「絶対報酬」のレベルデザインを考える
シノアリスでちょうど、絶対報酬タイプのイベントが行われているので、「絶対報酬」のイベントを行う際の設計(レベルデザイン)を考えてみましょう。
※最初に※
筆者の過去のソーシャルゲームのレベルデザイン設計経験を元に書いている内容ですので、シノアリスがこうしているとか、こうしていないとは関係ありません。今回書いた内容以上のことを考えて設計されているかもしれません(し、それ以下かもしれません)。
「絶対報酬」と「相対報酬」の違い
まずは最初に2つの報酬の違いについて整理をしましょう。
「絶対報酬」=特定の点数を貯めたら必ずアイテムがもらえるタイプの報酬
10,000点突破で〇〇がもらえる、20,000点突破で△△がもらえる といったタイプです。現在行われている「ギシアンイベント」は「絶対報酬」型のイベントになります。主に消費アイテムや魔晶石などが報酬になることが多いです。
「相対報酬」=特定の順位に入ったらアイテムがもらえるタイプの報酬
特定の順位に入らないといけないため A)特定点数で手に入る保証がない B)(運営側から見ると)配布されるアイテムの個数がコントロールできる という違いがあります。主にカード系のゲームで「カード」を報酬にする場合は、この形式が一般的に多いです。
この2つの違いについては、もう少し踏み込みたいところですが、今回は「絶対報酬」の話なので、そちらだけについて書きます(シノアリスでランキングイベントがあれば相対報酬についても書くかも)。
絶対報酬におけるレベルデザインとは?
「絶対報酬」における設計でもっとも大切なのは、「何ポイント」で「何のアイテムを付与するか」ということです。ここの設計を間違えてしまうと、イベントとして「お得過ぎる」「損過ぎる」という印象をユーザーに与えます。
例えば、1日4時間を5日分プレイして手に入るアイテムの価値が100円しかなかったら、みんな頑張らないですよね。あるいは20分プレイするだけで、1000円の価値があるアイテムが手に入るのであれば、ユーザーにとってはお得ですが今度はゲーム内でそのアイテムの価値が下がってしまいます。
報酬設計をする上で外せない3つの要素は以下の通りです
1:報酬の価値を定義する
2:いくつかのプレイパターンを想定する
3:費用対効果が見合うように報酬を設計する
それぞれを確認していきましょう
1:報酬の価値を定義する
付与する予定のアイテムは「何円分」の価値があるのか?それをまずは整理しましょう。ここは会社やゲームによって決め方が違うかと思います。有料アイテムあるいは石であれば比較的簡単に計算できます。
有料で売っていないアイテムであれば、獲得するのにかかるプレイ時間(あるいは利用スタミナ)や入手難易度などを元に決めることになります。設定をしておかないと、「損」あるいは「得」の判断もできなくなってしまいます。
後は変なバランスになっていないかを気を付けましょう。強化アイテムSと強化アイテムAがあって、強化アイテムSはAの2倍の効果があるのであれば、価値も2倍になっているべきです
2:いくつかのプレイパターンを想定する
ユーザーの行動パターンやプレイ回数などでいくつかのシナリオを用意します。シノアリスのギルドイベントの場合、もらえる点数に影響してくる要素は主に4つです。
A)特攻武器(1種類:限界突破前で1.5倍、限界突破後で2倍)
B)プレイするステージ(難易度が高いほどもらえる点数が多い)
C)ドロップ2倍アイテムの利用有無(もらえる点数が30分間2倍になる)
D)プレイする時間(1日何回ステージをプレイするのか)
これら4つの要素を元に、ライトなパターンから、最大ガチパターンまでいくつかのユーザー像を作りましょう。
ユーザー像1)プレイ時間3時間、「おそうじ」を毎日1回行い、ステージ9のノーマルをプレイし、特攻武器無しでドロップアイテムを利用しないミドル層
ユーザー像2)プレイ時間8時間、「おそうじ」を毎日3回行い、ステージ9のハードをプレイし、特攻武器ありで、ドロップアイテムをプレイ時間の半分で利用するガチ層
といった感じです。
※ちなみにここでは触れませんが、B)とD)を固定し、A)の特攻武器の出現率を使えば、特攻武器の金額価値や何時間プレイすれば元が取れるか、ドロップアイテム2倍はどのステージで使うと費用対効果が一番良いかなどの計算もできます。
これを算出すると、それぞれの条件ごとにどれくらいのスピードで点数が溜まるかのシミュレーションができます。
以下はその一例です(シノアリスの数値ではありません)。
仮で報酬点数をおいており、様々なユーザータイプ(条件1・条件2)に基づいで何回プレイすれば、何点に何日目にたどり着くかがわかります。
上記例では1日200回「戦闘」をした場合の進捗度合いになります。
3:費用対効果が見合うように報酬を設計する
最後に「何点でどのアイテムを提供するか」を決めます。まず最初に決めるべきは、本イベントで各ギルドが手に入る「報酬金額の合計」と、過去のプレイ状況を元に、「報酬を手に入れるための金額や時間」を整理することです。
10万点までいくと合計5,000円分のアイテムがもらえる。そのためには1日6時間のペースでプレイすると、ドロップ2倍や体力回復などで4,000円くらい使う必要がある。
といった形です。ただし、これはイベントを1回やってみないとわからないところもあるので、まずは上限金額を決めて、それを各点数に配分していくという形になるでしょう。
ユーザーにとって「価値」を感じてもらうためには、手に入る報酬総額の金銭価値が割に合うかが大切です。以下の方程式が重要になります
