな逆襲

父は昔からコーヒーが好き。

ブラックでなくて、
ほんの少しの砂糖と
少したっぷりめのミルクを入れる。

そして、
最近はまってるのが、
この缶コーヒー。

先日父がソファーに座って新聞を読んでいる時
ほっと一息いれたらいいな、と思い

「お父さん、コーヒー飲む?」と誘ってみた。

父は手に取っていた新聞から
嬉々として私に視線を向け

「お!いいね。ありがとう」と。

私も調子にのって
珈琲屋さんのマネをしてみた。

「今日はお客様に特別サービスです。

ソファーまでお持ちして
目の前で注ぐ実演をしてみましょう!」

いつもはキッチンでコップに注ぐのを
ソファーの近くにまで持ってきて
父の目の前で缶のフタを開けた。

カチッ。

父がコップを持ち
私が注ぐ、、、。
 

はずだったのが。

なぜかその時テレビが気になったのか
よそ見をした瞬間

コーヒーはコップではなく
そのまま絨毯の上へ。

一瞬にして
茶色い海が広がってしまいました。 

「ごめーーーん、すぐに拭くっ!」と伝え

キッチンから水に濡らしたタオルを持ってきて
コーヒーを拭き取ろうと必死に。

そんな時、
父が私にかけた言葉。

この言葉が
私的には大問題へとつながった。

「なんだよーー、こぼしちゃって」

背中に飛び込んできた言葉に
内側の何かのスイッチが入った。

すくっと立ち上がり後ろを振り返り
父へ一言。

「お父さん、誰にだって失敗はあるよね。 

言いたくないけどさ、
お父さんこの間迷子になりそうになったよね。

その時私は、
お父さんになんて言ったかおぼえているかな!?」

「?」

「あるあるだよねって言ったんだよ。」

心のなかが半べそになって伝えている自分がいる。

母がいたらなんて言うだろうか、
大人げない自分に嫌気もさしながらも   
勢いにまかせて伝えてみた。

そこで父がハッとなる。

「ごめんごめん、
こんな時もあるよな!」と。

 
正直驚いた。

頑固一徹だった父から、
まさか、ごめんという言葉が聞けるとは。

ごめんと言われると
私も意地悪に言い返してしまったことを
反省するモードへ。

「お父さん、絨毯よごしちゃってごめんね」

父は微笑みながら

「誰にだって失敗はあるよな。」

「これも思い出、思い出。」と付け加えてくれた。

それにしても、なかなか取れないシミ。

茶色のシミを残しながらもキッチンに戻り
新しい缶コーヒーを注意深く
父のコップに注いだ。

昔は

父からの言葉に、
私はなにも言い返せなかった。

昔は

私からの言葉に、
父は耳を傾けなかった。

お互いに歳を重ね、ひょんなことから
素直な気持ちのキャッチボールがはじまった。

なかなか取れないコーヒーのシミを見るたびに
きっと2人の思い出として
この日の記憶は思い出されていくのだな、と。

けれどその2週間後

兄夫婦が担当の日、
兄からの屈託のない一通のラインが届いた。

「新しい絨毯買っておいたよー!!」

「お、お兄ちゃん、、、」

今となっては幻となったコーヒーのシミ。

それでも、  

缶コーヒーのフタをパチっと開ける時
この時のなんとも言えない空気感が思い出される。

コーヒーこぼれて、地、固まる。

お父さん、私の逆襲を許してね!!

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