8章 欠けたピース

2018年DAYS崩壊の前

2019年12月26日に発表された『検証報告書』は、全体で113ページあり、そのうちのセクハラに関係する記述の一部については、前章で触れた。一方52ページ以降は、ほとんどパワーハラスメントの報告で、さらにそのうちの64ページから80ページまでの17ページという大きなスペースが、1人の派遣社員J氏(『検証報告書』での仮名。以下同じ)の問題の報告に費やされている。

これはセクハラ問題ではなく、『週刊文春』には書かれていないが、『検証報告書』だけに書かれている。ここで報告されているのは、I社員が、社長室秘書として着任した派遣社員J氏に、社長室の盗聴や、社長室の金庫の番号を知らせることや、会社の通帳のコピーや部屋の合いカギを依頼した件で、困ったJ氏が、当時のB編集長と代表取締役であった私に報告したことから発覚した問題だった。

『DAYS』休刊が決まった後、10月末に社長室秘書として派遣社員のJ氏が着任し、会社解散のための整理作業にとりかかった。

デイズ社では、2018年10月末当時、3階の部屋で、編集長のB氏と編集部員K、L氏と、営業のI氏、そして次期編集長として入社したジョー横溝氏、総務の派遣社員、経理の社員が仕事をし、隣室には、雑誌のバックナンバーや発行書籍と、DAYS大賞受賞写真展のパネルが収められた倉庫があった。
横溝氏は、この章の後半で大きな役割を果たすことになるので、仮称ではなく、実名を用いることにする。

4階には私の部屋である社長執務室兼会議スペース、福島の被災児童支援募金とDAYSアクションという2つの救援NGO組織の作業用の机があり、ここにはたまにアルバイトの人が経理や発送作業のために来ていたが、当時は決まったスタッフはいなかった。そのほか隣には小さな部屋があり、広河事務所兼写真パネルの倉庫にあてられていた。なおNGO組織や広河事務所は、組織的にも経理上でもデイズ社とは完全に独立している形だった。時にはデイズ社、広河事務所、救援団体の業務をかけ持ちするスタッフもいたが、その業務は細かく日報に書かれ、出向扱いとされ、月末にはそれぞれが清算された。

謎の依頼

派遣社員J氏は、出勤時に3階で出勤カードに刻印し、4階で働いた。

11月に入って私はB編集長を経て、このJ氏から相談を受けた。聞くと、J氏は3階のI社員から特別な仕事を依頼されたという。

それは前述の、社長室に録音機を仕掛けること、社長室に置かれている金庫の番号をI氏に教えること、会社の預金通帳のコピーを取ってIに渡すこと、社長室の合いかぎを渡すことなどだった。

『検証報告書』によると、広河がJ氏の目の前でストレスを爆発させて怒鳴り散らし、これをJ氏が怖がってI社員らに話したことが発端だとある。

しかしJ氏本人が私に述べたところでは、着任早々、3階の社員たちを訪ねた時、4階での仕事は大変だとI社員たちが話して、広河が怒りっぽいということをJ氏に告げたという。J氏は、彼らと仲良くなるために、「トイレの掃除までやらなければならない」と話したら、それはひどいということになって、同じ広河に不満を持つ人間として、受け入れられたという。

彼女は私に対してこういうことがあったと述べたうえで、「トイレの掃除は仕事に含まれるということを、最初の面接のときに派遣会社職員と広河代表と自分の間で確認し、契約書にもきちんと明記されていたことなのに、I社員らの受けを狙ってこのように言ってしまった。すみません」ということだった。これは私が彼女に問いただしたことではく、自発的に言い出したことで、私は驚いて笑って聞いていた。彼女と私の間で、怒鳴り声を張り上げるという記憶も一度もない。私が日常的に怒鳴るという性格が、『週刊文春』でも『検証報告書』でもこれでもかというくらい頻繁に書かれているが、このI氏ら3人の社員がかなり誇張してそのような噂をまき散らしたということもあるのではないかと私は考えている。