イベントにかけるお金+かける時間 < もらえる報酬の価値
でないと、いけないということです。2,000円と20時間かけて、2000円の報酬しか手に入らないのであれば、それってどうなの!?プレイする意味があるの?ということです。
この辺りを整理すると最終的に以下のようなレベルデザイン設計ができます。
イベントの進捗を確認する
イベントが開始したら日単位でユーザーの進捗を確認することが大切です。ユーザーは運営が想定していた通りに、点数が増えているのか(=想定通りのプレイ時間やアイテム利用)などをチェックしましょう。
ここを見ると最初の仮説が合っていたのか、またはユーザーがどれくらい「やる気」あるかを把握することが出来ます。
想定より進捗が遅い場合は以下のような施策が考えられます。
1:アイテムを追加する
2:特攻の倍率や武器を増やす
3:他に点数を増やす方法を提供する(あるいは効率よく点数が稼げる時間限定2倍などを設ける)
これらの施策によって「やる気」を起こしてもらい、その後の進捗ペースがスピードアップすることを期待するものです。
逆に想定より進捗が早かった場合は、正直打てる策が少ないことが多いです。今回のシノアリスのイベントではできませんが、「得点がいっぱい貰えるレアボスの出現率を下げる」といった施策などは(一応)可能です。
調整のしやすさ(とユーザーからの見映えを考えると)、多くのイベントは、少し難しい状態にしておいて、後で緩和する形式にする事が多いのではないでしょうか。
今回シノアリスでは、「1:アイテムを追加する」「3:他に点数を増やす方法を提供する」という施策がイベント途中に行われたので、想定より進捗が遅かった可能性があります。
得点報酬に関する補足:どこに報酬を追加するか
シノアリスの今回のギルドの得点報酬は以下の通りです。
緑背景=魔晶石 赤文字=後から追加された報酬
になります。基本ユーザーは魔晶石を目的に頑張るので、これらの点数を目指す形になります。逆にそこを突破すると、辞めてしまうことが多いのが「絶対報酬」型のイベントの特徴でもあります。
例えば「魔晶石300個手に入るから、40万点までは目指そう」となると、40万点までいくギルドは多いけど、45万点まで辿り着くギルドは一気に少なくなります。
運営側としては少しでも多く点数を稼いで欲しいという思いがあるので(プレイ時間増える=継続率が高くなる傾向が一般的にはある+課金額が増える可能性があるため)大切なのは、特定の点数でプレイを辞めることをなるべく防ぐということです。
そういった意味で、今回追加された報酬の点数は、ビジネス目線では改善余地があるかなと感じました。筆者だったら、38万点ではなく、43万点に一番良いアイテムを追加していたかと思います。これによって、40万点から43万点に引き上げ、そのまま50万点を目指してもらうという感じですね。
逆に63万点・73万点は置く場所としては良いのではないでしょうか。そして98万点は報酬無くても良いと思いました(95万点まで来たら、98万点に報酬が無くても100万点を目指すはずなので)。
結果を振り返る
施策が終わった後に、点数ごとの到達ギルド数、使った金額などを振り返ることが大切です。報酬設計の表に結果を追加しましょう。
見るべきポイントはいくつかあります。
1)報酬価格 > ARPPU(課金者の平均利用金額) となっているか
報酬価格より、該当点数を取るためにギルドが使った総金額(あるいは総アイテム価値)が少ないか。ここが使った金額のほうが高いとユーザーの金額的な満足度は低くなることが多いです
2)クリアしたギルド数(進捗)が想定通りだったか
事前に予測した進捗を元に、ギルドがどこまでたどり着いたかをチェックしましょう。特に大切なのは「滞留率」の部分です。
滞留率とは、例えば「8,000点報酬」に到達したギルド数に対して、何%が次の「10,000点報酬」まで進んだかの割合です。ここが低ければ低いほど、そこでイベントプレイを止めてしまったという形になります。
上記の例ですと、10,000点のところが65.5%と低くなっており、8,000点までは到達したけど(目玉報酬があったので)、10,000点には進まなかったという事がわかります。
これがわかれば、ここの動きを促進するために9,000点に報酬を追加するというのも選択肢の一つです。
他にもみるポイントはいろいろあるのですが、(既にこの記事がそうですが)、かなりマニアックになるので、これくらいにしておきますね(笑)
最後に:良いイベント運営をするためには
良いイベントとは「使った時間に対して適切なリターンが得られる」こと、そして「使った金額に対して適切なリターンが得られる」ことです。どっちをより重視するかは運営の考え方によって変わってきます。
どちらにせよ、「使った時間あるいは使った金額が増えることで、イベント点数が溜まりやすくなる」という状態を作ることは大切です。
そのためにはこれらの数値に相関があるかを確認しましょう。以下はあるイベント期間での課金額と取得点数の関係です(1個1個の点が1人1人のプレイヤーです)。
以下はあるイベントでの使った金額レンジごとのイベント平均順位です。
新しいイベントは、なかなか想定通りにシミュレーションすることは難しいです。繰り返し進んでいく中で、最適化されていきます。
次回、シノアリスの絶対報酬型のイベントがある際には、今回の報酬設計と比較をしてみましょう。運営側が1回目のイベントをどのように振り返ったかが分かるのではないでしょうか。
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