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RPAを導入した後に知ると後悔する基本的な考え方

こんにちは!たつみです。

今回のテーマは、パソコン業務を自動化するツール「RPA」の導入と業務改善についてです。中小製造業の方だけでなく、広くRPAをあまり知らない方、検討されている方に読んでいただければ幸いです。

私は昔システムコンサルタントをやっており、企業がツールやシステムを導入する際の考え方や進め方にはものすごく強烈に問題意識を持っています。先日も少しシステムに関係する仕事をしましたが、私がシステムコンサルタントをしていた20年前と業界に何ら進歩がなくて呆れ果てていました。

RPAを題材にその問題意識を整理して書きますので、RPAを知りたい方や導入を検討している方、間接業務の効率化をしたい方には特にお役に立てると思います。

RPAとは何?なぜ必要?

RPA(Robotics Process Automation)とは、ソフトウェアでパソコン業務を自動化することです。ほぼ直訳すると「ロボットによる業務自動化」なので、最初、私はもっとゴツゴツしたロボットが何かしてくれるのかとイメージしました笑。

イメージですが、例えば交通費精算の金額をチェックするとき、「エクセルにある申請金額」と「ネットで検索した金額」を突き合わせて「結果の○×をエクセルの申請金額の右に入力する」といったことを自動でやってくれます。

つまりRPAでできることは『定型単純PC作業をソフトウェアロボットで自動処理する』です。AIと組み合わせて非単純作業をロボットに処理させることもできますが、AIも万能ではなく初期や小規模のRPAでは考えることは少ないので、シンプルにするためRPAは定型単純作業を対象という狭義の定義で話を進めます。

RPAは単純で複雑膨大な業務に効果を発揮します。銀行業務は標準化された同じことの繰り返しが多いです。そういったところでは膨大な業務量をロボットが処理できるので、非常に大きな効果が出ます。

もちろん中小製造業でも十分な効果はあります。伝票チェック、勤怠管理、受注情報の転記、月次まとめ資料の作成、ネット上のデータ収集など様々な業務がRPAの対象となります。その結果、こんな効果が得られます!

業務時間の削減
待ち時間の削減
ストレスの削減
ヒューマンエラーの削減
ネットからの自社・他社情報収集

会社や業務の規模にもよりますが、一人分ぐらいの業務はすぐに減らせる可能性があります。あくまでも可能性であることにご注意ください!注意点は後ほど説明します。

こういった効果があるので、私は大企業はもちろんのこと中小企業でもRPAは導入すべきと考えます。生産年齢人口はピークの1995年から2050年には4割減るので人の採用がどんどん難しくなります。単純作業のようなムダな仕事に人を割いている余裕はないですね。

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またこれが一番の理由ですが、製造業はものづくりに集中すべきです。飲食店は調理とサービスに集中すべきです。専門的な業務に集中すべきなので、PC作業なんてなくすべきです。『本業に集中するためのムダな業務の削減』がRPA導入の一番の理由です。

RPAの特徴

RPAロボットは複数あります。物理的なロボットを色々な会社が開発しているように、RPAロボットも色々な会社が開発しています。それによりますが、一般的なRPAの特徴を簡単にまとめます。

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①システムの専門家でなくても使える

ロボットの制御プログラムを作るような難しさはありません。処理のフローチャートを作れば動いてくれます。むしろwindowsやブラウザの動きを知っている方が大事です。

②複数のソフトウェア横断で処理できる

最初の方に書いた交通費チェックの例のように、エクセルとブラウザなど複数のソフトウェアをまたいだ処理を自動化することができます。

③今使っているソフトウェアをそのまま使える

基本的には、今使っている表計算などのソフトをそのままで自動化できます。ただし、RPAロボットは複数の会社がそれぞれ開発しており、RPAロボットによって使えるソフトが決まっています。厳密にはロボットの対象範囲である限り入れ替える必要はない、ということになります。

