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「利益確保」を目的にコストセーブをすると、長期目標は遠のいていく


思いがけないレベルの赤字や売り上げ計画の遅延に直面すると、動揺し、
場当たり的な対応策に走ってしまうことがある。
株主が「計画数字の達成」を迫れば、なおさらだ。


「想像以上に未回収金額が増えています。このままでは最大年間X億円の赤字になります」
沈痛な面持ちで新規事業の責任者が報告した。スタート以来3年間の赤字を経て、やっと通年で黒字転換した新決済事業だった。示された未回収金額はケタが違った。グラフにした時のシャープな下降線を想像して私と経営陣は息をのんだ。4年前のことだ。

新事業を縮小するべきか。コストカットをしてでも当期の利益を確保するべきか。しかしそれらは5年スパンの全社の成長ペースを減速させることと同義だ。

社長は言った。「ある程度は覚悟していた。ゆえに売り上げ成長ペースは変えない。投資家には、改善対策を強化すれば、5年で必ずよい結果になると説明する」。私も経営企画とIR担当取締役として強く同感だった。

足元の利益計画が未達成か最悪、赤字になると、仮に資金があっても利益確保目的のコストセーブの誘惑に駆られてしまう。本来一番やってはいけない、人材採用や最低限の開発費など、将来の成長に不可欠なものにまで手を付けたくなる。

ここで鉄の意志が必要になる。当時、当社は投資家に「2020年までに利益を大台に乗せる」と約束していた。その年の利益だけを見ていたら約束は果たせないだろう。

決算発表を見た世界中の投資家から質問の電話が殺到した。
社長と欧米を行脚し、株主である機関投資家を一社一社回り現状を説明した。この年ほど欧米でのIRの前夜に眠れなかった年はない。
我々は「長期目標を達成するには、この新規事業をしっかり伸ばす必要がある。そのためにこの事業は一時的な赤字が発生するが全体の成長ペースは変えない」と説明した。
また、事業の赤字脱出には「サービス利用者のデータ分析」が肝であり、
その場でそのデータ分析のやり方を丁寧に説明するとよく理解してくれた。

欧米には「5年後の目標が達成できない方が困る」という機関投資家も多い。「100年後の理想を説明してくれ」という投資家もいた。

目立った株価下落なくこの苦境を乗り切れたのは、私たちの長期視点を理解してくれている海外投資家が、機を逃さず大量に買い増してくれたからだったようだ。

その事業は拡大ペースを緩めず黒字転換し、今では当社全体の成長を牽引している。大台達成にも大きく貢献した。

事業のなかには止血が必要で避けがたい計画変更もある。しかし、他の事業部門で利益確保ができる場合は、コストセーブの誘惑に負けない鉄の意志を持ちたい。短期的な帳尻合わせを優先すると、長期目標は遠のいていく。


[日経産業新聞 Smart Times
「鉄の意志持ち 長期目線で」2020年12月9日付]

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