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【 森の楽人は・・・ 】

森の楽人は
静寂に演奏する
訪れる人はめったにいない
深い深い森の中で
静寂に演奏する

マンドリン
太鼓

3人の楽人は
音もなく 心を人生を奏でている

彼らがいつからここにいるのか
誰も知らない
ひっそりとたたずむ楽人

木々の合間から 風が鳥が
楽人達に逢いに来る
世離れした彼らに
鳥が見て来たこと
風が聴いて来たことを運んでくる

カサ・・・
カサ・・・

落ち葉を踏んで
多くの時を重ねた夫婦が
彼らに逢いに来た
夫婦が結婚したばかりの頃
散歩の途中に見かけて以来
時々彼らに逢いに来る

時を重ねた分だけ
様々なことがあった
雨の日もあった
嵐吹く日もあった
人生 穏やかな日々だけではない
それでも・・・
夫婦はいつもともに手を取り合って
今日まで過ごして来た
そして
2人は決して独りでここに来たことはない
年上の妻は丈夫ではなかった
独りではたどり着けない

・・・彼らに逢いに行く時は
2人で一緒に逢いに行こう
僕達2人で彼らに出逢ったのだから・・・

年下の夫は
決して妻をひとりぼっちにはしなかった
独りではどこにも行けない年上の妻
老いるのも夫より早い
それでも・・・
夫の態度はいつも変わることなく
妻をいたわり続けて来た

多くの時を重ねて来た夫婦
その出逢いを 人生を知っているのは
楽人だけだった

森の楽人は
静寂に演奏する
ブロンズで造られた彼らは
老いることはない
彼らを見守る森と
夫婦は老いて行くが
彼らを見つけた若い頃のように
今でも愛し合い いたわり合い
ともに手を取り合って過ごして来た夫婦に
森の楽人は
音もなく 心を人生を奏でている

夫婦がこの森を訪れなくなる日
森の楽人は
それでも森にひっそりたたずんでいるだろう
一組の夫婦の
ささやかな人生を慈しみながら