④比較的低コストで導入できる

導入はシステムの専門家でなくてもよく、最初はRPAベンダーのアドバイスを受けるにせよ、自社で設定することが可能です。費用はロボットによりますが、NTT研究所が開発した国産シェアNo.1のWinActorで年間90万円、それより安いものもあります。人件費を考えると安くできる金額ですね。

本題:RPAは業務改善が前提!のはずだが・・・

前置きが長くなりましたが、ここが本題です。

何度も言いますが、RPAを使った業務の効率化は、本質的には業務改善をして業務をシンプルにし、本業に集中することが重要なのです。RPAは単なるツールで使い様なのです。

ということを考えたとき、RPAを導入しようとしているユーザーは業務改善が前提であることを理解しているでしょうか。ちゃんと普段から業務改善をやってますでしょうか。業務のシンプル化・標準化しなければ自動化なんてできませんし、一度自動化したら終わりではなく環境が変わったりさらなる改善で業務そのものをなくすなど継続的に改善は必要です。この積み重ねが継続的イノベーションです。また組織風土を見ても、業務を変えることをあまりやっていない組織に、大きな変革を起こすのは至難の業です。今後大変革が必要となったときに、改革が間に合えばいいのですが。業務改善がツール頼みになってませんか?と聞きたいところです。

またRPAを推奨推進している人(ベンダーなど)は、どうでしょう。導入前の一般的な営業では、前項で書いた特徴をアピールし、多少のデメリットは伝えつつも導入のステップの説明をしてきます。で、一般的な導入のステップは「RPAの評価→パイロット導入→拡大展開→運用」となっていて、RPAの評価とパイロット導入の中に「業務分析」や「対象業務の決定」が入っています。。。。。。。。肝心なところが抜けていることに疑問に思い、理由を考えて呆れました。

RPAは、元々アメリカで生まれた概念ですが、アメリカでは改善して業務をシンプルに標準化することが前提になっています。例えば得意先ごとに見積書のフォーマットが違うとか、注文が相手先のフォームでFAXされる、といったことは基本的にありません。「海外は融通が利かない。日本は親切」と言う人がいますが、自社の視点で見るとシンプルに標準化しているのです。

海外で当たり前のように実践されているシックスシグマですが、シックスシグマがISOに組み込まれて9年です。海外ではシックスシグマの改善件数やリーダーの人数などがKPIになって評価されています。海外では、こういった業務改善・改革のプラットフォームがあり、RPA導入後もそのプラットフォームはそのままなので業務は改善され続けます。

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さらに、海外でのシステム導入は、ベンダー主導ではなくユーザーのシステム部門主導が基本です。ベンダーはシステムのプロで業務やビジネスのプロではないからです。つまり、ユーザーが業務を改善し、システムの構想を考え、そしてシステムのプロであるベンダー任せるという役割になっています。日本では、ベンダー任せでシステムを導入し、システム開発が失敗するとベンダーのせいにする文化なので、そもそもシステム導入の背景が全く違うです。

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こういった前提の違いを理解せず導入・運用のステップを出すベンダーとは付き合いたくないですが、残念ながらちゃんとしたベンダーは皆無と思っていいと思います。ベンダーも色々RPAを導入していたり運用を見ていると業務改善の必要性に気付くところもあるのですが、基本的に業務改善のことは口頭で回答するものの積極的には関与しません。なぜなら業務改善は儲からないからです。業務改善の支援は開発より投入人数が少なく、その人材育成は大変です。単価は効果ではなく工数で決まりますが、ベンダーなので安く見られます。さらに業務改善がうまく進まないリスクも多々あります。その上RPAの導入が遅くなるとまとまったお金が入るのが遅くなります。顧客満足は上がっても儲からないという微妙なサービスになるので、業務改善を支援するベンダーは皆無に等しい状態になるのです。