J氏に再確認すると、トイレ掃除は週1回なので、それを契約どおりおこなうことに問題はないということだった。

私が「怒りを爆発」という話は、そういうことが多いとI社員のほうが述べたとJ氏は言う。つまりJ氏が実際に私の怒りに直面したことはないということだった。

しかし怒りの爆発の話を述べたのち、I社員は「何か困ることがあったら、これで録音して記録しておくとあなたの身を守れると思う」とJ氏にペン型の録音機を渡したという(『検証報告書』に記載)。その後、J氏は広河の指示で通帳のコピーをとっていた時に、I氏からコピーをもう一部とって、渡してほしと依頼されたと私に述べているが、それについては社員は否定していると『検証報告書』は報告している。

これが私にとっては、謎だった。金庫の番号や通帳のコピーなども、本当にI氏がJ氏に依頼したのだとしたら、なぜそれが自分の身を守るためなのだろうか。また検証委員会はすんなりと、この話はJ氏の嘘であると判断したのだろうか。J氏は金庫や通帳について繰り返し話してくれ、彼女が書いた『J氏証言書』にも書かれている。

J氏は録音機を受け取ったものの、使わないまま返却し、他の依頼された件もおこなっていないと私とB氏に言った。J氏によるともう一人の派遣社員が「そんなことを引き受けてはだめだ」と忠告したのだという。

当時会社では、K、L編集部員とI営業部員の社員3人が退職条件をめぐって組合を作る動きをみせていた。I社員は入社して半年だったが、会社解散という事情をかんがみて、3年間勤務したとみなした金額の退職手当を要求し、私はこの件を顧問社労士にゆだねていた。

私のデイズ社での最後の年

ここで私がデイズ社で仕事をした最後の年になった2018年という年に起こったことを、時系列で整理しておきたい。

デイズ社が『DAYS』休刊と会社解散を決定した理由の第一は、経営問題だった。

職員の給与は、入社半年の営業部員が21万9000円、4年半の経理部員が28万円、2年の編集部員が26万円、1年半の編集部員が27万9千円、だった。これが不当に安いのかどうか、私にはわからないが、会社ではこのように決めていた。

営業報告を見ると、定期購読者は2004年4月創刊号時点で5243人、2011年当時に10436人まで伸び、そして2017年10月号時点で8882人となり、そこから2018年末時点では8000人台を切るように落ち込んでいた。会社では8000冊を切ると赤信号と認識していた。
そして書店売り上げ数は、創刊号の約7000冊から2018年の数字は8~9月号を合わせた数字が5284冊と落ち込んでいる。

経営状況の悪化のなかで、2018年にはイベントを担当するF社員の退職問題で労組との団体交渉が始まり、また別の新入社員の退職問題が起こっていた。
これらの問題については、機会があれば説明したい。
5月前半に私はトランプ大統領のエルサレム訪問に合わせて、イスラエルと占領下のパレスチナを取材している。その前に中間管理職と社長職の募集を大規模に行うようにと会社の担当者に依頼した。
そして5月下旬に帰国しているが、その時人事関係の問題はより深刻化していた。

この後は時系列で、デイズ社の問題がどのように広がったかを書いてみる。

2018年6月 役員会での広河の社長辞任の意向を受け、会社は新規社長職および中間管理職の募集をさらに大規模に進めた。(ただしこの時は、会社解散は考えていなかったため、広河は代表取締役の職務は継続することにしていた)。同時にそれまで会社の社労士を中心に進めていたF社員の退職・休職問題の話し合いで、F社員はプレカリアート・ユニオンに参加。ユニオンは団体交渉を要求し、街宣車を出すことも辞さないと発表。

7月 7月末から8月初めの、入院と手術を控えたころ、新規社長職、および中間管理職の募集の成果が思わしくなかったたこと、書店営業、定期購読者営業がいよいよ悪化したこと、営業職追加募集がうまくいかなかったこと、さらに組合にきちんと対処できる担当者もいなかったこと、三六協定をめぐる社員側の代表が決まらず、協定を結べなかったことなどで広河は代表取締役も交代する意向を役員に伝える。

