うえすぎくんの そういうところ Season.6 次への一歩編 『第81話 王子様からのプレゼント』
第81話 王子様からのプレゼント
「眠れないの?」
「お昼間にぐっすり寝かせてもらったからね。気にしなくていいからコハクは眠ってね」
「うん……ねえ、ユヅハ。そっちのお布団に行ってもいい?」
「風邪、うつっちゃうかもよ?」
「あたしは大丈夫だよ。ダメ?」
「いいよ」
時計はまだ八時半。寝るにはかなり早いけれど、自分が女子高生デビューする時に泊まりに来てくれた楽しい時間を思い出して、お話がしたかったのだ。まだ高熱で苦しんでいる様ならさすがにこんなことは言い出さないけれど、兄ちゃんの登場や風邪薬が効いたようで時折一階に降りて来たり、たくさん水分も摂っておトイレも頻繁に行っていたし、熱は下がったみたいだ。
「兄ちゃんってばさ、せっかくここまで来たのに三十分くらいで帰っちゃうとか、ありえなくない?」
「ううん、りゅうくんの顔見たらそれだけで元気になれそうな気がしたもの。コハクが呼んでくれたの?」
「たくみんがウチに電話して知ったんだって。彼はいろいろ差し入れしてくれたけれど、手ぶらで飛んでくるってどういう神経してるのかねぇ」
お互い仰向けになり、仲良く手は恋人つなぎ。
「そういえば、玄関の鍵閉まってたでしょ? どうやって入ったの?」
「そこの窓からさ。ことの発端はたくみんがウチに『田舎から届いたリンゴです』って持ってきてくれた時に『姫嶋さん家にも行ったんだけど、ピンポン押しても反応がない』って。あたしは『おトイレとかシャワーとかで出られなかったんじゃないの?』って言ったんだけど『帰ろうと思ったら二階の窓が開いた。姫嶋さんはそんなあからさまな居留守を使う人じゃない、何かおかしい』って鼻息荒くしちゃってさ。そして来てみたらユヅハが寝込んでたってわけ」
「でもここの窓までそんな簡単に登れる要素ってないでしょ? 壁も高いし」
「そこは彼に持ち上げてもらったよ。男子の力ってすごいね、ヒョイってリンゴでも持つみたいに片手で簡単に持ち上げちゃうんだもの。あとは男子中学生としてヤロウと同じように生きてきたからさ、木登りの要領で簡単だったよ。それにしてもここまでダウンするなんて、前日から兆候とかなかったの?」
「ちょっとあったんだけどね。母上から『上杉さんのところに泊まりに行きなさい』って言われたんだけど、私が行ったらなんか邪魔しちゃうんじゃないかって思って、断っちゃった」
「邪魔なことなんて何もないし、来てくれた方がみんな喜ぶのに。何が気になったの?」
「コハク、りゅうくんのことまだ好きでしょ?」
「うん、好きだよ」
「だから邪魔になっちゃうんじゃないかって勝手に思ったの。みっともないね、勝手に嫉妬して迷惑掛けちゃって」
「そんなことない! 気持ち……わかるよ。あたしだってユヅハに嫉妬したことなんて何回もあるもの」
「そうなの? 一緒に住んでいるのに?」
「あるある! あの天然超鈍感はさ、あたしの前で見せる顔とユヅハの前で見せる顔と全然違うんだもん」
「でも『大好きだよ』って言って貰えたんでしょ?」
「うん……何で知ってるの?」
「やっぱり。彼ならそう言うんじゃないかなって思っただけよ」
「あー、ずるい!」
「ごめんごめん。でも嬉しかったでしょ?」
「うん。なんか自分が認めてもらえた、役に立てているんだって感じて正直嬉しかった」
「よかったわね」
「うん。そういえばユヅハはどうなのさ?兄ちゃん王子様からプレゼント貰えた?」
「それは……」
「ここまで話しておいてあたしに隠しごとは無しだよ。どうなの?」
「ほ……ほっぺに」
「なんだよ、あれだけお膳立てしたのに根性なしだなぁ」
「コハクはどうなの? 貰ったことあるんでしょ? 怒らないから正直に言ってごらん」
「……ないよ」