<業務改善をベンダーが提案しない理由>
・少人数しか関与しないしレバレッジ(拡大)しない
・改善効果を出すのは大変でリスクが大きい
・先に改善するとRPA導入(まとまったお金になる)が遅くなる

私もRPAベンダーなら正直避けます。全くスキルやコンピテンスが違うことを儲からないのにやるのは経営者としてどうかと思いますので。もちろんそこで工夫をして顧客のために動きますが、自社でやるより提携などを考えますね。

業務改善を前提としたありたいRPA導入のステップ

では、業務改善を前提としたRPA導入がどうなるか、考えてみましょう。

私は顧客に改善や継続的イノベーションを文化や共通言語として導入するプロなので、その視点からステップイメージを書いてみます。業務内容や改善度合いなどによって変わるので、参考までにしてください。

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①間接業務の効率化設計

基本的にはさっさと導入するのですが、最初にRPAに限定せず業務効率化の設計を考えましょう。これをやらないと「なぜRPAを導入するか」を見失って、しばらくするとうまく行かなくなりますし、個別最適となり全体を見通した最適化ができません。さらには、業務効率化を設計する中でRPAと業務改善をどうしたいのか考えることが大切です。魔法の杖はないので、どう自社を本業に集中させるか、どう改善を進めて業務効率化するか、日頃からマネジメント層が考えていることが効いてきます。

RPAとは異なり余談ですが、プロセスマイニングという考え方・ツールがあります。これは、業務プロセスの処理パターンをイベントログなどの蓄積により可視化・分析して改善ポイントを特定する、プロセス改善を支援するものです。こちらは今のところ大企業向けですが、全体最適の概念にはなります。

考えてばかりでは時間がもったいないので、できるだけ早く次のステップに進みます。

②間接業務の見える化

ここでは、大まかに「1)間接業務の全体像と内容を把握して改善の方向性を決定する」「2)RPAやクラウドなどのツール候補を整理して何を使うか仮決定する」の2点を実施します。

具体的に1)では、間接業務にどんな業務があるのか、その工数や必要性、改善の余地、改善の方向性を、業務一覧に大まかな工数などを書き込んで把握します。全体像はプロセスマップで把握します。

並行して2)では、使う候補のRPAやその他ツールを調べ、目的や自社環境への適合性やコストなどを評価して、何を使うか決めます。この段階からベンダーなど外部との会話は始まります。

③RPA導入計画の立案

「RPAの機能を検証しながらとりあえず使ってみる」を前提に、ベンダーを決めて、とりあえずの対象業務を決めます。合わせてRPA導入のコアメンバーへRPAのトレーニングを開始します。最終的に自社で運営するための準備開始です。

また、業務改善について仕組みに出来ていない場合はこの段階か、その前の②からコアメンバーへ業務改善のトレーニングを実施するといいでしょう。RPAより業務改善の方が重要です。業務改善の方法論は、以前の私の記事も参考になると思います。

④RPAトライアル実践

まずは1つでもいいので、すでに標準化シンプル化されている単純PC業務を選んで、RPAロボットを作成してみます。とにかくここは「まずは使ってみて効果のほどを実感する」ということができればいいです。

具体的には、改善前後のプロセスマップを書いて、改善前の業務工数をざっくり把握しておきます。そして実際にRPAロボットを作成して使用開始します。改善後の工数も把握して効果を確認します。簡単な業務であれば数日あれば十分にRPAロボットができて使用開始できます。

⑤業務改善とRPA導入範囲の拡大

ここからが勝負です。ベンダーに協力してもらえば既に単純化されている業務は、サクッとRPAにできることが多いです。ここからは業務のシンプル化のための改善が始まり、また自力でのRPAロボット開発を具体的に準備し始めます。