8月 7月終わりから8月にかけての広河の手術と入院。その間に行われた団体交渉には、会社側の弁護士が出たが、思わしい結果とはならなかった。

23日に開催された臨時株主総会で、7月に提出されていた広河の代表取締役退任の希望は正式に受理された。そして9月末の次期臨時株主総会までに各方面をあたって、次期代表候補を探すこととし、もし見つからない場合は会社解散の決定を決める。このことは次期編集長として入社していたジョー横溝氏にも伝え、最悪の場合、会社の継続ができない可能性もあるので、今抱えているラジオ番組などの重要な仕事は継続し、すぐに辞めるという判断をしないように相談し、本人の了解を得る。

9月 13日にF社員の退職問題をめぐる労働争議の和解文書をとりかわす。

29日、会社の臨時株主臨時総会で次期代表取締役は決まらず、会社の解散が決まる。ただし労働争議で取り決められた和解金の支払いが終わるまで、正式な和解が決定しないため公にせず、会社役員とB編集長、次期編集長のジョー横溝氏だけに伝えられた。なお社員側の説明として、入社したばかりの横溝氏にも会社側は経過を説明しなかったとされる批判的な記述が『検証委員会報告』には記されているが、実際は前述のとおり、8月の臨時株主総会直後、9月の臨時株主総会直後に、状況報告をしている。

10月 15日に組合への和解金支払いが終わり、広河が社員に会社の解散を告げる。社員への通知の遅れは『検証報告書』では「Fの争議が他の社員に波及することを警戒し」たせいであると書かれているが、これも誤りである。和解は9月の会社解散決定の前に決定していたからである。

24日、会社解散に伴う社員退職説明会、および顧問社労士と各社員との面談での意向聴取。

11月 2日、J派遣社員が、B編集長に、I社員から盗聴、金庫の番号、口座のコピー、社長室の合いカギを渡すという依頼を受けたことを報告。

4日、B編集長は全社員にメールで、「ペン型レコーダーによる盗聴や金庫の暗証番号などの聞き出しや、通帳のコピー依頼などという動きがあると耳にしたが、業務上の理由があるのなら、理由書とともに文書で許諾を求めるようにすべきです」と送った。

5日、 広河とJ社員の面談。

9日、I、K、L社員が、出版情報関連ユニオン(以下、出版ユニオン)の組合に参加し、団体交渉の申し入れを伝える。
その後、J氏は、I社員からB氏の健康状態を揶揄する言葉を聞き、自分も過去に同じような状態だったことをフラッシュバックで思い出し、ストレスが高じているということを、広河に語る。

12日、広河は社員全員に、盗聴の件、金庫番号の件、口座のコピーの件を、名前を伝えず、学校で起こったたとえ話にして伝えた。会社側は事態を把握していることを社員に知らせるためである。

その後J氏は、朝夕の出勤カードの刻印のために3階に寄るときに、3人の社員と顔を合わせるのが怖いと述べたので、本人の希望により、その後出勤カードは4階で本人が書き込んで、私が確認することにした。そして編集長を横溝氏に引き継いだB氏も、4階で会社閉鎖に伴う業務にあたることとなった。
J氏は、帰宅途中のスーパーでI社員から声をかけられたことについても、監視されていると思うと伝え、「耐えられない」とB氏や私に訴えるようになった。広河は自分のためにそれらをメモしておくようにと伝える。

J氏のヒアリングをおこない、彼女に当時のデイズ社の顧問弁護士の森川文人氏に会うように勧めた。弁護士との面会には私は立ち会っていないが、森川氏はJ氏に、見聞きしたことを記録に書き残しておくようにという助言をしている。
その後J氏の状態は悪化し、子どもが学校への行き帰りにI社員からストーカーされるのではないかと不安を訴えるようになった。そして家の近くでもしI社員を見たら、その日のうちに子ども2人を連れて身を隠すとまで訴えるようになった。

17日、J氏は薬の過剰摂取で救急車で病院に運ばれる。

21日、会社の状況はJ氏問題で一挙に想像もできないほど複雑化し、他に時間を割ける人もいなかったため、社長職を広河の妻に無給で依頼し、本人は、私たちのとんでもない依頼を聞いてくれ、デイズ株主総会で、新規社長が決定した。

