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NPOのモデルチェンジを実現するために

1.なぜ、モデルチェンジか?

先週の土曜日、神奈川県内のボランタリー団体の中長期計画を研修を通じて策定する「かながわボランタリーエースプログラム2015」の成果発表会が行われた。

横浜や川崎を中心とした多様なNPO法人や任意団体11団体が6か月間の計画づくりの成果を発表した。今回、多摩大学総合研究所で開発した「シンプルストラテジー」の手法をつかって、プログラムを組み立てた。

すべての団体が完璧な5年間の計画をつくれたわけではない。迷いのなかで、なんとか組み上げた団体、 プランはできたが団体で共有できずに苦しんだ団体、 まだ方向性が定められない団体、その成果のレベルはバラバラかもしれないが、それぞれが必死に、なんとか今の状況を打開しようとした6か月間の生々しい歩みが発表されたと思う。通常業務をこなしながら、ここまでつくりあげた団体の皆さんの努力に頭が下がる。

今回の研修において、私自身がテーマとして考えていたのは、事業計画策定を進めながら、団体の革新を行うことができるかにあった。つまり、NPOのモデルチェンジをどうやって実現するかだ。NPOのモデルチェンジとは何か、どうやったら、モデルチェンジが可能になるか。報告会の総括で話した内容に補足も加えここでまとめておきたい。

2.中長期計画を立案する上での課題

NPOの運営上の課題といえば、おそらく資金不足、人材不足というのが、一番大きく、この課題はNPO法人ができて20年近く経つ現在でも変わらないだろう。しかし、5年間の中期計画を立案するという視点からだと、その課題は違う側面を見せる。今回参加の団体においては、次のような課題があった。

スタート時点と比べると大きく環境が変化し、自分たちのやっていることと、受益者のニーズやメンバーの課題認識にギャップが生じたり、団体が成長する中で、サービスのシステムと資源獲得のシステムのバランスが崩れたりして、既存事業のままでは立ち行かなくなることが起きている団体があった。

また、やりたいことはあるけれど、その具体的な道筋が描けてなかったり、新しいことに取り組みはじめようとしているが、事業モデルはまったく今までと変わってなかったりしてなかなか進まない団体もあった。さらに、世代交代を目指すもののと、何をどう受け継ぎ、何を変えていっていいかわからないという団体もあった。課題はそれぞれだが、どの団体も変えたいけれどどうやったいいかわからないという状況は共通であったといえる。

3.2つのモデルチェンジ

NPO(企業でも一緒だと思う)のモデルチェンジには、2つのモデルの変革が含まれる。

ひとつは、メンタルモデルのチェンジだ。このときのメンタルモデルは、組織そのもののメンタルモデルなので、団体が取り組む社会課題をどのような視点でとらえているか、何を価値ととしてとらえるか(つまり、何が良くて、何が悪いことなのかの価値判断)という認識のあり方を指す。団体がスタートしてから、生活者の価値観も、テクノロジーも、制度も変わった。当時、課題だと考えてことも大きく変わっている可能性がある。その変化に敏感になり、そのメンタルモデルを変化させることで、自分たちの志・使命を更新していかなければならない。その認識の変化のなかで、自分たちの取り組むテーマや、対象となる「顧客」が変わってくるかもしれないということだ。

もうひとつが、ビジネスモデルのチェンジである。ビジネスモデルというと、企業の「儲け方」と感じるかもしれないがそうではない。様々なステークホルダー(利害関係者・組織)から資源を動員していく仕組みのことをここではビジネスモデルと呼ぶ。新しいコンセプトで、新しい事業をするのであれば、このビジネスモデルも変えていかなければならない。場合によって、ビジネスモデルを意識的に変えていくことで、組織全体の革新を目指してもいい。

4.モデルチェンジをするために

この2つのモデルチェンジを実現するためにはどうしたらよいか。当然、そのためには現在のメンタルモデルとビジネスモデルがどうなっているという自己認識が必要となる。これが講義のなかでも説明した戦略策定の中心的な活動である。つまり、「組織的自己認識」だ。