RPAは個別最適になるリスクがあるので、ちゃんと業務の全体像を押さえながら改善をするには、トレーニングが必要です。将来的には一度RPA化した業務も改善の対象になります。自分では自分の悪いところは見つけにくいので、業務改善のプロからトレーニングとアドバイスを受けることをオススメします。もちろんこれも自律・自立することを視野に入れてプロを選びます。

余談ですが、業務改善のプロを選ぶ視点をいくつか書きますので参考にしてください。

・自分でコンテンツを持っている(自分のノウハウをまとめて伝えられる)
・「先生」ではなく(指示ばっかりの人が多い)「伴走者」
・大手企業を定年退職してコンサルを始めた人は注意(大手の仕組みの中でしか活躍できない人が多い)

そして、業務を改善によってシンプル化してRPAを導入することを繰り返します。

⑥業務改善の定着とRPAの運用

業務改善を通常の業務で、業務が変わることを普通のこととして受け止められる風土にするため、色々な制度の見直しを始めます。具体的には、業務改善やRPAのトレーニング範囲を広げたり、定例業務の中に改善活動を組み込んだり、改善実施を研修制度や評価制度に反映させるなどを検討し始めます。

また、簡単なRPAを導入し終えた後の業務改革の設計も考えます。OCRやAIなどと組み合わせたRPA、RPAロボットを導入しない業務の仕組みを作る、業務改善をして減った業務量をどこに投入するか検討する、といったことも行います。

ここまで来れば自律・自立が見えてきます。

まとめ

私は、本業に集中し、デジタルトランスフォーメーションの第一歩を素早く踏み出すために、RPAは早く導入すべきと考えています。しかし業務改善を考えずにRPAを導入するのはやめるべきと考えます。

甘い言葉に誘惑されず、目的を見失わず本質的に変革して成長するために、業務改善を主体に考えましょう。

参考:RPA導入の落とし穴

最後に、RPAの細かな点も含めた落とし穴を記載します。RPAのいいところは色んな人が勝手に教えてくれます。RPAに対する誤解を減らすために書いていますので、ここもあくまでも参考までにしてください。

①RPAには対象範囲の制約条件があり、万能ではない

ブラウザでしか動かないロボットや基幹システムでは使えないロボットなど、使える対象となるソフトウェアなどの条件があります。PCでやること全部が対象となる訳ではありません。また「FAX読み込みを自動化した」という話が事例として出ていますが、OCRという別の仕組みを取り入れているのと、かなり手間暇かけて文字の読み取り機能を学習して実現しているので、中小企業がやるのは今のところ難しいと考えた方がいいです。

②RPAロボットにもミスはある

厳密に言うと人と同じようなミスではなく、結果的に間違うことがあるということです。例えば、ブラウザの取得データの判定を画像認識で行うことがあります。ブラウザの表示速度が遅かったり、画像の位置が大きく変わると認識できなくてエラーになります。

③個別最適になりがち

全体を通してみるともっと大きな改善ができるところを部分的に自動化しようとしたり、既に自動化したのでこれ以上の改善をしないようになりがちです。

④部分的な導入となり、効果が少ない

部分導入になりすぎていて、実質的にあまり大きな効果がなかったりすることがあります。自社で覚悟を決め、導入体制(責任と役割)を明確にし、導入の計画・実行をトップがマネジメントしないと展開が進まなく、結果的に部分導入になります。また業務改善をあまり考えていなかったり改善できなく、少ない業務にしか導入できないこともあります。

⑤自律・自立できず、いつまでもベンダー頼み

ちゃんと担当者を決め、トレーニングし、開発だけでなく運用管理も実践させて育てなければダメですし、その担当者をバックアップするマネジメントや他部門も重要です。

RPAは手軽なもので自社でサッとテストしたりできることが大きな特徴です。それなのにコストをかけてやり取りの手間もかけてベンダーに頼っていると効果も思うように得られません。

一度自律・自立した後は、また改めて運用をアウトソースするなどすればいいと思います。そういった次の一手を考えるためにも、自社運用を目指しましょう。

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