J氏問題については、広河が経過報告している。株主総会はいつもおこなわれる社長室が社員に盗聴されている可能性があるので、急遽、貸し会議室を借りて開催した。

26日、社長がコンプライアンス室長に決まり、J氏および他の社員のヒアリングを開始。

27日、出版ユニオンとの第1回団体交渉。
ここで3人の組合社員と出版労連傘下の出版ユニオン委員、そして会社側弁護士、そして私の前で、室長は『J氏証言書』を読み上げた。そこには盗聴の依頼、金庫の番号聞き出し依頼、通帳のコピー依頼などについて詳細に記録され、J氏の署名と捺印がされていた。それを弁護士もユニオン委員も確認している。

このときI社員他の2人の社員は弁明もコメントもせず、それについての話し合いは、組合側の要望で、日を改め、会社側弁護士と出版ユニオンの委員の間で話し合われることになった。出版ユニオン委員は、この盗聴騒ぎについてまったく組合員社員から聞かされていなかったとみえ、団体交渉の後で社員と話をする必要があったからと思われる。

12月 7日、J氏から室長へのメールには、「そこまでしててなぜ(証言を)書いたかというと、Bさんの辛さが痛いほどわかり、助けたかった。……そもそもDAYSに入社して、彼らの上司や社長に対する態度や言動は私には理解できませんでした。挨拶をしない、返事をしない、タメ口で話す、なぜそういう事ができるのか、わかりません」(『検証報告書』)と書いている。以前はLINEでI社員に思いやる配慮の言葉があったのに、このときにはあからさまにIら3人の社員への批判が目立つようになっている、と『検証報告書』は書いている。

14日、コンプライアンス室長兼デイズ社長は、J氏やI氏のヒアリングや証言記録をもとに、I氏を1週間の出社停止の懲戒処分に決定。

しかし『検証報告書』は、その処分は誤りであると結論付けている。その大きな理由として、検証委員会は、J氏の証言書には署名や日付がなかったため、本人が書いたものかどうかわからず、証言能力がないとみなした。

さらに第2の理由として、J氏のラインの記録が、I氏に送ったものと、会社に提出したもので異なるということも挙げられている。その結果、『検証報告書』では、社長兼室長や私の証言は無視あるいは否定して報告され、そして3人の社員の言い分だけが支持されている。

『検証報告書』には室長兼社長からの懲戒処分が出た経緯について「12月14日には復職したいというJの意向を前提にすれば、雇用者の安全配慮義務の履行として、Jが働く環境にIを置いたままにしてはならないと考え、(室長は)Iの懲戒処分を急いだ」と書かれている。そしてこの結果「12月14日、デイズジャパン社は、派遣社員を追い詰めたとしてIを出勤停止1週間の懲戒処分及びその期間の給与支払い停止とした」(『検証報告書』)と述べている。

それはJ氏が回復した後に安全に職場復帰できるようにと考えた上の措置だった。I氏はこの申し渡しを拒否した。

私にとって大きな疑問は、『検証報告書』にはJ氏の証言書には署名も捺印もないため、信憑性に乏しいと書いていることだった。

私は驚いた。検証委員会からそのような問い合わせは私には一切なかったからだった。社長兼コンプライアンス室長は要請された書類をファイルで検証委員会に送ったが、署名・捺印がある原文を送るようにとは聞かされていなかった。さらにもしこのことで書類の信憑性が問題になるなら、検証委員会のつとめとしては、なぜ署名や捺印がないのか問い合わせるべきだろう。

これは一連の問題になっている事件のカギになる文章なのだから、調べもしないで「信頼性に乏しい」はないだろうと思う。私もヒアリングでこの文書の話はしていたのだから、私のもとに問い合わせがきたら、当時かかわっていた人々をあたって、すぐに確認できたはずである。

実際にこの『検証報告書』を読んで驚いた私は、当時の関係者に問い合わせた。するとその人のもとに保管されているという返事が、署名・捺印部分のコピーとともにすぐに送られてきた。

さらに『検証報告書』には「労働組合員のIもLも、団体交渉の席で話してほしいと述べていた。しかし実際にはそうした機会は作られず、Iには一度も調査・弁明の機会は与えられないままだった」とある。  