「怒らないからって言ったでしょ?」
「今日兄ちゃんが来た時に、おでこにもらった。そしたら嬉しくて泣いちゃった」
「そっか。彼はどこまでいっても優しいね」
「うん、尊敬できる兄ちゃんだよ。そういえば、思い出した! この間の過呼吸の時、あの時はどうだったのさ?怒らないから正直に話して」
「あ、あれは……キスとかそう言うものじゃなくって過呼吸を治める為の措置というか、心の準備とかそういうの何もなく必死だったから」
「したんだ?」
「だから、あれは措置だって!」
「ふぅーん。まあ、そういうことにしておいてあげる」
ギューっと力の入ったお互いの手がフワッとなって、お互い大きく深呼吸。
「もう! コハクこそどうなの? たくみ君とお付き合いしないの?」
「たくみんはそういうのじゃないよー。でもスポーツドリンク持ってきてくれたりその他にもいろいろ差し入れしてくれたりと気が利くし、人間関係苦手みたいだけれどさっきも『私の分の夕食』ってお弁当持ってきてくれたりさ、かなりポイント高めなのは事実だよ」
「えー、いいじゃない。じゃあさ、寝技途中に耳元で『好きだよ』とか言われたら付き合っちゃう感じ?」
「そ、そんな状況で言われたら……断れないじゃん!」
「うふふ、かわいいー! 私は中学の時だったかな。学校同士の合宿の時に他校の男子から同じ状況で告白されたことあるけれど『きもちわる』ってなって、立ち上がりざまにぶん投げたわ」
「へー、ユヅハはモテそうだからな。じゃあさ、同じ状況で兄ちゃんから言われたらどうする? 投げちゃう? それとも受け止めちゃう?」
「ん……『私も』って言うと思う。ヤダ、恥ずかしい!」
「あははは、そっちだって相当乙女じゃん!かわいいなぁ」
女の子同士で『パジャマパーティーやった』とかいう話を聞くと、こういう女子トークができる環境に憧れたし、ユヅハはお姉さんみたいで話をしていてもすごく気持ちが穏やかになる。彼女は才色兼備だから遅かれ早かれ兄ちゃんと上手くいくと思うけれど、あたしは容姿に自信がないし、たくみんへの想いも片思いに終わりそうな気がしている。
「さてと、おトイレ行ってこようかなー」
起き上がろうとしたところをユヅハに仰向けに押さえつけられて、掛け布団のように覆いかぶされる。
「コハク、いい香り。大好きだよ……ってこんな風に耳元でたくみ君から言われたらどうするー?」
「ヤ、ヤダ。もうユヅハったら! ビックリしてお漏らしするかと思ったじゃん!」
「あはは、モジモジしてかわいいー! さっきのお返し。コハクはかわいい女の子だからもっと自信もっていいと思うよ。おトイレいってらっしゃい」
このタイミングでまたしてもインターホンが鳴った。
「いま、チャイム鳴ったよね?」
「うん、鳴った。でもこんな時間に? ちょっとおトイレだけ行ってくるから、ユヅハ一人で行っちゃだめだよ。待っててね」
鳴ったチャイムは一回だけ。一階の施錠は全部確認したし、玄関もチェーンロックまでしっかりかけて上がってきたから大丈夫。彼女には少しだけ待ってもらい二人で階段を降り、私がスコープを覗くと……そこには誰も居ない。
「誰も居ないよ?」
「本当に? 私にも見せて」
煌々と電気をつけて、お互い見つめ合う。
「誰も居ないわね。 近所をウロウロしている不審者だったら他に被害が出るかもしれないから、二人でやりましょう」
「わかった、じゃあユヅハが扉を開けて。あたしがひっ捕まえるから、援護よろしく!」
二人身構えながら扉の向こうに人が隠れていたら吹っ飛ばすほどの勢いで開けると……誰も居ない。
そして『カサッ』という音が扉の裏側から聞こえた瞬間、ユヅハが姿勢を落として回り込んだ!
重度のうつ病を経験し、立ち直った今発信できることがあります。サポートして戴けましたら子供達の育成に使わせていただきます。どうぞよろしくお願い致します。