『私と龍と彼女の話 その7』

『よく来たな。
己の使命を受け入れたその覚悟。
しかと見届けたぞ』



私はどう答えていいかわからず
ただ唖然と龍を見つめた。
あれはやっぱり夢じゃなかったんだ。
私、龍が視えるようになっちゃったんだ。




「琴音。
ここから先は私が話をしていくけど
分からないことがあったり質問したいことがあるときは
琴音から聞いてみたらいいよ」

「う、うん。お願い」




「龍さん。おいでくださりありがとうございます。
私は琴音の友人で沙織と申します。
まだ琴音は目覚めたばかりなので
しばらくは私が琴音のガイドも勤めさせていただきます。」



龍さん・・・
ああ、綺麗だな。
怖いと思ったけど
朝日に鱗がキラキラしていて
目も輝いてるし

九頭龍神社の社殿の色なのだろうか

鱗が朱色に光って見える。
なんて美しい存在なんだろう。




私はボーッと龍を見つめていた。




『これから二人で龍を目覚めさせる旅にいくのだな。
やっと私の使命も果たせる時がきて
嬉しく思うぞ』


「ということは、龍さんも一緒に同行してくださるんですか?」

『もちろんだ。そのために九頭龍大神に力を借りようと
私がここへ来たのだ。』



「ありがとうございます。とても心強いです。
お分かりでしょうが、琴音はまだ目覚めたばかりですから
自分がいったい何をしたらよいのか
まったく分かっていないことと思います。
私もガイドしていきますが
龍さんにもお力添えいただけたらと思います。」



龍は頷いて私の方へ目を向けた。




『琴音。やっと私の意思が通じて
こうして話すことが出来た。
ありがとう。』




「はっ、あ、いえ。あの・・・
こちらこそ、赤ちゃんの頃から助けてくださって
本当にありがとうございました」



『お前は本当に輝く愛と光に満ちた魂を持っている。
だからお前の先祖たちも助けたかったのだろう。
本来は人間の生死に私たちが関わってはいけないのだが
龍の玉で包み込み、龍と繋がりを持たせるようにしたのは
天界からの意思でもあるのだ。
ある意味、玉と一体化するために生まれたと言ってもいい。
どちらが先だというのは
意味のないことだからこれ以上説明はしない。』



「あ、そうなんですか。
まだよく分からないことがいっぱいなので
何をどうしていいのか・・・。
沙織に付いていけばいいんですかね?」



『今は、そうだな。
それぞれの場所に行くうちに
徐々に分かってくることもある。
何事も経験しなくては
頭で知っているのと
体験して知るのとでは
天と地ほどの差があるのだ。
だが、使命は使命。
そこに行って龍を目覚めさせるために
何をするのか。
基本的なことは、その者に聞いて行くがよい』




「はい。あの・・・
旅先で色々教えて頂けるのでしょうか。」



龍がふっと笑ったような氣がした。



『すべては経験だ。』




そういうと龍はすぅっと天に昇って消えて行った。




「なんか。凄かったね。」




私はまだボーッとしながら沙織に話しかけた。



「うん?まあ最初はそうかもね。
そのうち慣れるよ。
さ、食べよー!」

と、お供え物をとって食べ始めた。

「ええええ?食べちゃっていいの?」

びっくりして聞く私に

「当り前じゃん。お供え物はその場にいた人たち
全員で食べるのよ。捨てたら勿体ないでしょ?」

そういいつつ、沙織はバナナをモグモグし始めた。

そういうものか~
そういうものよ~

そして私も丸い大福を食べ始めた。
そういえば朝ご飯食べてなかった。
残さず全部食べられそう。




後片付けも終わり
九頭龍の森を出口に向って歩いていると
向かいから観光客がやってきた。
あー、そうか。
沙織が言ってたお人払いって
そういうことか。
終わったから人が来れるようになったのね。



「それにしても・・・」

突然沙織が話し始めた。

「ひゃい?」

私の素っ頓狂な返事に沙織は笑いながら

「あんたも私も、数奇な人生を歩んでるなってさ。
琴音と一体化した龍の玉のことも
私の能力のことも
普通、そんな人生は歩まないわよね」

湖を見つめながら歩く沙織の後ろ姿は
なんだか昨日とは全く違って見えた。



「正直、まだ何をどうしたらいいのか
まったく分かってないけど
ただ、龍がどんどん死んでいくのを
私も黙って見ていられない。
私に何が出来るのか、それも分からない。
でも必要だっていうんだから
やるっきゃないよね!」



私は、ふんっ!と鼻息荒くガッツポーズをしてみせた。



「ぶふっww
ほんと、琴音のそういうとこ
救われるわよー」



「でへ。明るい行動力が
私の専売特許でしょ」



そう言いながら私は沙織の隣に並んだ。






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