しかし団体交渉で、室長が証言を読み上げた後、彼ら社員は沈黙して話さなかった。調査・弁明の機会が与えられていないとはユニオンも考えていなかったはずと思う。なぜなら団体交渉は、ユニオン委員の許可を得たうえで、録音もされているからだ。その時I氏はこの問題で話すことをしなかったため、この問題はユニオン側で持ち帰られ、交渉の続きは両者の代理人の間で行われることになったのである。

検証委員会はハラスメント問題の担当者が上柳弁護士だとすると、彼による私へのヒアリングは10か月の間に数時間ほどしかおこなわれかったように思う。さらに後半の最も大事な時期には上柳氏からのヒアリングはなかったように思う。ヒアリングの膨大な分量の記述のうち、この問題では全体を知る立場にあった私に対して、検証委員会から問い合わせられた覚えはなく、社員の主張が本当かどうかということも私に確認されていない。

J氏の証言がもし事実ではなかったら、何も起こらなかったことになり、私は思い込みだけで大騒ぎしたことになる。

この「事件」には、盗聴や会社の通帳のコピー、そして金庫の番号まで知ることをなぜ求めたのか、という「動機が何か」という謎が残った。そしてそれを明らかにする一つのピースが欠けていた。それは見つからないまま、事態は闇のままに置かれ、被害者が出ることになった。

それにしても私は、金子雅臣氏という職場のハラスメント研究所所長で、労働環境の問題の専門家が委員長になっている検証委員会が、正規社員の言い分をそのまま信じて、非正規雇用者には冷たかったような印象を抱いている。それは私には大きな疑問であり、検証委員会全体の問題でもあるように思えた。広河攻撃に役立つ部分は大きく取り上げられ、その逆になることは無視されるというのが、委員会の姿勢だったように思えてならない。  

労働問題専門の弁護士として自著もある上柳敏郎委員からは、私は少ない時間しかヒアリングを受けなかったと書いたが、詳しくはどのような体制で仕事が分担されていたのかは知らない。しかし全体を統括する金子委員長も、ハラスメント問題は日本で有数の専門家のはずだった。結果的に『検証報告書』で発表されたのは、非常に雑な調査の結果、会社に不満を抱く人間のみの主張と、この検証委員会の目的である広河批判だった。

12月、退職を希望していたB編集長に代わり、ジョー横溝氏が新編集長となった。

そして『DAYS』2月号(1月20日発売号)の編集作業は、編集部員K、Lの2人と新編集長ジョー横溝氏によって進められた。この3人およびI社員は、1月13日に馬奈木弁護士が会社によって解任されたことに大きな不満を持ち、その後に誕生した新しい検証委員会には協力しないと返答している。やがて社外に出た社員たちは「DAYS元スタッフの会」を設立し、広河から被害を受けた人は情報を寄せるようにと呼びかけた。

文春の田村記者と、元社員たち、さらにネットニュースの『文春オンライン』、『Buzz Feed Japan』、さらに『週刊金曜日』が、広河及びデイズ社の会社組織・役員に対する批判を続けた。それは広河のハラスメント体制を育て、被害を見逃し、もみ消したという理由だった。田村記者は広河がいなくなったデイズ社に対して、徹底的な攻撃をおこなった。

そしてJ派遣社員の事件は、多くの謎に包まれたまま葬られ、『検証報告書』は、社員の報告を中心に書かれることになった。これはいわば「欠けたパズルのピース」として私の心の中に謎を残した。盗聴・金庫の番号・通帳のコピーなどの要求だけでなく、田村記者の激しいデイズ批判、馬奈木弁護士の動き、「元社員の会」を設立する社員たちの動き、検証委員会のこの問題の取り上げ方などが理解できないまま残った。

