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馬と人が作る、湖の再生に向けた森の道プロジェクト


霞ヶ浦再生への道作り

霞ヶ浦流域では、水源となり湖の健全な水循環を支えている森林の保全が喫緊の課題となっています。

流域に占める森林の面積は2割程度しかなく、霞ヶ浦の保全や再生を図っていく上で、これ以上の森林の減少は避けなければなりません。

現存している森林の多くは、長年人の手が入らず、薮化が進み、里山の生物多様性が失われ、獣害の増加、防災や防犯といった観点からも問題となっています。

人の手が入らず荒れてしまった森・里山

霞ヶ浦の再生には、森林の広域的な保全再生が不可欠。

 私たちは、霞ヶ浦流域に位置する牛久市を拠点にして、広域的な森林保全再生の実現を目指し、本プロジェクトを立ち上げることとしました。(牛久市は、霞ヶ浦や牛久沼の再生を目指して1995年から始まったアサザプロジェクトの活動拠点でもあります。)

本プロジェクトの拠点・茨城県牛久市島田の里山(霞ヶ浦水源地のひとつ)

森林内を縦横に覆う忘れられた里道

霞ヶ浦流域に現存する多くの森林内には、かつて里山で暮らしていた人たちが使っていた里道(赤路)が縦横に走っています。しかし、それらの里道の多くは、森と共に藪に埋もれてしまっています。

森の中を縦横に走る昔の里道(赤路)

里道の復活を通して広範囲の森林へアプローチする。

私たちは、森林への流域レベルでのアプローチを実現するため、まず、これらの里道の復活を行い、馬と人が森とふれあい、手入れに通う道にしていきたいと考えました。

現在行われている里山保全再生の取り組みの多くは、特定の区域(点)に限られ、広域への面展開の実現が課題となっています。

里山(森林)の保全再生は、生態系レベルや流域レベルの取り組みとなるよう広域的面的な展開を実現させていかなければ、実効性は期待できません。

森林内の里道の復活を通して、人々が広域の森林に関わる機会をつくり、生態系レベル・流域レベルでの森林保全再生へ向けた社会のインセンティブを醸成していきます。

ボランティアを主体に人や馬が通れる道を作る。

具体的な取り組みとしては、ボランティア活動を主体に草刈りや竹の伐採を行い、里道を復活させ、土道を荒らしてしまう車両やバイク等の通行を原則行わず、馬による通行をベースに森林内を移動し、復活させた里道を軸に、周辺の荒廃した森林の整備を進めていきたいと考えています。

ボランティアによる放置竹林の整備

プロジェクトによって発生する竹材や間伐材等の森林資源を活用する。

作業より生じる間伐材や竹などは、市内の事業者でチップにしてもらい、ボイラーなどの燃料として活用し、二酸化炭素削減に繋げていきます。
拠点となっている牛久市島田にあるアサザの古民家では、竹をそのまま燃やし、ストーブや竈やボイラーで活用しています。

切り出した竹をボイラーで活用

森林に馬を導入することで得られる多面的な効果

木材や竹等の運搬には、馬を使います。

また、馬を林間放牧することで、森林内の藪や整備後に繁茂する草や笹を抑えていきます。

森林の整備を行い、藪を無くすことは、農地への獣害の低減につながります。

大型の動物である馬が森林に入ることで、イノシシやハクビシンなどの生息拡大・獣害の拡大を抑える効果が期待できます。

馬糞は、堆肥化してこのプロジェクトに参加する有機農家で活用してもらいます。

森に侵入する放置竹林は害獣の棲家にもなる。

広域の森林をきめ細かに保全再生していくために。

健全な水循環を維持する上で保全再生していかなければならない森林は、一部に留まらず広域になります。広域での森林保全を実現していくためには、人による力では限界があります。しかし、大型の機械などを導入すると、里道が荒れてしまったり、自然環境への影響も大きくなる恐れがあります。

霞ヶ浦の再生につながる広域かつきめ細かな森林保全を行なっていく上で、馬の導入は極めて効果的だと考えます。

里道を地域の資源として活用する。

車の轍の無い土の道を馬と歩きながら広大な森を散策するトレイルとして活用することも可能です。美浦のトレセンをはじめ、馬関係の牧場などが多いこの地域に、このようなトレイルを作っていくことは、自然環境保全の意味に加え、新しい乗馬体験を提供する新たな観光資源としても有効だと考えます。

森林内の里道をトレイルにして、馬たちとのんびり散策する。

生物多様性保全の広域的かつ計画的な実施。

藪化した森林内に里道を再生することで、帯状のオープンな環境が創出され失われていた生物多様性を徐々に再生していくことができます。オープンな環境は、トンボ類(ハグロトンボ、オオシオカラトンボなど)や野鳥(フクロウやシロハラなど)等が利用するようになり、日光が当たることで林床植物の再生も促せます。

藪化した森林内に帯状のオープンな環境を広域に創出することで、生物多様性の再生ポテンシャルの高い区域を抽出することができます。

そのように抽出された区域を優先的に再生していくことで、広域での生物多様性を効率よく効果的に進めていくことができます。

藪を取り除いた後、林床に陽が当たると様々な植物が復活します。

霞ヶ浦流域展開を目指すモデル事業として。

本プロジェクトでは、霞ヶ浦流域各地での展開を想定し、そのモデルコースとして、霞ヶ浦に流入する小野川流域の牛久市東部の小坂町から島田町(約5キロメートル)にかけて広がる森林地帯での実施を計画しています。

ボランティアによる作業で里道を復活させていく。

作業は、ボランティアをベースに、市民や企業など幅広く募集します。また、学校の体験学習の場とします。

ボランティアは手作業を基本に、講習を受けたベテランには刈り払い機を使ってもらいます。

子どもから大人まで参加できます。

参加者の達成感が得られる仕組みづくり。

参加グループなどにそれぞれ整備をする里道を担当してもらい、達成感を得ながら取り組んでもらいます。

里道の再生作業は、特に危険を伴うのものではないので(霞ヶ浦流域の大半は平坦)、地域の学校教育の一環として、生徒に参加してもらうことができます。

アサザの古民家を拠点に、小中学校の生徒による里山の整備作業を体験する学習が実施されています。

子ども達の体験学習

馬と人の協働の輪を広げていく。

プロジェクトの実施にあたっては、馬の関係団体(近隣の乗馬クラブ、美浦トレセン、JRA、市民団体、農業者、行政、自治会、森林所有者などによる協議会(例 馬と人による霞ヶ浦流域自然再生協議会)を設置して、必要な人材や資金の確保を図っていきたいと思います。

              認定NPO法人アサザ基金  代表理事 飯島 博

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