自分たちが何のために、どのようなテーマについて、何をしているのか、いったい、私たちは誰の役に立っているのか。どこから、どのような資源をどのように動員しているのか、これまで当たり前だと思っていた自分たちの「ありのまま」を理解する。しかも、これを一部のメンバーが理解するのではなく、組織的に理解する、合意するというプロセスが必要となる。特に重要なのは、無意識にやっていることに、意識的になることであるが、これがかなり難しい。当然、無意識でやっているから、自分で気づくのは難しい。自分の癖は他人に指摘されて初めて認識できるのと同じだ。

5.他者の異見と自分たちが表現する言葉を大事に

そうなると、人の意見やアドバイスの声を耳を傾けることが重要となる。NPOのように、想いが強いメンバーが多い組織ほど、他者による異見を受け入れられないことが多い。自分とは違う異なった意見こそ、最高の宝物であると思って「経営資源」として活用するぐらいの意識がほしいところだ。

そして、その異見から感じ取るのは、自分たちが変えなければならないことより、変えてはいけないことを理解すること。やらなければならないことよりも、やってはいけないことを理解することだ。

また、自分たちの団体を表現する言葉や事業を説明する言葉をもっと大事にしなくてはならない。よく「連携」や「コンサルティング」という言葉を簡単に使ってしまうが、どこまで考え抜かれた言葉だろうか。「連携」する相手にも、それぞれの事情や制約条件がある。それをどれくらい理解しているだろうか。そういった理解がないのに、「●●はわかっていない」、「あそこは社会的な課題をないがしろにしている」と批判してしまっていないだろうか。

「コンサルティング」とはいったいどんな価値を提供できるのだろうか。コンサルティングは何かの専門性に立脚していなければ価値はない。その具体性がなければ、この言葉は空虚だ。自分たちのやろうとしていることをどれだけ丁寧に具体的に説明しているだろうか。どこか、これをわからなないのは理解できない相手が悪いと思っていないだろうか。自分たちが何でもできるということを証明するために、過剰な言葉を垂れ流していないだろうか。

こういった言葉の罠に陥らないためには、常に他者の目で団体をみつめるような冷静さが必要なのだ。

6.計画は仮説、検証は実践

今回、5年間というスパンでの計画をつくってもらった。おそらく、この計画は2年、いやもっといえば、今年中に陳腐化してしまうかもしれない。それくらい環境の変化は激しく、それを受けとける自分たちもどんどん変化していくだろう。だからこそ、1年後にはもう一度計画を見直してほしい。

昔のように、計画をつくり、それぞれの数値目標を正確に追いかけていくことはナンセンスになってきている。中長期計画は、未来のビジョンを更新しつづけるための「仮説」でしかない。この「仮説」を検証するためには実践をするしかない。事業を通じて、顧客に自分たちが正しいかどうか、判断をしてもらうしかない。そして、「仮説」が検証されなかったら、すぐにもで計画は変更しなければならない。計画が変化ができない足かせになってしまうなら、計画なんてつくらないほうがよい。

そして決して、安易に組織体制をいじってはいけない。組織を変えるために組織体制を変えることは混乱しか生まない。あくまでも事業を変えて、そのために組織を変える。この意識を持ってほしい。つまり、現場からものごとを考えなければ、何も変わらない。普段、現場にいない理事だけを集めた理事会に答えはないのだ。

7.支援のあり方が問われている

NPOの運営は、どんどん難しくなり、高度な知識やノウハウが必要になってきている。そのなかで、それぞれの団体は限られたリソースのなかで、必死に運営を続けている。それに対して、NPOに対する支援機関はどれだけ、その力を蓄えているだろうか。NPOに頼られる存在であるだろうか。これだけNPOが増え、制度も整い、多様化する中で、中間支援組織も曲がり角にある。支援する側も、プロフェッショナルでなくてはならない。そういった努力をしているだろうか。自戒の意味も込めて、最後に投げかけておく。

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