2019年1月20日発売の『DAYS JAPAN』2月号は、表紙に大きな文字で次のように書かれた。

広河隆一「性暴力告発記事」を受けて 
謝罪と私たちの決意

そして、最初のページには、次のように書かれた

広河氏に聞き取りを行った結果、(『週刊文春』)記事内容の多くの部分が事実である可能性が高いことが確認できつつあります。

そしてジョー横溝編集長、編集部員の名のもとに次のような言葉が書かれている

全ては真相の徹底究明から始まります。

しかしこのとき、「真相の徹底究明」の一部を明らかにする「欠けたピース」が2年後に姿を現すことになるとは思ってはいなかった。

発見された「欠けたピース」

週刊文春の発売と私の解任から2年以上経過した時、思いがけないことが起こった。

欠けたパズルの一片を、最後の編集長になったジョー横溝氏が明らかにしたのである。

2021年2月に、ジョー横溝氏の一連のユーチューブ番組が公開されているのを目にした人がいた。そのことが私の耳に入ったのは、5月になってからだったが、それは「The Dave Fromm Channel」で、DAVE氏と相棒となるジョー横溝氏との掛け合いトーク番組「ジョー横溝の元祖やっぱり言えない話」についてだった。

この番組のVol90からVol94までの5回にわたって、私とデイズジャパンに対する告発を横溝氏がおこなったというのである。

ユーチューブの番組のVol94を見ると、いきなり横溝氏が、私を「レイプおじさん」と連呼するのが耳に入った。隣に座るDAVE氏もこの言葉を用いて、横溝氏に広河逮捕の協力をすべきとたきつけている。

横溝氏の話には、事実関係の単純な間違いが非常に多いが、今それには触れない。

このVol94で、横溝氏は、デイズ社の社員が会社情報を週刊文春の田村記者にリークして収入を得ていた可能性について、重要な証言をしている。

このことを横溝氏はデイズ社の顧問弁護士だった馬奈木氏から伝えられた、と番組で述べている。つまり社員が文春の田村記者から金銭を受領し、社内の情報を流していたというのだ。横溝氏はこれは社員規定違反だが、巨悪(広河)を倒すためだから、あまり問題にすべきではないというような話し方をしている。

ジョー横溝 DAYSの社員が文春記者に情報をリークしている可能性が出てきたんです。
それ自体は広河がやってきた悪い事をリークしているんで構わないっちゃ構わないんですけど、一応社内の決まりで、社員は基本的には、どこの会社もそうだと思うんですけど、社内規定でそういうものを他社に情報をリークしてはいかんというようなことは決まっているんですね。
特に僕らジャーナリズムは情報を誰から聞いたというようなことを言っちゃいけないということも含めて、仕事上で知り得たことは、外に出しちゃいけない、というのもあるんですけど、ただ今回は巨悪を倒すというのがあったんで、それはまたやむを得ないだろうということもあったんです。
DAVE あと会社自体、もうなくなるというのがわかっていたんでしょ?
ジョー横溝 ただね、そこでお金をもらっていた可能性があるということになって、そうすると弁護士さんもちょっとさすがに動きづらいと。それはそれで、もし問題になったら、この社員を弁護士として訴えることになる。弁護士としては、この社員をつぶさなきゃいけないことになる。非常にややこしいことになっています。
経営陣と社員はうまくいっていなくて、社内でもお金をもらってやり取りしていた可能性があると、弁護士としては経営陣に雇われているので、この社員をどうしても処分しなければならなくなると、僕に言っていました。
そうなると社員を解雇しなけりゃならなくなると。この社員は僕より過去からいたので、ある程度の情報を知っているから、この社員の情報を切っちゃったら情報量も低下するし、外から見たら何やってんだこの会社と、混乱を招くんですね。
それはどうしても広河の真相究明以外のことをやらなきゃならなくなるから、そのような状態を避けたいとして、フリーズしたという状況がありました。

(以上 ユーチューブより 保存済)

つまり欠けていたピースには、創刊以来およそ15年間『DAYS JAPAN』で校正を中心に働いていた『週刊文春』の田村記者が、私のスキャンダル情報を集めるためにデイズ社の社員に金銭を支払って、社内情報提供を依頼していたということを証明するものだった。

こうして、金銭を受け取ることを了承した社員が、会社情報を集め、そのために派遣社員J氏に、私の社長室の盗聴と、通帳のコピー提供と、金庫の番号を知らせるように依頼するところとなったと考えれば、謎だった「動機」が姿を現す。通帳や金庫番号は、会社の運営上の犯罪的行為をあぶりだすためだろうか。

