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スマホ捜索隊

【スマホ捜索隊】 84才父との小さな物語

週末の遠隔介護の日のこと。
東京の自宅で夕方の父の様子をモニターでチェックする。

すると、
何やらリビングで父が行ったり来たりしてる。
何事だろう、、、。と早速自宅に電話をかけてみた。

「なにか困ったことある?」
さりげなく様子をうかがってみた。

「スマホがみつからないんだよな」

「そうなんだね、
あれ!?今日はどこにも出掛けてないよね!?」

「出掛けてないっ」

「お父さんいつも言うじゃん、探し物はすぐ近くにあるって。
だからさ、案外近くにあるかもよ、
ソファーの下とかさ。」

電話しながらモニターの父を観察する。
父はソファーの下を覗き込んでいるけれど見当たらない様子。

近くにはなかったか、、、。

「それじゃぁ、
新聞とった時の玄関の靴箱の上とかは?
あ、あと歯磨きの時の洗面台は!?」

父はリビングのモニターから消えて
玄関や洗面台、お手洗いを見に行ってる。

戻ってきて、
見つからなかった様子。

「あ!もしかしたら、布団の中にないかな?」

父はそのままに、布団のところに行き
掛け布団をはずして奥までのぞいてみる。

ここまできて、父は少し疲れたのか観念したのか

「まぁ、いずれ見つかるでしょう、
とりあえず、大丈夫だよ。一旦電話切っていいよ。」と。

私もひょいとでてくるだろう、と
そのまま電話を切った。

こうした時、
遠隔介護はもどかしいな、とつくづう思った。

どこでもドアでサクッと行ってスマホ見つけて帰ってきたい。   

その後、私は夕食を作ったりして
のんびり過ごした。

ふと時計をみたら9時。
あれから3時間。

そうだ、スマホみつかったかな、
とモニターをみてみる。

すると、
夜ご飯のお弁当を食べた形跡がなく、
お弁当はリビングの机の上にのったまま。

父は3時間前に電話した時と同じようにリビングをうろうろと探している様子だった。

え!?もしかして、ずっと探してたの!?
ごめーーん、と思いながら
すぐに自宅の固定電話に電話をかける。

「ごめんごめん、ずっと探してた?」

「いや、そうでもないよ。でも、なかなか見つからないんだよなー」

ぜんぜんそうでもなくない。
きっとずっと探してたのだろう。

ここまできて、
隣りで会話を聞いていた娘が私に言った。

「着信音でみつけたら?私からじぃじに電話かけるね!」

わ、そうだった、
スマホ探しの鉄則、着信音でみつける!
をすっかり忘れていた。

とても簡単な当たり前の問いに答えられなかったような敗北感のもと

娘に「ありがとーっ」と伝えお願いした。

父にもその旨を伝えて
テレビの音をけしてね、と伝える。

早速、娘はスマホを鳴らし始めた。

チーム東京、
モニターごしに、2人で耳を澄ます。

チーム静岡、父も耳を澄ましている。

モニターの音を最大にして
音に集中する。
どうか、なりますように!

すると、
微かにブーブーという音がしたっ、
娘と目を合わせてハイタッチ!

リビングにあるね!!

これですぐにみつかるはずっ
娘とそんな目配せをしながらスマホを鳴らし続ける。

父にも、

「着信音がなってるからリビングに必ずあるから
音がなる方を探してみてね」と伝える。

チーム静岡の父は
どうやら、テレビの近くだと思い
テレビの周辺を探している。

私と娘はモニターごしに
着信レーダーになったかのように
耳を澄ませる。

テレビ周辺ではみつからず
隣りの畳の部屋にいったり
布団をみたりを繰り返す。

音が鳴ってるがゆえに
チーム東京もかなりもどかしい。

娘は着信音をとぎらせないようにと
切れてはかけ、切れてはかけ。を繰り返している。

もうかれこれ10回以上。

もうそろそろ音の在りかがわかってもいいものだ。

リビングにかくれんぼをしていたとしても
さすがに隠れ切れない包囲網がすでにあるはず。

けれど、どうしても、
父は音の出どころを掴みきれない。

隣りにいる娘は
YouTubeをスマホでみたいーと言いながらも
じぃじの非常事態ということで。

切れ目なく、電話をかけつづける。

通信履歴も
かれこれ50回ほどになっていた。

さすがにもう時間も時間。

「お父さん、平日に私が帰った時に一緒にみつけよう」と伝える。

しかし父はどうしてもスマホがないと落ち着かないようで

「明日買いに行く!」と言い出した。

今なお着信音が鳴り響くリビングにおいて、さすがに買いに行く訳にはいかない。

娘も必死に電話をかけ続ける。

ふとみると99回目。

そして、100回記念!!

娘よ、YouTubeみないでよくがんばった。
そこで時計を見ると驚愕の12時。

父はいつも10時ぴったりには眠る習慣があるから、よっぽどスマホがないことに焦りを感じていたのであろう。

父がスマホを探し始めてから
もう6時間経っている。

さすがに今夜はあきらめよう、と父に伝える。

娘も100回記念を区切りに、
また明日にしようとじぃじに伝える。

父も疲れきったのか、
2人の説得に今夜の捜索はあきらめた。

それにしても、8畳のリビング
必ずやどこかにあるはずなのに。

これだけみつかないって
これは神様のイタズラかな!?

スマホの鬼ごっこだったとしたら。 
ぶっちぎり一位だと思う。
 
モニターで父が布団に入るのを確認して、私たち東京チームも捜索隊を解散した。

なんとなく眠って
なんとなく時間が過ぎて
浅い眠りのなかカーテン越しに朝を迎えた、

すると、
枕元に置いておいていたスマホが鳴った。

着信をみると、
なんと、父のスマホの番号だ!

え!?なに!?
みつかったの!?

すぐに着信をとる。

電話口から父の意気揚々とした声。

「みつかったぞーーーー」

「えええー、よかったじゃーん!
どこにあった!?」

「ゴミ箱!」

「え!?あ、ソファーの隣のちいさなゴミ箱?」

「そう!ゴミ箱の底に落ちてたっ」

「ええええー、なんでそんなとこにー」

「ソファーの手を置くところから落ちたのかな」 

「ええーびっくり、よくホールインワンできたね、
ちなみにどうやって気づいたの!?」

「朝、スマホの目覚ましが大音量で鳴って、その音の出どころを辿っていったらゴミ箱にみつかった!」

「まさか、ゴミ箱だなんてねー。
お父さんが座ってるところのすぐ横じゃんっ!

いつもお父さんが言ってた、無くしものはすぐそばにあるものだ、ってそのものだったねー」

「ほんとだなー、まぁみつかってよかったよ!
昨日は疲れておかげですぐに眠れて、朝まで一度も起きたなかった」

あらあら私は心配で何度も起きたのに、
案外お父さんたくましいじゃんか。

「とにかくよかった、ほっとしたでしょうっ」

「ほっとしたよー、ありがとうな!」

ソファーに深く座りんで安心している姿がモニター画面に見える。

「今から朝ごはんにするから電話切るよー」と父。

「はーい!安心して食べてね
よかったねー!!」

ねぼけまなこで起きてきた娘も電話の声が聞こえたらしく、苦笑いをしていた。

探し物は近くにある、やっぱりそうなんだなっ

スマホのリビングかくれんぼ6時間!

いやしかし、
ここまできたらスマホを称えたい。

よくぞ、逃げ切りました!
かくれんぼ優勝です!

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