法人企業統計から見る、各産業の賃上げ余力

9月2日に財務省より2018年度の法人企業統計が発表されたので、主要産業の賃上げ余力を、売上高、現預金、売上高営業利益率等から見ていこうと思う。

○ 産業別の売上高営業利益率の変化

まずは2012年から2018年の間に、主要産業の売上高営業利益率がどの程度変化したかを確認する。

2012年→2018年で、売上高営業利益率が大きく上昇したのは、宿泊・飲食サービス業と、建設業であることがわかる。反対に、小売業は営業利益率が低下している。これは売上原価等のコスト上昇を価格に転嫁できていないのではないかと想定される。

また、資本金の規模別に見ると、資本金1億円未満では医療福祉業も営業利益を大きく伸ばしている。さらに、規模に関係なく、建設業が営業利益率を伸ばしていることがわかる。

次に、各産業別に見てみる。まずは建設業から。

1.建設業

建設業は売上が順調に伸びて、売上高営業利益率が大きく上昇し、さらに現預金も増加しているが、賃金伸び率は非常に低いことがわかる。

規模別に見ても、資本金1億円以上or未満に関係なく、売上高営業利益率は上昇しており、安倍政権後の公共事業の増加によって利益を増やしてることが分かる。賃上げ余力が一番大きいのは建設業であろう。

続いて、小売業を見てみる。

2.小売業

小売業は全ての数値で微増に留まっている。売上高営業利益率はコスト=売上原価の上昇を反映して低迷している。

規模別で見ても、資本金1億円以上・未満双方とも、売上高営業利益率は低迷。この状況で賃金を上げるのは困難かもしれない。

小売業の場合は、まずは売上高を伸ばすことが最重要であり、政府はそのための政策的なバックアップをおこなうことが必要であろう。

続いて、製造業。

3.製造業

製造業は、売上高は微増だが、現預金が増え、また、売上高営業利益率も大きく伸ばしている。だが、やはり賃金の伸びが低い。

規模別に見ても、資本金1億円以上or未満双方ともに売上高営業利益率は上昇。現預金も増加している。賃上げ余力は十分あるのではないだろうか。後述するが、特に製造業は以前と比較して現預金保有率が高まっているため、その原因を探り、対策を検討することも重要であろう。

最後は、医療福祉業。

4.医療福祉業

医療福祉業は不安定な動きをしているが、2015年以降は、売上高、現預金、売上高営業利益率が上昇し、同時に賃金も増加している。ただし、賃金の伸びは全体的に弱い動きとなっている。

規模別に見ると、資本金1億円以上の法人企業の売上・現預金が大きな伸びを示しているが、これは法人企業統計における「母集団」が300弱しかないということに留意する必要がある。

最後に、製造業・非製造業の長期推移を見てみる。

5.製造業・非製造業の長期推移

各数値を製造業、非製造業に分けて、長期(1970~)で見ると、製造業は長期的には売上高と現預金と賃金が同じ動きをしているが、安倍政権後は現預金が顕著に増加していることがわかる。2013年以降の製造業の現預金保有動向の原因を探り、適切な対応をおこなう必要がある。

また、非製造業は、2000年代の売上高営業利益率は微増しながら推移しているが、一貫して現預金を増加させ、従業員一人あたり給与は依然として低迷していることがわかる。

6.簡単な総括

賃金を上げていくにあたっては、製造業分野はもとより、まずは非製造業分野、特に政府が賃金水準に介入しやすく、比較的賃上げ余力が高い建設業従事者、医療福祉業従事者等の賃金を上げていくことが重要であろう。

特に建設業は資本金規模に関係なく利益と現預金を増加させているが、賃金の上昇が弱い。ここはすぐに手を打つことができるのではないだろうか。

以上

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