流れから想像するに、田村記者の要請とそれに応えて情報を渡していたことについては、社員たちの方から馬奈木顧問弁護士に報告と相談をしたのではないかと思える。しかし馬奈木弁護士はそれを会社には知らせず、ジョー横溝編集長だけに伝え、その後は別の事情で1月13日に解任されることになったと考えられる。

横溝編集長と馬奈木弁護士は良好な関係にあったことから、このユーチューブでの横溝氏の証言は正しいと考えて間違いないだろう。ただ彼はこれを明らかにすることが、馬奈木氏にどれだけ大きなダメージを与えるかを考えなかったのだろうか。そして彼はことの重要性もあまり理解していなかったのではないか。

デイズジャパンの顧問弁護士として弁護士料を受領していた馬奈木弁護士が、社員によって社内情報が金銭授受をともなって他社にリークされていた事実を知りながら、会社に告げなかった問題は、法的にはどのような問題が生じるのかについて、私にはわからない。それよりも横溝氏は番組で耳目を引くことの方が大事だったのだろうか。彼の他の発言を聞くと、その可能性も高いと思わざるをえない。

検証委員会が問題にしなかった盗聴事件は、これで謎であった「動機」のピースが得られたといっていいと思う。検証委員会は社員たちの言い分を正しいと頭から判断したが、私や室長の発言、そしてJ派遣社員の証言書の方が結果的に正しかったことになる。録音機は、私と会社の動きを『週刊文春』に売るために渡されたものだった。それらは『週刊文春』の記事の中で証拠として用いられることを目的としたのだろう。特に私がJ派遣社員にセクハラを働くと期待して、その証拠が握れると思っていたのかもしれない。しかしそうしたことは起こらなかった。

また、3人の社員は「DAYS元スタッフの会」を作って、新検証委員会には非協力を宣言し、その理由を馬奈木弁護士解任に抗議してのことだと公にしたが、実際はこの『週刊文春』田村記者への情報売り渡しと、J派遣社員入院問題が表になるのを恐れたから、それらを検証対象にもする可能性のある検証委員会へのヒアリング協力は、どうしても避けたかったのではないかとみることもできる。

2019年1月13日に会社から解任された馬奈木弁護士にとっては、解任はある意味で幸いなことだったかもしれない。このことが後になって知られることになったら、より大きな問題になっただろうと想像されるからだ。彼の解任については、『文春オンライン』、『Buzz Feed Japan』、『週刊金曜日』などのメディアが、猛烈にデイズ社役員を批判した。しかしすべての筋書きを描いていたのは田村記者のように思える。それを自覚していたからこそ、余計に激しく、田村記者は、デイズ社による馬奈木弁護士解任を攻撃したのではないだろうか。それは会社の主張や動きを封じることにもなった。

なお田村記者がデイズ社社員に金銭を渡して情報を手に入れていたことについて、直接関係があるわけではないが、元『文藝春秋』と『週刊文春』の編集長を務めた木俣正剛氏は自著『文春の流儀』(中央公論社)で次のように書いている。

情報提供でいくらもらえるのか

私は女子大で教えていますが、「週刊誌にネタを売り込んだらいくらになるでしょう」と質問すると、たいてい10万から30万といった答えが返ってきます。
社会人相手の講演でもだいたい同じような金額を想像されているようです。正直言いますが、一銭もお支払いしていません。
……ですから、編集部では、最初に「情報をいくらで買ってくれるか」と聞かれた段階で、「情報には金銭は支払えません」と答えます。

『週刊文春』発売から2年以上たって表に出たこの話で、話は思いもよらぬ方向に行ったが、この事件の噂の拡大など多くのことを見れば、かなり前に対応はとれたことが多かったはずだった。社員の動きから感じていたことも、通常の会社であれば、きちんと対処ができていたはずで、その場合は被害者が出ることを避けられたと思われた。しかし背景にあるのは、こうした動きも把握できず、きちんとした対応もできなかった私がもたらしたもので、責任は私にあると言える。

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