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【 White page 終章 】

けい!
清美が見つかったぞ!
今 こっち向かってる
北海道にいやがった
あいつ...
雪の中で埋もれて死のうとしたんだ
汚れた自分が嫌になったと...

俺も仲間も
清美をおもちゃにした過去は
決して消えるもんじゃない
悪かった...悪かった...
けい...
俺達が悪かった...

けい
俺 清美を見つけたぞ!
夕方ここに着く
おい!
そのポンコツの心臓もたせろよ!!
お前...
惚れた女抱きしめないまま死ぬなよな!

けい...
生きてくれよ
頼むよ...頼むよ...
けい...生きてくれよ...
まだ死ぬなよ
頼むよ
けい...

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けいちゃん...
もうすぐ空港に着きます
けいちゃん ごめんね
私 黙ったまま消えてごめんね
あなたが手術にもう耐えられない
体だと知ったとき
私を置いて死んでしまった彼と重なって
どうしようもなく悲しくなって
失う前に消えようとしたの...
けいちゃん ごめんね...

けいちゃん
もうすぐで病院に着きます
けいちゃん あと少し
あと少しよ
けいちゃん...生きて
生きて 生きて
私を抱きしめて
けいちゃん...

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ICUの向こうで
あいつの心が叫んでいる...
ああ...来てくれたんだ...
もう 来ないかと思ったぜ...

体に何かつけられてるんだな
口に何か当てられてるのか?
人が取り囲んでる...
ここは...どこなんだ?

ああ...病院か...
窓は...ない...

清美ちゃん...
僕はいつも君を想っていたよ
必ず君が戻ってくると
そう信じて今日までがんばったんだ

銀世界
真っ赤なコートではしゃぎまわった
幼い君の無邪気な笑顔は
夢の中で
いつも僕を支えてくれた
未来のない僕を...

清美ちゃん
自分の名前を嫌悪して
自分の過去を嫌悪して
雪よりも白くなりたいと
遠くに旅立ってしまった
清美ちゃん
雪は見れたかい?

冬のあとには
必ず春が来る
暗黒の土の中で
日の目を見ることを待ち望む
命たち
もう春が来たよ
君は花を見れたかい?

彼は尽きる命を
君に捧げることを選んだ
君への優しさは
君が生きていくための
彼の精一杯の愛だったんだよ

僕は見守ることを選んだ
君がつらい時
君が悲しい時
思う存分泣けるように
安らぎの場であることを
僕は選んだ
僕に出来る精一杯のことだった
こどものころからそうだったよね

清美ちゃん
君は汚れてなんかいない
がんばってがんばって
生きようとしただけ
汚れてなんかいないんだよ
僕にはいつも君はまぶしく輝く希望だった
どんな君でも
僕にはとてもいとおしい

君を抱きしめたかった
抱きしめたかった...

君は生きるんだよ
生きて幸せになるんだよ
もう一度
心からの笑顔で過ごせるように

ああ
君の足音が聞こえる
長い髪を乱して
泣きながら駆けて来る
泣かないで...泣かないで...
君だけを想って
君だけを見つめて生きた人生は
とても幸せだったんだよ

清美ちゃん
君の存在は
どんなに大きな喜びだったか...
ありがとう ありがとう

僕は君を見失ったりしないよ...

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人けのない病室
速やかに取り替えられるシーツ
音もなく
1枚の古ぼけた写真が
夕日に照らされて落ちた

雪原に
真っ赤なコートの少女が
無邪気に微笑んで
そのうしろに小さく写る少年
あどけなく
暖かな瞳で
少女を見守っている

写真の裏に
幼い鉛筆書き

1979 冬

きよみちゃん
けい
12才